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「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
無言の地獄、それをアランは今体感していた。
今日は入学式だけだったためもう学園にいる必要はなく、意図なく二人の会話を盗み聞きしてしまったアランは冷たい笑顔を貼り付けた王子ゼノに無言の圧で『ついてこい』と言われ、恐れ多くも同じ馬車に乗車した。あのリリーも一緒に。
リリーは王子の隣に座っているが、居心地悪そうな顔で俯いている。両手を揃え太股の上で互いに握り合っており、その様子が異様にいじらしく目に映る。
さきほどの彼の様子を見た瞬間から、アランはリリーを見る目が変わってしまった。今まではことあるごとに彼を目の敵にして、彼がいるせいでフラウリーゼがブロッサム家で肩身の狭い思いをしているのだと憎しみの対象として見ていたのだが、今ではなんと彼の周りが光って見えており彼の仕草、表情の一つ一つが愛らしく感じられるのである。
だがじろじろと見ていたら、彼の隣に座るゼノからあの絶対零度の視線攻撃を受けたのですごすごと目線を自分の太股へと落とした。
窓は黒幕で覆われており、一体どこへ向かっているのかわからず緊張で汗が滲んでくる。
もしかして・・・・・・とアランはごくりと唾を飲み下した。もしかして、自分はどこかで人知れず殺されるのかもしれない。彼の、リリーのあの姿を見てしまったその口封じのために消されるのかもしれないと思ったのだ。
緊張で頻繁に唾を飲み込んでいると、ゼノがふふと笑い、『どこに向かっているか知りたい?ふふふ』と意地悪く笑ってくるのも不気味で恐ろしい。
手に力が入り、手の平が汗でベタベタになっている。
学園の裏門から出発してかなりの時間揺られた後、馬車がゆっくりと止まって扉が開く。
そこはどこかも知らない人通りの少ない路地・・・・・・ではなく、何度かお呼ばれしてアランも訪れたことのある場所――王宮であった。
人通りの少ない廊下を歩き奥まったところにある部屋に促され足を踏み入れる。やはりここで自分は――と思っていたがそこにはそれ以上に肝が飛び出るほどの驚く種があった。
「リリー!王宮に来ると聞いて思わず飛んできたぞ――っ!!誰?」
「ゼノさま、が、・・・・・・おふたり!?」
部屋に入った瞬間、前にいたリリーに飛びかかってきた人物を見ると、なんと相手はここまで共に歩いてきたゼノだった。だが彼は今自分の隣に立ってその様子を機嫌が悪そうに見ている。
頭がおかしくなったかと思った。ゼノと同じ顔をした者が目の前にいて、しかもリリーと親しそうに絡んでいて、リリーは少し顔を緩めてそれに応えていて・・・・・・。
だがアランの存在に気づいた瞬間、ゼノの顔をした男は本物と同じような絶対零度の表情、いや表情が抜け落ちたといったほうが相応しい。そんな冷たい顔をアランに向けてきて、その直後ものすごい警戒の空気が彼から漂ってきた。
「あ、あの・・・・・・」
「ゼノ、こいつ、だれ?リリーの、なに?」
冷たい声でそう発せられ、アランは思わずビクッとなる。ゼノと、見た目も声も全く同じで、頭が混乱するし、一日のうちにこんなにも冷たい視線を浴びせられることにメンタル的にももう限界だった。
「ゼヌ、聞いてない?リリーの秘密が彼にバレたんだよ」
「消す?」
「ひぃっ!!」
真横にいるゼノが今までと違う口調で大まかな内容を話すと、ゼノ2号が物騒な言葉を呟く。それに思わず悲鳴が漏れてしまった。