第3話 部下からの提案
ナオヤは円卓を囲む面々を改めて見回す。
竜族のドラグエル
生屍族のヴィヴィアン
獣人族のグラ
水棲族のアーク
女淫魔のルクリア
しんと静まり返った部屋だが別に緊張感はなく各々寛いでいる。
見回せばやはり目が行ってしまう空白の2席。
「やっぱりイーラとクピスは来てないな」
「あんな奴らはほっとけ。魔族の誇りを捨てたやつらの顔なんざ、俺も見たかーねぇ」
ドラグエルは興味もなさそうにそう答える。
イーラは醜妖精族の長、クピスは巨人族の長だ。
かつてはこの定例会議に参加していたがここ十数年見かけてない。
魔族には1つ決まりがある。
弱者は強者に絶対服従という決まり。
この決まりは魔族たちの間にある暗黙の了解であり、例えその決まりを守らなかったとしても罰せられることはない。
ここに集まったもの全員もナオヤの実力を認めた上でこの席についているのだった。
魔族の中でも代替わりの早い醜妖精族と巨人族では、やはりナオヤに服従するという考えが薄れてしまうのは仕方がない。
先代がナオヤを認めていたとしても、それを次の世代が守り通す義理などこの魔界には無い。
むしろ彼らがこの会議に来てくれていたことの方が異様だったのかもしれない。
おそらく2人はいつまで経っても人界に攻め入る気配のないナオヤに愛想をつかしたのだろう。
「最近聞いた噂ですが、彼ら、勝手に人界へ攻撃を始めているらしいですわ」
「ふうむ、最近の彼らの行動は目に余りますなぁ」
「粛清するノ?殴り込み?」
グラは目を輝かせこちらを見る。
「それはできませんわ。醜妖精族、巨人族はどちらも個体数が多く、粛清などしたら魔界が火の海になりますわよ」
「それに中途半端に粛清したとしても不穏分子が増えるだけです」
「ええー」
ルクリアとヴィヴィアンの言葉にグラは落胆したように机の上に突っ伏してしまった。
「なるほどな……とりあえずは様子見か」
また会議室はしんと静まり返る。
この静けさは別に議題がなくなったからではない。
言いたいことがあるのだが、言えないといった感じだろうか。
この空気が感じ取れていないのは、ナオヤとグラくらいだ。
ナオヤとしては議題も無くなり、早々にこの会議が終わってくれるのはありがたい。
この会議が終わればまたあのふかふかなベットに潜り込み、読み終えていない本でも読もう。
ネットもスマホもないこの世界での最高の娯楽は本だとナオヤは思っている。
前の世界でも読書家ではあったナオヤだが、この娯楽の少ないこの世界に来てその気質はさらに強まってしまったようだ。
「他に何かあるか?」
頭の中で次に読む本を思い浮かべながら皆を見回す。
すると意外なことにルクリアがためらいがちに手を上げた。
「あの少しよろしいですか?」
「あ、ああ。どうした?」
「……少々気になることがございまして。最近の勇者の来訪についてです。勇者の来訪は魔王様が魔王になられてから年々減少傾向にあります。その結果現在魔王様の元までたどり着いた勇者は59年前に1組だけ。それ以降0組です」
「え?」
突然の議題にナオヤはその一言しか発せなかった。
少し考えればその原因はすぐに分かる。
ナオヤが人界に攻めないからだろう。
魔王が人界に攻める気配がなければ、人族も魔王討伐を後回しにする。
そのため勇者の来訪も減ってしまったのだろう。
「……まあ平和なのはいいことじゃないか?」
「それがそう簡単なことではないのです。魔王様、この城に住む者の食事、衣服、その他生活諸々のためのお金はどこからきているかご存知でしょうか?」
「えーっと……税金?」
「税金の制度を取り入れているのは人族です。我々はそう言ったお金は倒した勇者の装備品などから得ているんです。今までは先代の魔王様が倒した勇者たちのもので何とかまかなえていました。しかしそれすらも底をつき、この城はかつてない財政難となっています!」
「そ、そうなのか?」
「そうなんです!私も使用人を解雇したり、食事を質素なものに変えたり、自分のお給料減らしたり、いろいろとやりくりしてきましたがもう限界です」
ルクリアの語気はだんだんと強まり、彼女の迫力に圧倒されるがごとくナオヤの声は小さくなる。
ヴィヴィアンでさえもルクリアに同情的な視線を向けている。
それほどまでに魔王城の財政難は深刻だった。
「じゃあマオウサマ働けば?」
グラの何気ない一言だった。
当のグラは今までの話に対しさして興味も無いようで、退屈そうに伸びを一つする。
「……は?」
「私のママ言ってた。働かザルもの食うベカザル、だっけ?マオウサマお金ないんでしょ?私もお金ないとき働くヨ。だから働けば?」
こいつはまた適当なことをと、ナオヤが口を開こうとしたがその提案にまさかの賛同者がいた。
「それはいいですわね!」
ヴィヴィアンだった。
「……そうですわ!私わたくしいいこと思いつきましてよ!」
ヴィヴィアンは妙案だとばかりに笑みを浮かべた。