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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
獣と魔女
8/13

平穏に潜む影

 あらがいがたい眠りから目を覚ますと、ベッドから半身を起こしているローズがいた。

 茫然としているようにも見えたけど、ギギギとでも言いそうに不自然な動きでこちらを見てくる。


「アレク、おはよう?」

「多分、まだ夜だと思うよ」

「ねえ、……あれって夢だったのかな?」


 窓から差し込む月明かりは真っ直ぐと、ローズのベッド脇にある紙袋を照らしていた。

 そこから漏れ出る甘い香りは、あの場所の出来事が夢ではないと教えてくれる。


「ローズ、話があるんだ」

「うん、言い訳が必要なんだよね」


 僕はローズと話し合う。

 魔女との邂逅かいこうは、家族に話すことは出来ない。

 魔女とはモンスターと同等以上の脅威きょういであり、基本的には討伐する対象と聞いている。

 ただローズと感想を言い合った時、リンダさんはどうしても悪い魔女には見えなかった。


「これで良いかな?」

「うん、ミランダにも協力してもらおう」


 ローズは小さな鐘をリリンと一回だけ鳴らす。

 するとすぐにノックの音が聴こえてきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あの日から数日が経ち、クッキーについてはミランダと一緒に作ったと口裏を合わせてある。

 深く事情を追及される事はなかったけど、僕たちはミランダといくつかの約束を交わしていた。


 一つ、勉学に励むこと。

 一つ、僕は剣術に力をいれること。

 一つ、ローズは料理の手伝いをすること。


 それは口約束のレベルだけど、何故か破ってはいけない強制力を持っていた。

 ローズも納得し、僕も異論はない。

 何故かリンダさんのことを思い出しながら、家族の安全を守るためローズと約束を守ることを誓った。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 うちの家族は、小国の王家でもとても・・・フランクだ。

 どのくらいかと言うと、朝食と夕食は可能な限り家族で食べるようにしている。

 最近お母さまが体調を崩しているけど、この日はお兄さまの誕生日だからか顔を出していた。


「「お母さま!」」

「アレク・ローズ。どうしたの? 驚いた顔をして」


 ただの朝食でも、お母さまの元気そうな顔を見たローズは、そばに行きたそうな動きを見せていた。

 正直僕も、同じように行きたい気持ちはある。

 それでも僕はローズの兄として、規範を示さなければならない。


「カインのお祝いは夜にしましょう。アレクとローズは、午後にお話を聞かせて貰えるかしら?」

「私達は会議があるから、参加できなくて残念だよ」

「そういう訳でミランダ、お願いね」

「はい、奥さま」


 朝食が終わると、すぐに勉強の時間になる。

 僕たちは選択肢として、このまま成長していけば家庭教師を雇うか学園に通う事になる。

 長兄であるカインお兄さまは遠方にある学園に通い、今はお父さまの手伝いをしながら政治を学んでいる。

 次兄のコルスお兄さまも学園に通っていて、今は寮暮らしをしていると聞いている。


 僕に与えられた選択肢は、国内で武官になるか文官になるか?

 それとも近隣の他国と姻戚関係を結ぶこと。


 これはローズにも当て嵌まるけど、ローズの場合はどちらにせよ家を出る事になる。

 噂話で聞いたレベルでは、僕とローズは仲良しの双子だから、揃って他国に行った時の結びつきとして人気らしい。

 この国と他二国が姻戚関係を結べば、次代の安定感は更に増すようだ。


「以上が近隣諸国の情勢となっております」

「ガオールくんの国は強いんだね」

「どうされましたか? アレクさま」

「アレクはお母さまとのお茶会のことを考えてたのよね。お子ちゃまなんだから」


 朝食のイレギュラーから、僕の時間はあっという間に過ぎていた。

 少し心配なのは、ローズが口を滑らせないかだ。


 もちろんミランダによる社会情勢の授業はきちんと聞いている。

 小国が集まるこの地域で、僕たちが住んでいるのは『微笑みの国』だ。

 ローズが出した名前は『獣人の国』の王子さまで、六つの国が同盟国として侵略からの脅威に備えている。

 その中心となるのが『獣人の国』で、勇猛な戦士が多い事で有名だった。


「もう、そういうことで良いよ」

「あー、認めた。ミランダも聞いたよね?」


「ローズさまも楽しみなのは分かりますが……」

「ここは僕がきちんと話すから。ミランダはお願い」

「では、お茶の準備が出来ましたら迎えにきます」


 ミランダが退室すると、ローズはウキウキと教材を仕舞い始める。

 早くお母さまと話したいのはローズの方で、僕はお母さまが無理をしていないか心配だった。

 何よりローズの話題は、容易にリンダさんに向かうだろう。


「ローズ、分かってるよね?」

「アレク、何のこと?」

「魔女の話は内緒だよ!」

「もう。そんな事、言う筈ないじゃない」


 そんな事を言いながらローズの机の上には、小分けにラッピングされたクッキーが準備されていた。

 誕生日プレゼント用は別に準備されているので、その辺は抜かりがない。


 少し疑問に思ったのは、お母さまにも専属の侍女がいる。

 ミランダは僕たちの教育係兼お目付け役だった。

 準備をするだけなら、専属の侍女を使う筈だろう。


 そんなことを考えていたら、不意に部屋のドアがガチャリと鳴った。

 そして恐る恐るという感じで、ドアがゆっくりと少しだけ開いていく。


「なあ、今魔女って言ったか?」


 僕の不用意な発言に、ドアの向こうから現れたのは……。

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