凸凹コンビ
緩やかに開いたドアから、不意にドンと躓きながら出てきたのは……。
「こ、こんにちは。アレクさま・ローズさまにおきましては……」
「こんにちは、ユーリッドくん。ん~……それと、もう一人いるんでしょ?」
「あっ、そうだ。ちょっと、危ないじゃないか!」
「ガーハッハ。ユーリッド、鍛え方が足りないんじゃないか?」
やってきたのは上品そうな商人の衣装を着たユーリッドと、短パンに革のベストを羽織ったガオールだった。
二人は近隣の国の要人の息子たちで、僕とローズと同等の地位にいる。
何かあると集まるのがこの国で、お父さまが忙しいと言っていた原因はコレだろう。
何の話し合いかは分からないけど、二人が来ているって事はそれほど緊急事態ではないのかもしれない。
「せっかく遊びに来たのに、勉強中だって聞いたからな」
「ガオールくんは、もっと勉強した方が良いんじゃない?」
「あ~? うだうだ言う奴は、ぶっ飛ばせばいいんだよ」
「二人とも、変わらないね」
現在『獣人の国』を治めているのは、ガオールの父親だ。
ここ数代は虎人族の王が武力で支配しているが、細かな政治は農政省という所で行っている。
いつか来る獅子族による理想郷を夢見ながら、争いがない世界を目指して体を鍛えているようだ。
そんなガオールとよくコンビで現れるのが、『貿易の国』の会頭の息子であるユーリッドだ。
大国と対等に渡り合えるのは、ある意味ユーリッドの国による所が大きい。
どこも小国だけあって得意分野と農業を頑張っており、お互い足りない者同士で補ったのが僕たちが住む六か国だ。
何故か『七つの盟約』という名前で締結しているけど、内容は「みんなで仲良くしましょう」というものらしい。
「ところでよ、さっき魔女って言ってなかったか?」
「ちょっと、ガオールくん。『魔女を話題に出したら呼び寄せる』って言われてるだろ!」
「実際のところ、どうなんだ?」
ガオールとユーリッドの二人も対等な立場だけど、年齢で言えば僕たちより2~3つくらい年上だ。
地位的には対等な立場でも、年齢やその他で敬う場合とそうではない場合がある。
そして、ガオールの質問には素直に答える事は出来ない。
でもこの世界共通の認識として、『魔女』は危険な存在だった。
「どうする? アレク。嘘はいけないんだよ」
「みんなを危険にさらす訳にはいけないよ」
「なんか怪しいなぁ……。俺がそんな弱そうに見えるか?」
「ガオールくんは、正規兵百人分の力があるの?」
「あぁ? その辺の兵士には負けねぇぞ」
ここで『じゃあ、大丈夫だね』という訳にはいかない。
僕とローズの中ではリンダさんは良い人だし、魔女だからと言って討伐に行く気にはならなかった。
むしろクッキーの御礼をしなきゃいけないと思っている。
「僕から言えるのは、『魔女は絵本の中の存在』だよ」
「そうそう。だから危ない事は止めようよ」
「ガオールくん?」
「わぁった、わぁった。じゃあ、とりあえずあの部屋に行こうぜ。二人の所にもあるんだろ?」
当たり前のように、ピンポイントで場所まで特定出来るのが怖い。
実際はどの国にもある場所のようで、『貿易の国』では商工会館の一室がそれにあたる。
ただ、ガオールの国では父親に逆らう事は死を意味し、ユーリッドの所では多くの会頭の子息・子女が遊びに行く場所ではない。
気分は『他国だから出来る肝試し』みたいなものだろう。
「もう、しょうがないなぁ。いないからって文句は言わないでよ」
「アレク、良いの?」
「ローズ、何もいない場所を案内するだけだよ。念のため、ランタンを二つ持っていこう」
正直、リンダさんともう一度会った時、何と言えば良いかは分からない。
ただ家の中にある脅威の原因は調べたいと思っていた。
王家に突然攻め込まれた場合、都市の防衛なんかは関係なくなる。
場合によっては王家だけを落とし、何事もないまま毎日が続くのかもしれない。
「そんな顔しなくても、俺が守ってやるって」
「え? ガオールくん?」
「何か決意を決めた顔をしてましたよ、アレクさま」
「じゃあ、アレクは木剣を持っていこうよ」
思い返せば、最初に襲われたのは道化師みたいな奴だった。
あれについても出来れば捕らえたいと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前の扉を眺めて脚が止まる。
僕がローズを見た瞬間、ローズも僕を見たから思う事は一緒だと思う。
通称『おしおき部屋』は、悪い事をしたら入れられる場所だ。
進んで入りたくなるような所ではない。
「ここか? よっしゃ、者ども行くぞ」
「ちょっと、ガオールくん。余所さまの家だよ」
「おっ、そうだな。さすがに俺さまは弁えているぞ」
並んで立つ僕たちの中で、二人は一歩下がり『どうぞどうぞ』と手を出している。
意外に思ったのは、ユーリッドが思いの外ノリノリだったこと。
ローズと一緒に手を添えると、あっけないくらいに扉が軽く開かれていった。
「んー……、なんか埃臭ぇな……」
「アレクさま、ここで合ってますか?」
「うん。ローズ、ランタン……あっ」
「ふふーん。実は……」
あの日からたった数日しか経っていないのに、僕らに訪れた変化はいくつかあった。
その中でも最たるものは、ローズの魔法だった。
魔法も魔道具もあるこの世界。
それでも使える資格・財力があるのは一部の人に限られている。
王侯貴族は魔法に目覚めやすく、特に女性が回復の魔法に目覚めた場合『聖女』と呼ばれることになる。
そんなローズが自慢気に覚えた魔法は……。
「もしや?」
「もしかして??」
ローズはパチッと指を鳴らすと、一瞬だけ火花が飛ぶ。
「なんだ……、発火かよ」
ガオールの残念そうな言葉と共に、一つのランタンに火が灯った。