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第4話 多数決は絶対

 今日は最悪なまでのいい天気。

 いや、例え天気が良くても予定が中止されることはないだろう。

 魔王城の門の近くには馬車が止まっている。

 その前に立っているのはナオヤ、ルクリア、ヴィヴィアン、グラだ。

 会議にいたはずのドラグエル、アークはいない。


 ルクリアは一応二人に対し声掛けをしていたらしい。

 ドラグエルは「はぁ?見送りだぁ?この俺にそんなこと頼むたぁいい度胸してんな」と言われたらしい。

 要するに面倒くさいということだろう。


 アークは「最近腰を痛めまして、年寄りには少しの移動も大変でしてな」と言われたらしい。

会議での様子を見る限りそんな様子はなかったと思うのだが。

 結局来てくれたのはこの3人だったというわけだ。


「なんでこんなことに……」


 ナオヤは小さくそう呟いた。

 この馬車に乗ったら当分はこの魔王城には帰って来られない。

 なぜこんなことになってしまったのか。

 ナオヤは昨日の会議を思い出す。


――――――――――



「……そうですわ!(わたくし)いいこと思いつきましてよ!」

 ヴィヴィアンは妙案だと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 ヴィヴィアンの『いいこと』という単語には嫌な予感しかない。


「いいこと、ですか?貴方のことですから信用はできませんが一応聞いておきましょう」

「要するに魔王様の堕落生活のお金がないのですよね?」

「魔王城のお金だから」


 そこは間違えないでほしいとナオヤは訂正する。

 そんな言葉も気にせずヴィヴィアンは話し続ける。

「魔王城のお金も確保しつつ、魔王様の堕落も治し、人界の情報も手に入る良い方法があります。それはーー」


 ヴィヴィアンは勿体ぶるように皆を見る。

 ほとんどの者はたいして期待もしていなさそうだが。


「魔王様が勇者を育成する学園の教師になるですわ!」


 この会議何度目の沈黙だろうか。

 ヴィヴィアンの言葉でこの会議室は沈黙に包まれた。


 その沈黙を破ったのはくすくすという笑い声だった。

 笑い声の主はルクリアだ。抑えきれずという様に口元を抑えて笑っている。


「それ、本気で言ってるんですか?」

「もちろん本気ですわ!」


 ルクリアはピタリと笑うのを止め、じっとヴィヴィアンを見つめた。

 彼女の青い瞳は冷酷で、その冷たさに流石のヴィヴィアンも少し気圧されてしまう。


「魔王様が人界に行くだけでも危険だというのに、勇者どもの群がる所に行くだなんて……リスクが高すぎます」


「で、でもっ!」

「人界では魔族はまともに魔法も使えません。ただ魔王城の財政難というだけでここまでの危険を冒す必要はありません」

「それなら貴方にこれ以上良い案が出せまして?もし人界側に原因があれば人界に潜り込んでいた方が対処もしやすいはずですわ」

「働くなら魔界でもできます。潜入なら私が……」

「がーーっ!かったりーな!」


 ずっと退屈そうに椅子にもたれていたドラグエルが、突然大声でルクリアの声を遮った。

 ヴィヴィアンとルクリアはびくりとドラグエルを見る。

 ドラグエルは椅子の手すりに頬杖を突いて2人を一瞥する。

 眠れる獅子が眼を覚ますという言葉があるが、まさしく今ドラグエルがそれだと言える。

 

「ドラグエル、どうしたノ?」

 グラはイライラとした様子のドラグエルに構わず話しかける。

 いつもであれば邪険にされがちな彼女の空気の読めなさは、こういう場合とても助かる。


「ぐちぐちとさっきから危険だのなんだの、そんなんだから魔王様もああなっちまったんじゃねーのか?」


 そういって軽く顎でナオヤを指す。

 

「え、俺?」

「そうだよ。お前らが魔王様にそうやって甘やかすからあんな風になっちまったんじゃねえかって言ってんだ」


 黙っていたルクリアもその言葉でキッとドラグエルを睨む。

 ルクリアにしてみればドラグエルの言葉は、ナオヤの侮辱ととらえるのに十分だった。


「ドラグエルそれは魔王様に対してぶじょ……」

「まあ確かに、魔王様が怠惰になってしまったのも我々が甘やかしてしまったからかもしれんのぉ」

「アークさんまで……」

「なるほど、なるほど。アークもドラグニルも魔王様を甘やかすべきではないと」

「い、いやちょっとヴィヴィ……」

「つまりは(わたくし)の意見に賛成というわけですわね!」


 ヴィヴィアンはまさかの賛同者に自信満々に立ち上がる。

 ナオヤが止めようと口を挟もうとするが、ヴィヴィアンは興奮しきっていて聞く耳を持たない。


「俺は賛成だぜ。面白そうだから」

「まあ、賛成、ということになりますかなぁ」

「ちょっと!お2人まで。冷静になって考えてください!グラさんも何か言ってください」

「えーどっちでもいいー」


 グラはというと全くこの話に興味がなさそうで笑顔で首をかしげる。

 ヴィヴィアンの発言は止まらない。


「ナオヤ様この会議での決まりお忘れではありませんよね?」

「まさか多数決で決めるのか?」

「はい!今の場合ですと賛成3人に反対2人無投票が1人。これはもう決まりですわよね?」

「い、いや。ちょっと待て。よく考えて……」

「魔王様が決めたルールですもの。まさか破るなんてことありませんわよね」


 かつて自分が決めてしまった定例会議でのルール。

 会議中に決定するのに意見が割れた場合、多数決で決定する。

 まさか自身で決めたルールがここまで自信を追い詰めてしまうものになってしまうとは。

 自分で定めた手前、嫌だなんて言えない。

 となると今のナオヤに言える言葉は1つだけ。


「わかった。勇者の教師になるよ」


ナオヤはしぶしぶといった感じで頷いた。


――――――――――


 昨日のことを思い出すだけでも頭が痛い。

 やはりあの時無理やりにでも反対しとけば良かったのだろうか。


「魔王様もしもの時はこちらをお使いください」


 ヴィヴィアンはそう言うとおもむろにウサギの人形に手を突っ込む。

 そして取り出した拳ほどの大きさの水晶をナオヤに渡す。


「それは連絡用の水晶です。(わたくし)から連絡することもありますから絶対に無視しないでくださいね!約束ですわよ!」

「わかった、わかった」

「……それと、昨日は申し訳ありませんでした。私も冷静さにかけていた部分もあったというか」


 ヴィヴィアンは言いにくそうに少しうつむきながらそう言った。

 そんなヴィヴィアンに対しナオヤは少し笑うと軽くぽんぽんと頭を撫でる。


「もう決まったことだ。それにヴィヴィアンは間違ったことは何もしていない。魔界のことを考えて提案してくれたんだろう?俺もせいぜい勇者たちからばれないよう頑張るさ」

「魔王様……しばらく魔王様からこうやって頭を撫でてもらうことがないと思うと寂しいですわ」


 ヴィヴィアンはそう言って嬉しそうに微笑む。

 こうやって撫でているときは見た目相応の幼さが垣間見える。

 しばらくヴィヴィアンの頭を撫でていると、最後の荷物を詰め込んでいたグラが駆け寄ってくる。


「マオウサマ、そろそろ出発じゃナイ?」

「そうか。ありがとう、グラ。じゃあ行ってくる」

「ご武運お祈りしております」

「いってらっしゃーい」


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