ミランダ①【閑話】
ここまでが一章となります。
次回は……何の魔女になるか、ご期待頂けると嬉しいです。
※作者は英語が苦手です
ワンダーミラーじゃない? という指摘もお待ちしております。
私には秘密があります。
ですが、それ以前に結んだ契約があるのです。
「お二人は、無事に戻りました」
「うん、報告ありがとう。ミランダ」
「旦那さまは、責めないのですね」
「事前に聞いていたからね。でも本当に、そんな世界があったんだ」
小さな王家の小さな双子の帰還。
裏を返せば、こんな小国でも命の危険があるということだ。
今回の事件は、いわばデキレース。
魔女たちとの協定にも関わって来る。
そして私は、みんなを結ぶ仲介役だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鏡を通して見守っていたから、二人がリンダの所へ向かったのは知っている。
魔女と言っても性格は千差万別で、『毒と薬の魔女』であるリンダは比較的大人しい方だった。
「ミランダ、そろそろ迎えに来てくれないかしら?」
「もう良いの? 迎えにって事は……」
「ふふふ、とても面白い二人だったわ」
「では、二人の侍女として向かいます」
鏡越しの会話は、魔女たちの間では一般的な通信手段である。
リンダの招きに応じて、双子がいる場所へ向かう。
魔女の世界には細かなルールがあり、それは魔女自身を守るのに必要な事だった。
「よく来たわね」
「お招きに感謝します。それで二人は?」
「よーく眠っているわ。少しくらい時間はあるのでしょ?」
「長時間居ても大丈夫なのは知っているわ。二人は眠ってるから、変化の少なさに気が付かないでしょうけど」
まるで隠れ里のような魔女の住処は、ある種の結界に守られている。
その結界の中なら時間の進み方も自由に設定できるので、二人とリンダが過ごした時間はかなり短かい筈だった。
魔女とは世界から、『祝福』と『呪詛』を同時に受けた者。
ある者は不老不死もどきに酔いしれ、ある者は朽ちぬ体に絶望する。
その感覚は私には分からないけれど、時々下界に降りてイタズラする魔女は多いようだ。
「で、どうだった?」
「二人とも本当にかわいくて、いっそ私が育て……」
「ダメよ、リンダ。それは協定に反するわ」
「ふふふ。それで、ミランダが知りたいのはアレね」
リンダが指さした先には、あからさまな二つの毒が見えた。
最後の工程を終えると無色透明になるようで、私は無造作にお玉を使ってコップに入れて飲んでみる。
「最初にアレクくんが選んだのがそっちね」
「これは……、お腹をくだす毒ですね」
「そう、ある意味当たりの方ね」
確かに脱水症状に苦しむ事にはなるかもしれないけれど、死に至るような毒ではない。
適切な処置を施せば、数日もしないうちに元気になるだろう。
「今、アレクさまが選んだ方って言いましたよね」
「そう。仲良しさんの二人は、それぞれ別の毒を飲むつもりだったみたいね」
私は真剣な顔で、リンダの顔を凝視する。
そこにはイタズラに失敗した少女のような、ある意味ローズさまの姉的な存在がいた。
「貴女らしくない毒……ですね」
「だって、仕方ないのよ。ローズちゃんったら、勢いで素材を採取するんですもの」
「適量を使う事も出来たでしょ?」
「そこをアドリブで仕上げるのがプロの魔女よ」
部屋の中は、クッキーと紅茶の甘く香ばしい香りで満ちている。
テーブルに突っ伏しているアレクさまもローズさまも、口の中をモゴモゴしていて幸せそうな夢を見ているのだろう。
「確かにプロの技だわ。どうやって眠り薬にすり変えられたのか?」
「うんうん、そこが最っ高に二人のカワイイ所だったわ。まさか頭を働かせて、二人で同じ物を飲むだなんてね」
「まさか……、二つを混ぜたの?」
「正解! 魔女の毒は、それ程ヤワではないのに……。殺すと決めたら、一滴でも殺せるわ」
幼い頃から絵本で読み聞かせていたのに、二人には恐怖心はないのだろうか?
兄妹愛の勝利と言えばそれまでだけど、魔女を相手に博打が過ぎると思う。
そもそも魔女に会ったら、『死』を覚悟しないといけない。
どんな無様でも生を拾えたなら、二人にとっては勝利に等しかった。
「久しぶりのお客さまだけど、上手くオモテナシ出来たかしら?」
「本当、心臓に良くなかったわ。今までが今までだったから……」
「すすり泣く子が多かったイメージね。さすがに顔までは確認出来なかったけど」
「今回は彷徨人が誘ったみたい。あの子たち寂しがり屋だから」
リンダとしんみりした話になってしまったけど、彼女は本当に感情が読めない。
ただこれで、二人の運命に魔女が関わっていく未来が加わってしまった。
そして国王さまではなく、旦那さまへ報告する義務が発生する。
私が仕えているのは国王一家ではなく、あくまでこの土地を守護する一族の長だった。
特別に子供達の教育係兼お目付け役を賜ることが出来た。
「たまには、魔女の恐ろしさを知らしめないとね」
「きっと『七つの盟約』は発動されるでしょう」
「貴女には辛い役割を押し付けてしまうわ」
私も過去に『魔女』と呼ばれていた。
ただ人由来の生粋の魔女ではなく、器物から人化の術を経た比較的若い魔女だった。
「相変わらず無茶ばかりする神聖国、争うばかりの帝国」
「この地方の六つの国は協力していますから」
「私達の為にも」
「そして、この国の為にも」
リンダがパチリと指を鳴らすと、アレクさまとローズさまが浮かび上がる。
紙袋にザっと詰めたクッキーを一袋分、ローズの懐に忍ばせたリンダは静かに私の別名を呼んだ。
「二人の健やかな成長を期待しているわ。『鏡の魔女:Mirror Of Wonder』」