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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
毒と薬の魔女
5/13

魔女リンダ

 魔女とカミングアウトしたリンダさんは、僕達の前に二つのカップを置いている。


「随分驚いているようだけど、アレクくんは気付いてたんじゃない?」

「ここが安全な場所だなんて、思ってはなかったけど……」

「アレク、そうなの?」


 逆に、驚いているローズに驚きだった。

 あの部屋からここに来るまでの間、不思議な現象から導き出される答えは魔法くらいしかない。

 僕達は王族である以上、事件に巻き込まれる覚悟はある。

 問題は『いかに周囲まわりに迷惑をかけないか?』なので、取り乱すわけにはいかなかった。


 目の前に置かれた二つのカップ。

 リンダさんの静かな怒りは、とてもじゃないけど冗談には見えなかった。


「二人にやってもらいたいこと。それはこの二つのカップのうち、一つを飲み干して欲しいの」

「あの……、リンダさん。絵本で読んだんだけど、魔女が作るものって……」

「えぇ、もちろん。毒よ!」

「アレクゥ……」


 鍋の材料の一部は、僕達が庭で採取したものだった。

 その植物がどんな草花で、どんな効能を示すのかは分からない。

 きっと聞けば教えてくれたんだろうけど、僕達はただのお手伝い感覚だったと思う。


「二人にとって、理不尽な要求だと理解しているわ。でも、結果はどうあれ、貴方達は魔女の逆鱗に触れたの」

「げきりん?」

「龍のウロコだよ。それに触れると怒られるやつ」

「リンダさんにもウロコがあるの?」


 一般的に魔女は、人間とも人間ではないとも言われている。

 ただ総称するなら、『化け物』以外呼びようがない。


 ローズを助ける為に模造剣を手放したけど、結果として無くて良かったのかもしれない。

 訓練された正規兵を集めても、勝てるかどうか分からない相手だからだ。


 ローズの子供じみた質問に、リンダは頬を緩ませている。

 この人を魔女と呼ぶのは簡単だけど、どこか憎めない所があるように思える。

 そんな事を考えながら、視線を二つのカップに落とした。


「制限時間はクッキーが焼き上がるまでよ」

「それは……」

「どちらかが勇気を出せば、一人か二人は助かるわ。ただ……」

「どちらも毒の可能性もある……」


 僕の言葉にリンダさんは、『はい』とも『いいえ』とも言わない。

 事前に毒が入っているかどうかのチェック方法は聞いた事があるけれど、毒が入っている前提の物を口にするのは初めてだった。

 でも、クッキーが焼き上がるまでには結構な時間がかかる。

 これが何を意味するのか、それが生命線のような気がしている。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あの、透明なグラスはありますか?」

「えぇ、あるわ」


 目の前に置かれたのは、カップと同じ容量が入るくらいの透明なグラス。

 本で読んだ魔女が作る毒は、緑や紫で泡がコポコポいってそうなものだ。

 僕は順番にカップからグラスに液体を移し替える。


「アレク、二つとも無色透明だわ」

「これが本当に毒なのかな?」

「ふふふ、どうかしらね?」


 不思議なことにリンダさんは、優しさと殺意が同居しているように見える。

 それは全てを受け入れた聖職者のようでもあり、為政者の無能さをなげいているようだった。


「アレクくんは、本当に優しい子ね」

「え? 何でですか?」


 リンダさんはグラスの中身をカップに戻し、指をパチンと鳴らした。

 すると家の窓という窓から一斉に、差し込んでいた明かりが消えてしまった。

 暴風雨でひどい時に木を打ち付けて補強するように、脱出出来そうな場所という場所が塞がれているようだ。

 僕とローズの視線がリンダさんに向かうと、テーブルの上にはいつの間にか一本の蝋燭に火がつけられていた。


「私達のいた村は、とても貧しい村だったわ」


 真っ暗の中、一本の蝋燭だけの灯火ともしび

 リンダさんの独白どくはくが始まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 リンダさんが住んでいたのは、貧しいながらも特産品の野菜で成り立っている村。

 近くには森があり、そこそこの恵みを与えてくれる。

 その村を治めていた領主は、とても良心的で善政を敷いていた。


「うんうん、それで?」


 ローズの相槌あいづちは、まるで現状を理解出来ているとは思えない。

 ただ好奇心旺盛なローズに指摘しても、リンダさんの機嫌を損ねるだけだ。


 ある日家族が病を患った為、幼き日のリンダさんは森に薬草を探しに行った。

 そこでリンダさんは、フード姿の行き倒れを見つけた。

 水を飲ませ事情を聞き、村長の所へ案内することにした。


「なんか嫌な予感……」

「しっ、ローズ」


 小さな田舎だけあって、妙な客人がいる事はすぐに広まった。

 そんな事は気にせず、リンダさんは薬草を探しながら美味しい木の実も探すことにした。


 しばらくすると、村人が見慣れない男の姿を見るようになった。

 その男は誰かに見られると姿を消すようで、徐々に村の各所で複数の男達を見るようになった。


 家族の病が小康状態になる頃、徐々に風邪に似た症状の村人が増えていった。

 村長からは領主さまに助けを求めていると声があり、比較的自由なリンダさんが森へ頻繁に足を運ぶようになっていた。

 ただ病は静かに、だが確実に村人を蝕んでいった。


 ある日、突然兵と共にやってきた領主さまは『フードの男を差し出すように』と言い、村長が質問を始めると兵が剣で斬り捨てた。

 驚いた村人は恐慌状態に陥り、何故か家々が焼かれ始めた。


 その時森にいたリンダさんは急いで戻ったようだけど兵は去った後で、虫の息・・・だった村人に惨状を聞くのが精一杯だった。

 何も考えられないまま、村長の家まで幽鬼のように歩いて行く。

 そこに倒れていたのはローブ姿の男で、何気なくフードを下ろしたら、そこにいたのは領主さまの顔をした男だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレクとローズが不思議な鏡によって拐われ、導かれたのは魔女の元だったのですね。 リンダはコップに入っている液体に対するヒントとして、昔語をしているのでしょうか?それとも? リンダの話を聞…
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