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報告-11の月、5日

短編で作った作品を長編にしました。

初めまして、よろしくお願いします。

 何もない田舎の夜に、突如昼間のように明るい光の柱が伸びる。

ほとんどの住人は眠りの中にいて、知っているのはわずかばかりの野生生物たちだけ。

その光の柱の根元には洞窟があり、壁にはおびただしい肉片、開けた場所にはボロボロになった少女が横たわっていた。

そっとその体を担ぎ上げる男たちの姿は、瞬き一つの間に消えていた。




 保護という名の監禁をされた少女は『桜』と名乗り、西の国の第一王女メッツェンのメイドとなった。

王女付の護衛のアドソン、王女付の魔術師兼執事のスタンツェ、人型使い魔のメイドを交えて、5人でお茶を飲んでいた。


「なぁサクラー、これは絵画の魔術とは違うのかー?」

 ウェーブのかかった茶髪に深緑の瞳、くっきりとした目鼻立ちの顔、引き締まった体の騎士アドソンは、少女に声を掛ける。


「これは以前いた世界の文字で、漢字といいます。桜は私の名前で、花の名前です」

 慣れないガラスペンを楽しそうにゆっくり動かし、異世界の知識を伝える少女は、以前の世界とこの世界の知識をすり合わせるため、「尋問」という形での呼び出しにのんびりと対応している。

この世界に魂だけ呼ばれた際、元の体はボロボロになっており、髪は切り揃えたら肩の上にまで短くなった。

この世界の年頃の女性であればこの長さは常識外れであり、場所によっては鬘などで長さを補わなければならないこともある。


メッツェンは意識が戻ったサクラに『汚いものは嫌い』と言い放ち、使い魔メイドに入浴や着替えをさせた。その時に切り揃えたのだった。

当の本人としては、初めは違う体に入ったことを驚いたが、元の世界に近い黒髪にショートヘアも紺色の瞳も気に入っている。


「ねぇ、この横に書いてある文字はなぁに?」

 腰まである金髪に淡いピンクの瞳、勝気な笑みを浮かべる王女メッツェンは、好奇心を隠しきれずに質問する。


「今日の質問は、メッツェン様のもので終わりとして良いですか?一日に三つというお約束ですよ」

 サクラが朗らかに尋問の終わりを決める。

「・・・はぁ、メッツェン様が初めに提示した条件ですから、今日もここまでですね」

 不機嫌そうに口を噤むメッツェンを横目に、魔術師のスタンツェがにこやかに追い打ちをかける。

編み込まれた銀髪に水色の瞳、眼鏡を掛けていても涼やかな目線は、無表情になると物凄い威圧感を醸し出すため、外部の文官からは恐れられている。

よく観察すれば、表情の変化はあるし、懐に入れた者には情が厚いのだが、それを知る者はごく少数だ。


 サクラから情報を引き出し、精神的に追い詰めるために、メッツェンは「三つまで質問に答える」という条件を付けた。それを逆手に取り、サクラは上手く利用している。

一つ目の質問は、この世界にサクラを呼び出したのは、メッツェン達なのか?

二つ目の質問は、メッツェン達がサクラを生かしているのは利用価値があるからか?

その二つの答えを聞いたサクラは、三つ目の質問を無期限に延期した。

 メッツェンが考える時間を与えると言ったため、サクラは互いに質問を受け答え、王女の興味を引き続ければ命が長らえるという約束が取り付けられたと、定義づけてしまった。

メッツェンはサクラの豪胆さに、アドソンは知識の豊富さに、スタンツェは分析力や決断力に、興味を惹かれたことは間違いなく、結局は異世界からの訪問者を受け入れたのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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