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第0話 少女と契約、そして転移

 目を開けるとそこは真っ白な世界だったーーー


「……ここは、どこだ?」


 俺は小さくそう呟いた。

 ベッドの上で横になっていることは分かるが、視界に見覚えのある天井は映らない。そしてやはり体は動かない。仕方がないので視線だけで、きょろきょろと周りを確認する。

 確認するもすべてが真っ白。空間を認知しようにも先の見えない白に頭が痛くなりそうで瞼を閉じることにした。

 一体何がどうなっているんだ。


「やっと目覚めましたか」


 突然足元から少女の声がした。姿を見ようと頭に力を入れ少女を見ようとするが、やはり頭は動かず少女は見えない。俺は少女の姿を見ることを諦め、また天井に視線を戻した。

 少女はかまわずまた話し出す。


「ここはいつものあなたの部屋。しかし世界の時間を止め、私とあなたの時間だけを動かしています。ですから邪魔も入らないでしょう」

「は? 君は何を言っているんだ? それにここは関係者以外―――」

「時間もあまりありません。早速本題に入りましょう」


 少女は俺の言葉にかまわず話を進めていく。

 信じられない状況だが、切羽詰まったしゃべり方から少女が本気だと伝わる。

 口出しできない雰囲気に俺は口を閉じた。


「単刀直入に言いますと、あなたに私の願いを叶えてほしいのです」

「……君の、願い?」

「はい、あまり詳しくは言えませんが、あなたに異世界へ行ってもらいたいのです」


 いまだこの状況を理解で来ていなかった俺の頭が異世界(・・・)という言葉にさらに混乱する。

 一時の沈黙の後、少女はまたゆっくりと話し始める。


「私の願いがどういったものか、それをここで話すことはできません。しかし、もちろん相応のお礼をさせていただきます。あなたの事は調べさせてもらいました、高山直哉さん。……あなたの今の環境も、私であれば変えることができますよ。」

「本当かっ?」


 俺は少女の言葉に大声を上げる。

 いきなり俺が叫んだことに驚いたのか、少女の頭はびくりと動く。

 少女の願いが何なのか、異世界はどういった場所なのか、そういった不安もあったが今の環境から脱することができる、それだけで俺の答えは決まっている。


「わかった、行ってやるよ、異世界へ」


「……お願いしている私がこんなことを言うのは変な話ですが……本当によろしいのですか?……その、あちらの世界であなたは皆の英雄になることはない。むしろ疎まれる存在になるかもしれない」


 あまりにも早い俺の反応を不安に思ったのか、少女は先ほどまでの淡々とした口調とは打って変わり、こちらを伺うような弱々しい口調になる。

 そしてもう一度俺に尋ねる。


「本当によろしいのですか?」

「ああ、俺は異世界に行くよ。ここから抜け出せるなら、どこにだって行ってやるさ」


 俺は力強くうなずく。まあベッドに横たわってる状態だから少女に見えているか分からないが。

 少女の小さくふっと笑ったような声が聞こえる。すると今度はコツコツという足音が近づいてきた。


「……そうですか。ご協力感謝いたします。では、今から契約を行います。この契約はあなたが死ぬまで続くことでしょう」


 そう言い終わると少女はいつの間にか直哉の傍らに立っていた。

 夜空のような深みのある瞳はこちらをじっと見つめている。何よりも驚きなのはその少女があまりにも美しすぎることだ。まさに黄金比と言っても過言ではない顔立ち、床にまで伸びた癖一つない黒髪。

 俺が茫然と少女に見とれていると、少女は突然ギシリとベッドに手をかけた。


「お、おい」


 少女は慌てる俺に構わず馬乗りになると、ゆっくりと俺に顔を近づけてきた。

 女性とここまで接近したことがない俺は、もちろん耐性などあるはずもなく顔が熱くなるのがわかる。せめてもの抵抗として目をギュッと閉じる。


「私が言ってしまうと皮肉になってしまうかもしれませんが……」


 少女は俺の耳元でささやくようにそう呟く。


「あなたに幸があらんことを」


俺は口に何か柔らかいものを感じると、意識は深い闇の中へと沈んでいった。



そして、目を開けるとそこはーー



 広大な青空であった。

 あたりを見れば見渡す限りの草原。まるでRPGの世界にでもいるような広大な草原、遠くに見える山々。現代日本では決してお目にできないような景色だった。


 「俺は……異世界に来たのか?」


ナオヤはそう小さく呟いた。これは転生というやつか?しかし今のナオヤは赤子ではない。ならば召喚だろうか。

そんなことを考えながらゆっくりと倒れそうになりながら上体を起こした。

すると胸元からカサっと紙が落ちる。どうやら手紙のようだ。





◇◇◇◇◇


 ナオヤへ

 これを見れているということは無事そちらの世界へ行けたということですね。

 私があなたにして欲しいことはただ一つ。あなたにその世界の魔王となってもらうこと。何故魔王になってもらいたいのか、それはこの世界の理を正すため。それ以上のことは言えません。この世界には強大な敵、魔王がいなくてはならないのです。ですから嫌われ役になってしまいますが、ナオヤには魔王になっていただきます。

 これは私とあなたの死ぬまで続く契約。もし契約を破るようなことがあれば、元の世界に帰っていただきますのでお気を付けください。

 もちろん無理なお願いをしてしまったと思っております。せめてものお礼として、魔王として身体能力は高めにしております。


 ちなみにここの世界にはナオヤの世界の本にあるようなスキルなどというものはありませんよ。


◇◇◇◇◇




 手紙の文を読む限り、少女はナオヤに対し少し申し訳ないと思っているようだった。

 それにしても最後にある文、というか注意書きには少し笑ってしまう。

 世界を行き来できる少女さえも俺がいた世界の本、ラノベを知っているのだろうか。

 もう一度最後の文を読もうと手紙を見ると、その文の下に先ほどまでなかったはずの「追伸」という文字がいつの間にか現れていた。




◇◇◇◇◇


 追伸

 私がこの世界に干渉したのが知られると面倒なので、手紙を開いて1分後この手紙は焼失します。


◇◇◇◇◇


(嫌な予感がーー)


 カッと一瞬手紙が光るとけたたましい爆発音と、焼けつくような熱、爆風。

 確かに手紙は焼失した。

 爆発とともに。

 爆発の範囲は小さいが、その威力は以外にも大きかった。手紙から半径1mの草は跡形もなく消え去り、土だけになっていた。

 もちろんナオヤはその爆発圏にいたため、爆発に巻き込まれた。手紙にもあったように頑丈な魔王の体のおかげかナオヤが灰になることはなかった。

 しかし、その体は怒りで静かに震えている。


「……あのガキ。次会ったら許さん……」


 怒りをぶつけようにも少女はおろか、周りにはけずられたようにむき出た土だけだった。

 俺は行き場のない怒りに「くそっ」と声を上げる。そして黒く焦げた草原の上にまた寝ころんだ。

 広大な大地に、彼方まで見える青空。ナオヤにとってはすべてが自由すぎてこれからどうすればいいのかすら迷わせる。


「しっかし、どーすっかな……これから」


 ずっと何の目的もなく行動するのはもったいない。

 せっかくまっさらで、自由な身になれたのだ。


「まあ癪だけど、あいつの言う通り魔王になってみるか。元の世界にも戻りたくないし」


 そう言うとナオヤはよろよろと立ち上がり大きく伸びをした。



―――そんな俺の転生から約300年後


 ナオヤは異世界で堕落した生活を送っていた。


【大切なお願い】

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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 私の執筆の励みとなります。

 よろしくお願いします!

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