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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
毒と薬の魔女
2/13

お仕置き部屋の謎

 背の高さくらいある、布におおわれた何か。

 全体的に暗いので、ちょっとめくったくらいで何かは分からない。

 思い切って布を引き落とした瞬間、僕の体は強張こわばってこおり付いてしまった。


「アレク、どうしたの?」

「あっ、うん。何でもない」


 ローズの問いかけで、すぐに体全体が機能を取り戻した。

 目の前にあったのは姿見の鏡で、一瞬だけ鏡の中の何かに怯えてしまったようだ。


 等身大の影に怯えるのは、子供だけで十分だと思う。

 僕は王子として剣術を習っているので、断じて子供枠には入らない。

 きっと小鬼ゴブリンくらいの魔物なら勝てると思う。


「ちょっと、ランタンを貸して」

「あっ、ローズ」

「お兄様が守ってくれるなら、灯りを持つのは私の役目じゃない?」

「こんな時ばかり、お兄様って言うんだね……」


 僕のすぐ横に並び、ローズは鏡に映り込むように割り込んでくる。

 一瞬感じた寒気は、薄明りの中で急に鏡を見たからだろうか?

 それとも絵本で見た、『鏡の魔女』を思い出したからかもしれない。


 この世界には、魔法もあれば魔道具もある。

 それでも魔女が恐れられているのは、たった一人でも村程度なら簡単に滅ぼせてしまうからだ。

 何十人・何百人の兵を投入して、ようやく討伐出来ると噂されている。

 この話自体が『おとぎばなし』かもしれないけれど、小鬼ゴブリンよりよっぽど恐れられている存在だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 好奇心旺盛なローズは、その分飽きるのも早い。

 すぐに周りに興味が行き、僕は灯りを頼りにしないといけない為、目の前の鏡から視線を外した。

 その瞬間、鏡の中を何かが高速で横切った……ような気がした。

 視線を鏡に戻すと、普通にこちらを映し出す鏡でしかない。


「どうしたの? アレク」

「ううん、何でもない。他のも探してみる?」


 注意深く鏡を上から下まで見ながら言うと、床に若干のくぼみがあることに気が付いた。

 左右にある枠が鏡を中央で挟んでいる為、この鏡は上下に回転出来そうだ。

 移動はキャスターがついているから問題ない。


 いつまでも鏡を見ていると『魅入みいられる』と言われている。

 地面に落ちた布を拾っていると、ローズが急に移動を始めた。

 いつもミランダからは、「ローズを一人にしてはいけません」と注意されている。

 僕は兄としての責務を全うする為、急いでローズの隣に移動する。


「アレク、布なんか持ってきてどうしたの?」

「ローズが次から次へと移動するから……。大体、片付けるのが目的じゃなかったの?」

「うーん……、まずは全体的に調べる方が先じゃないかしら?」

「はいはい、好奇心が勝ったんだね」


 ローズの好奇心は、僕の言葉よりも勝っているらしい。

 いくつか布のかかっている所へ行き、僕が布を剥がして調べているうちにローズは移動する。

 まるで道化のような行動でも、ローズは意にも介していない。

 段々と手持ちの布が多くなる中、背後にある等身大の鏡が妙に気になりだした。


「もう、アレク遅い!」

「ローズが早すぎるんだよ。良いかい? 僕たちは反省中なんだからね」


 三個目の鏡に到着すると、ローズの興味は更に薄れていた。

 逆に僕の中で、『何かが起きている』という危険信号が早鐘のように鳴っている。


「ローズ、止まって!」

「アレクは慎重に調べすぎなのよ。ほら、これだって」


 多分、四個目の鏡だと思われる布を、ローズは無造作に引き剥がそうとする。

 まるで背後にいる僕に見せるように「ねっ!」と、振り向きながら布を引き落とした。

 僕は布を脇に落としながら、ローズへと走り出す。

 何故か前方の鏡から最大級の嫌な予感がすると同時に、薄暗い鏡の中からデフォルメされた白い手袋が二つ、『ニュ』っと飛び出てきた。


「ローズ、しゃがみこめ!」

「えっ? アレク、どう……ムグッ」


 ローズがランタンを落とした。

 その瞬間、四方に展開された板のうち三枚が収納され、一面だけが鏡を照らすように残った。

 ローズは片手が口を、片手が腹部を押さえられ、波紋を浮かべる鏡の中に引きづり込まれそうになっている。


 僕は走りながら腰に挿してる模造剣を抜き、ローズを連れ去ろうとする手に向かって振り切った。

 そんな攻撃をあざ笑うように、片方の手は鏡の中に消えていく。

 ただ鏡の中の手は、不意打ち気味にローズを引っ張った余波で、ローズの体は鏡の中に吸い込まれそうだった。


「ローズ!」


 口を押えられてパニックになっているローズは僕に手を伸ばす。

 僕は『模造剣を持っていては間に合わない』と判断し精一杯手を伸ばした。


 僕たち双子は、どんな時も離れ離れになってはいけない。

 ローズの手と僕の手が固く結ばれた瞬間、僕たちは鏡の中に飛び込まざるを得なかった。

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