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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
毒と薬の魔女
6/13

決意と選択

毎週土日を目標に、1本アップを予定しております。

早めに書きあがったので、今回は本日アップ致します。

 クッキーの甘い匂いが増していき、ほのかに紅茶の香りが見え隠れしている。

 本当なら喜んでお土産にしたいクッキーも、僕達に残された時間が迫っている合図サインに見えた。


「リンダさん、可哀想……」


 暗い部屋に蝋燭一本だと、その様子はまるで怪談話のように聴こえる。

 実際、リンダさんは家族を亡くし、その後旅の老婆・・・・に助けられ一命をとりとめたようだ。

 それから本格的に、薬草についての勉強を始めたらしい。


 月日は流れ、いくつかの町や村を治めていた領主も人が変わったようだと噂され、それでも民は苦しいながらも懸命に生きていた。

 鬱屈うっくつした生活の中、人々はあの頃の暮らしを求めだした。

 次第に悪くなる治安、重税に次ぐ重税、子供を売る親・親を殺す子。


「ひどい……」

「その頃は、そんなものなのよ」


 そんなある日、思いがけずに領主は亡くなった。


 リンダさんは領主が双子だった事を老婆に話しており、その老婆は『日々を真面目に生きていれば良い事は起きる』と諭してくれた。

 だから誰を恨む事なく、まずは薬草について出来る限りの勉強を行った。


 時々帰らない事もある老婆が、領主の死の噂を境に帰ってこなくなった。

 十日が過ぎ、一か月が過ぎ、季節が変わった。

 そこでふと、老婆が何かをしたに違いないと思ったようだ。


「また独りぼっちになったという想いと、殺すべき相手がいなくなった喪失感」

「リンダさん?」

「老婆は言ってたわ。『双子はみ子、同じものを欲っしたがるし与えたがる』と。『分け合えば幸せになるのに奪いたがる』と」


 思わず僕は、目の前のカップに手を添えていた。

 リンダさんが指をパチリと鳴らすと、テーブルを照らすように新しい光が生まれる。

 最後にローズを見てから飲もうと思うと、ローズも目の前のカップに手を添えていた。


「そろそろ時間だわ」

「ローズ、手を離しなさい。お兄さまからの命令だよ」

「アレクこそ、手を離して。お姉さまからの命令ですわ」

「ふふふ、やっぱり仲良しさんね」


「いいかい? ローズ。どちらかは安全に帰れるんだ」

「私だけミランダにしかられるなんて嫌よ」

「ほら、お兄さま達がいるから、僕がいるとお家騒動・・・・になるし」

「あら、アレクは王様になりたいの?」


 多分ローズには、お腹の中にいる時から口喧嘩で勝った事はないと思う。

 それでもローズは、カップから手を離さない。


「じゃあ、僕がそっちを飲むから頂戴」

「じゃあ、私がそっちね」

「……もしこぼしても、鍋にはいっぱいあるから平気よ」


 甘い香りが増していき、リンダさんからの圧力プレッシャーが強くなった気がする。


 僕達をここに誘ったのがリンダさんなら、『嘘を吐いた場面』を最初から知っていたのかもしれない。

 悪さをしても反省していなかった僕達に怒っているとか、レシピも考えずにクッキーを作ろうとした事とか。

 それとも出来もしないのに火を使おうとした事とか?


 ローズは決意をした表情を見せているし、その手を押さえながら僕が飲むのは難しい。


「リンダさん、質問があるの」

「何かしら? ローズちゃん」

「片方のカップを二人で分けちゃダメ?」

「うーん、一人一杯は飲んで欲しいのよね」


 その言葉にローズは『ひらめいた!』みたいな顔をした。


 確かに一杯で効果が出る毒ならば、致死量未満なら生き残れる可能性が……。

 そして『僕だけが飲む』という選択肢を消すことが出来る。


 ローズはカップから二つのグラスに均等に中身を注ぐ。

 そしてもう一つのカップから二つのグラスに、均等に中身を注いだ。


「ローズ、両方毒の可能性も……」

「その時は、お空から二人で叱られに行こうよ」

「もう、しょうがないなぁ……」

「「リンダさん、頂きます」」


 僕とローズは軽く乾杯し、鼻をつまんで二人でグラスを傾ける。

 最後まで中身を飲み干した後、僕達は同時にテーブルに突っ伏すように倒れ込んだ。

 混濁する意識の中、リンダさんの鈴のような笑い声が聴こえたような気がした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「アレクさま、ローズさま。こんな所で寝てたら、風邪をひいてしまいますよ」


 少し寒かった体が、温かい何かに包まれる。

 ミランダの言葉は、ある意味『絶対者』からの命令に近い。

 それでも隣から聴こえるローズの『もーちょっと』が……。


「ローズ?」

「しー……。今、寝室までご案内しますから」

「あれ? 何でこの部屋に?」

「最初から居たのではないですか? それとも、どこかお出掛けに?」


 あの場所への道を確認しようとすると、鏡があった場所全てが布に覆われていた。

 考えようとすればするほどに、意識を刈られそうな睡魔に襲われる。


 毛布に包まれたローズは、胸元に紙袋を持っていた。

 それは少し前に嗅いだ、甘く香ばしい匂い。


 片手にローズを抱いたミランダは、僕の手を取り寝室へ向かう。

 聞きたい事はいっぱいなのに、口から出たのは「ごめんなさい」だった。


「今は、ゆっくり休みましょう」

「うん……」


 不思議な経験をしたけれど、多分みんなに話すことは出来ないと思う。

 ローズが目覚めたら、その事について話すつもりだ。

『毒と薬の魔女』解決編になります。

※今回は白雪姫のオマージュでした

次回は一話を挟んだ後、次の章に突入する予定です。


もしこのお話が面白いと思ったなら、評価を頂けると嬉しいです。

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☆☆☆☆☆(無星:反映せず)→★★★★★(五段階:MAX評価)です。


まだまだ続きますので、ブックマークも併せてお願い致します。

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