幕間 ドラグニルの思惑
ヴィヴィアンはナオヤを見送った後魔王城の一室に入る。
入れば先客がいたのか椅子に腰かける人影が見える。
「ドラグエル、いらっしゃったのですね」
「ああ」
ドラグエルそう短く答えた。
机には珍しくティーセットが揃っており、微かによい香りが部屋に充満している。
「貴方が1人でお茶ですか?珍しいですわね」
「そうか?俺も案外こういったもんも好きだぜ。退屈な日々の中で見つけた俺の新しい趣味だ」
「よろしければ一杯いただいても?」
「いいぜ。そこに座んな」
ヴィヴィアンはドラグエルの向かいの席に座る。
ドラグエルは似つかわしくも慣れた手つきでお茶を淹れる。
昨日会議室で切れ散らかしていたとは思えないくらい丁寧なものだから、ヴィヴィアンは思わずくすりと笑ってしまう。
その様子にティーセットを見つめていたドラグエルはヴィヴィアンをチラリと見る。
「おい、何を笑っている?」
「いえ、似合ってないなと」
笑うヴィヴィアンに、ドラグエルは不機嫌そうにふんと少し鼻をならすだけだった。
カップに注がれた黄金色のお茶から柑橘系と思われる香りが香る。
よく見る一般的なお茶だろう。
ヴィヴィアンはカップの持ち手をつまみ、静かに茶を口に含む。
「まあ、意外ですわ。ちゃんと様になっていますのね」
「お前は失礼という言葉を知ってるか?」
「貴方からそんなこと言われるとは思いませんでした」
「……それもそうか」
ドラグエルもまた自分の淹れたお茶を飲む。
部屋に響くのはカップとソーサーのぶつかり合う音。
ドラグエルはカップを置くと口を開いた。
「お前、俺に言いたいことがあってきたのだろう?」
「昨日の会議でルクリアが言っていたことは間違いなく正論でした。私の提案は魔王様を危険にさらしてしまう……それなのになぜ、私の案に賛成したのですか?」
「なんだぁ?今更止めたいってか?」
ドラグエルは窓から外を見る。
先ほど出て行ったナオヤたちが乗った馬車が小さく見えるが、もう遥か遠い。
ドラグエルの本来の姿をもってすれば、すぐに追いつけるだろうがそんな気はさらさらない。
「いえ、そういうわけで話ありませんが……私も意固地になっていた部分もあったかと思いまして」
「なぜ、ねぇ?お前も知ってるだろ?俺は退屈が大っ嫌いでな。面白そうだから賛成した」
「……面白そうだった?」
ヴィヴィアンは信じられないとでも言うようにドラグエルの言葉をなぞる。
「面白そうだろ、魔王様が自分を殺そうとする勇者を育てるなんてな。俺たちの寿命は人族に比べて遥かに長い。もしかしたら魔王様が育てた勇者と戦えるかもしれねーだろ」
「…………貴方と私とでは考え方が大きく違うようですわね」
「くくくっ。確かにそうかもな。あ、そうだ。お前魔王様と連絡とれるんだろ。なんかあったら俺にも教えろよ」
「……考えておきます」
魔王様のことをこいつに言うときは、よく考えて話そうと心に誓うヴィヴィアンであった。