報告-11の月、7日、1枚目
新しい仲間と街へ
翌朝、弱い朝日がカーテンの隙間から部屋に差し込み、自然と目が覚めた。
「やっぱり夢じゃないなぁ。この世界で生き残るしかないんだ。」
サクラは起き上がり、愛くるしい猫様と机の上の宝石を交互に見つめ、自分の人生を振り返る。
あの素晴らしくもろくでもない人生が終わり、この不可思議で美しい世界での人生が始まった・・・なんて、どこかの小説で読んだ気がする、と。
サクラが背伸びをしている間に、ペアンがウィスカーを起こした。
人型に戻ったウィスカーは小さく頷く、今日は曇りなのであまり浴びられなかったようで、眠そうに目をこすっている。
日光と眠気の関係は良く分からないが、日の光を浴びられるときはしっかり浴びて頂きたいとサクラは思う。
コンコン
身支度の後、ウィスカーが用意してくれた紅茶を、一緒に飲んでいるとドアをノックされた。
「・・・・失礼します。準備は出来ましたか?」
執事姿のスタンツェさんが扉を開けて入ってくる。
「おっす。よく寝たか?」
スタンツェの後ろの廊下から、ピンクブロンドの短髪にオレンジ色の瞳の青年が顔をだす。
「おはようございます。えっと、・・・ゴッセさんですか?よろしくお願いします。ぐっすり眠りました」
「あぁ、俺様がゴッセだ!今日は俺とアドソンで街に出るから、一緒に行くぞ!」
スタンツェとほとんど変わらない背丈で、アドソンと同じ騎士服を纏っており、快活な青年という印象だ。
「はい、お願いします」
もう一度頭を下げたサクラに、スタンツェがローブと、ノートとガラスペン、インクが入ったバッグを渡してくる。
「今回は休みではなく、仕事として街に出てもらうことになります。貴方の目から見て、気になることを記録してきてください」
「はい・・・どこか注意してみておく場所、人、物はありますか?」
「それはアドソンたちに伝えてあります。貴方はありのままに観察してきてください」
「はい。ではよろしくお願いします」
ゴッセに着いて厩舎に向かう。
流石は騎士団を抱えるお城なので、ずっと遠くまで厩舎が並んでいる。
迷いなく歩いていくゴッセに遅れを取らないように小走りする。
「お、おはよう。よろしくなー。」
辿り着いた先ではいつもの騎士服姿のアドソンが、のんびりと馬の毛づくろいをしている。
どうやら乗馬で移動するようだ。
前の世界では馬車も馬も乗ったことがないサクラは、ゴッセとアドソンに説明する。
アドソンと乗馬することになったが、はたとサクラは動きを止める。
こちらはフードを被っているとは言え、ワンピースなのだ、大股開いて馬の背に乗るのだろうか。
じっとサクラを見つめるアドソンの視線に気づき、馬の上に乗ったアドソンを見上げる。
手を伸ばされたので、思わず手を握ったら、体が浮いた。
引っ張られたというか、物理的に浮いた。ふわりと物理的に。
何だ?と思う間もなく、サクラはアドソンと馬の頭部の間に横向きに座っていた。
瞬きを数回しながら、思考をフル回転させるサクラ。
――――あれですよ、転生物とかお姫様系の話に出てくるベタな展開ですわー、自分が経験するとは思わなかったですわー。こっ、これって恋芽生えちゃうやつですかっ。
などと、考えている間に、顔が熱くなる。恐らく周りから見たら激しく赤面しているのだろう。
その隙に座っていた馬が、立ち上がる。
――――えっ、立ち上がった途端に二階建てより目線が高いんですけど、どういうことですか?
いや、高さがありすぎて怖くて、恋する余裕とかありえないですね・・・。
赤面から、真っ青になるレベルで怯えたサクラは、思わずギュッとアドソンにつかまってしまったが、よく見たら胸倉をつかんで首が締まるレベルだったらしい。
ふと顔を上げたサクラは、首が締まって顔色が少し悪いアドソンを見つける。
「ぅああああ、すみません・・・・悪気は全くないんですっ」
「ゴホっ・・・まっ、まぁ問題ないから良いよ。あ、じゃぁ今日の質問をしても良いかー?」
「あ、はい。今はメモが出来ないので、後でメモをしておきます」
「じゃぁ今日の質問、一つ目。サクラの好きな食べ物は?」
気を紛らわせようとしてくれるのだろう、アドソンから質問が出てきた。
サクラはこの二日間で沢山の単語を呟いていた。
どうやらこの世界にないものは、イントネーションやアクセントがおかしくなる。
そして、サクラの大好物の濃いミルクティーは発音がおかしくなる単語の一つだった。
「ロイ・ヤール・ミルク・ティ―と言いまして、紅茶の飲み方の一つです。茶葉を牛乳で煮出します。はちみつやお砂糖を入れて、甘くて優しい濃い味のミ・ルク・ティーの一種です」
「へぇ、メッツェンが気に入りそうだな。たぶんこの世界には一般的じゃない飲み物だから、戻ったら作ってよ」
「はい。新鮮な牛乳が売っているか確認しますね」
「それなら市場にも寄ろうか。ゴッセも食べたいものがあるだろうし」
アドソンの提案にサクラは頷く。
「アドソン、サクラ、そろそろだよー」
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