表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
毒と薬の魔女
4/13

リドル

「ふぉーいひー」

「ふぉら、ローフ。んぐっ、口に入れたまま喋るのは……」

「ふふふ、二人とも仲良しね」


『何慌ててるの? アレク』みたいな顔をしているローズは、すかさず二枚目のクッキーに手を伸ばしている。

 双子とはいえ、この警戒心のなさは僕にはないものだ。

 僕は諦めてカップに手をやると、紅茶の良い香りとミルクの優しさが鼻孔をくすぐった。


 小国の王子として教育を受けていると、常に敵と味方について考えさせられる事が多い。

 それは家族の間でも同じで、弟の立場をわきまえて行動しなければならない。

 うちは兄達と年が離れているので、王位継承権で揉めようがない分まだマシだった。


「それでアレクくんとローズちゃんは、どうしてここへ?」


 並んで座る僕達の正面から、リンダさんが手を組みながら優しく問いかけてきた。

 リンダさんの視線は隣を見た後、僕に固定される。

 隣の食いしん坊は小リスのようにクッキーに夢中で、時折『材料は何かしら?』みたいな考え事をしていた。


「えーっと、正直に話します。とっても不思議な話なんですが……」

「とってもワクワクするわ。ここって、近所に誰もいないから」


 僕はリンダさんに王子・王女の立場を伏せて、『部屋から真っ暗な場所に迷い込んだ』と説明した。

 そこから灯りが差す方向へ進んで行くと、この家が見えてきたと正直に話した。


「アレクったら周りをキョロキョロ見過ぎて、ここに来るまで時間がかかったんですよ」

「あら、それはとても重要なことじゃない?」

「でも、リンダさんは安全に暮らしているのでしょう?」

「うふふ、そうね」


 リンダさんはとても話し上手で、それにも増して聞き上手だった。

 饒舌じょうぜつになったローズは、興奮してクッキーとミルクティーの感想を伝え、二人はガールズトークのように盛り上がる。


 こうなると男性の僕は話を挟みにくい。

 特に周りからは、『女性の話を遮るのは、格上の騎士に無策で立ち向かうようなもの』と言われているので、僕は話の行方ゆくえを見守ることにした。


 あっという間に今回の『クッキー事件』に辿り着き、『厨房の邪魔をした事』・『分量を適当にクッキーを作ろうとした事』・『火傷やけどをしそうになった事』そして、どうしてやったかに対して『嘘をついた事』を白状させられてしまった。


「あらあら、二人は嘘を吐いた・・・・・のね」

「だって、お兄さまの誕生日プレゼントは、サプライズにしたかったんですもの」

「でも、僕達は誰かと一緒に作るべきだったかも? ミランダとか……」


 僕とローズはバツの悪さからか、揃ってカップのミルクティーをあおった。

 そしてカップを置いて正面のリンダさんを見たら、何だか温かさの中に違う感情が見え隠れしているように思えた。


 スッと席を立ったリンダさんは、先ほど持っていた底の浅いザルとジョウロを持ってきた。

 そして不意に、「手伝ってくれないかしら?」とローズを見ながら提案してきた。


 人数分の軍手に、ハサミやゴミ籠なんかも用意してある。

 僕とローズは二つ返事でリンダさんに応えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 庭に出た僕達は、ローズさんの説明通りに作業をした。

 葉が大事なもの・花弁が大切なもの・根に薬効があるもの等|覚えることはいっぱいだった。

 ローズは僕より感が良いのに、時折集中力が足りなくて失敗する。


「ローズ、それは合ってるの? リンダさんに聞いたら?」

「もう、アレクは細かい。後で聞けばいいの」


 確かに植物ごとに別けてあるから、後で質問しても間違う事はないかもしれない。

 だけど、抑え込んでいた僕の緊急信号アラートは、異常な高鳴りを再開していた。


 作業が終わると家に戻り、汚れを落としていく。

 何故かローズの顔に土埃がついているのを見て、指をさして笑ったら僕も同じ状況だったみたいだ。

 リンダさんが出した石鹸はとても良い香りで、それだけで嬉しい気持ちになる。


「じゃあ、色々作るわよ」

「はーい」

「ローズ、今度は頑張ろうね」


 見慣れないコンロに鍋が二つ。

 着替えたリンダさんは髪の毛を縛り、小気味良く材料を刻んでいる。

 手際よく何かを作っているみたいで、二つの鍋のそれぞれをグルグル回しながら、僕達へ作業の指示をしてくれる。

 こちらからは後ろ姿しか見えないのに、僕達のやっている正解も不正解も見透かしているようだった。


 僕達が進めているクッキーの作業工程は順調だと思う。

 型抜きまで終わると、後は鉄板に並べるだけだった。


「二人とも、疲れたんじゃない?」

「いいえ、大丈夫です」

「ねえ、リンダさん。本当に、お土産にもらって良いのかしら?」

「えぇ、もちろん。後は焼成だけだし、こちらでやるわ」


 粉だらけになった僕とローズは、いつでも帰れるように手洗いをして席についた。

 そこにリンダさんは、二つの鍋からそれぞれをカップに入れ、僕とローズの前に置いた。


「さて……、二人には帰る前にやってもらう事があるの」

「次は何ですか?」

「……はい」


 まるで『菜の花を敷き詰めた、緑の絨毯の上にいる』居心地の良さなのに、不意に大雪が降り注ぐ曇天のような空気の重さを感じた。

 リンダさんの柔らかい微笑みに嘘はない……と思う。


「貴方達、嘘をついたのよね」

「それは! サプライズだから……」

「私達魔女は、嘘を決して赦さないの」

「……魔女」


 そう言われて、ほっとした自分がいる。

 こんな人っこ一人いない場所に、一人暮らしをしている時点でおかしかった。


 あのグルグル回していた鍋の中は、きっと毒だろう。

 つまり僕達はこの場で死ぬ、じゃあ何で鍋は二つなんだろう?


「ただね、二人はとっても良い子みたいだから、チャンスをあげたいなって」

「チャンス?」

「……魔女の言う事に」


 僕の言葉にローズは気が付いていない。

 それは絵本にも書かれている、よく言われている言葉だ。


『魔女の言葉に耳を貸してはいけない』

 選択肢がない今、僕はこの状況を脱する為に精一杯考えることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ