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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
獣と魔女
12/13

ユーリッドの魅力

 網から抜け出した僕たちは、微妙な空気に包まれていた。

 ローズは顔が大きくデフォルメされた、黒っぽいシャム猫に見える。


「あはは、アレクの顔真っ黒・・・!」

「そういうローズこそ!」


 双子だけあって、どうやら同じような猫獣人になってしまったようだ。

 不思議なのは衣装まで変化していたこと。

 ローズはエメラルドグリーンのドレス姿になっているし、僕の衣装はタキシードにシルクハットだった。

 持ってきたのは木剣なのに、何故か細身の剣エストックに変化していた。


「ハフー、ハフー」

「あ、アレクさま・ローズさま」

「ユーリッド……ちゃん?」

「た、助けて……」


 問題は、こっちの二人だった。

 元々中性的な顔立ちをしていたユーリッドは、実は女の子と判明したのは問題ないけど……。


 虎人族のガオールが激しく興奮している。

 それは種族的な問題もあって、獅子族による楽園ハーレムを目指すのが『獣人の国』の夢だからだ。


「ハフー、何も。ハフー、してねぇぞ」

「目が怖い……」

楽園ハーレムって、男が適えるんじゃないの?」

「うっせぇ。俺も今困惑してんだ!」


 人間の体から獅子族ライオンの体になったユーリッドは、少し戸惑いながらもドレス姿を喜んでいる。

 それは鮮やかな広がりを持つ海を思わせる青いドレスで、ローズと二人舞踏会に招かれているようだった。


 ちなみにガオールの衣装に変化はなかった。

 いつまでもこの場にいても仕方がないので、赤いフードの女性が消えていった方角を目指すことにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ガオールを先頭に少し歩くと、今回は大きな建物が見えてきた。


「ねえ、アレク。アレかな?」

「多分ね、ヒントがない以上、頑張るしかないね」

「おい。やっぱり、この状況変だろ?」

「ちょっと、ガオールくん。……うっ、見つめてくるのは止めてくれないか?」


 ユーリッドはいつも通り話しているつもりでも、ガオールにとっては艶めかしく聴こえているのだろうか?

 無言の訴えであまりにも見てくるものだから、今はガオールの隣にローズがいて僕の隣にユーリッドがいる。

 猫の獣人になったからといって、ユーリッドの美醜が変わったようには思えない。

 ガオールだって、そこの変化はないと思うんだけど……。


 建物に近付くにつれ、それが城だと分かる。

 後ろから聞こえてくる馬車の音に気付き、僕はそっとユーリッドの手を引く。

 当然こちらより先にガオールも気付いているようで、残念そうな顔でローズをエスコートしていた。


にらまないでくれるかな?」

にらんでねぇよ」


 ガオールの眼力がんりきというか、黙り込んだ後の圧がひどい。

 今までユーリッドをぞんざいに扱っていたのに、メガネを外した女性が実は美女だった驚きをしている。

 それでもローズをエスコートしている姿は慣れていたので、王族としてのたしなみは身についているようだ。


「一つだけ確認したい。さっきのはやっぱり?」

「うん。多分、魔女だと思うよ」

「そんな……」


「それで、今何が起きてる?」

「ガオールくん、私たちにも分からないの。でも、事態が収まれば帰れる筈だよ」


 ユーリッドは凛々しい雌獅子の顔で、僕のタキシードの裾の部分をそっと掴む。


「なあ、場所を……」

「変わらないよ!」

「そ、そうか……」


 みんな猫っぽい顔をしているけど、醸し出す強さ的にはユーリッド>ガオール>僕=ローズだ。

 ただ見た目の強さを足しても、前回会ったリンダに勝てる気がしない。


 ましてや今回の魔女は細長い鉄塊ライフルという武器を持っていた。

 あれは魔法の杖の役割があったのか?

 それとも、そんな武器さえ必要はないのか?

 魔女に逢うのは二回目だけど、今回も殺されなかったのが不思議なくらいだった。


「ねえ、あそこが入口かな?」

「多分そうだと思うけど、馬車がひっきりなしだな」


「もしかして、これから舞踏会ぶとうかいがあるのかも?」

「おっ、舞闘会ぶとうかいか……? ユーリッド、俺がツエェところ見せてやるよ」

「「プッ」」


 ローズと一緒に吹きだすと、ガオールは不思議な顔で全員を見回していた。

『獣人の国』では、違うもよおしがあるのかもしれない。


 問題は僕たち――主にガオールの恰好で、もしドレスコードがあるなら引っかかるかもしれない。

 何故かガオールの姿だけは変わらなかったけど、さすがに短パンに革のベスト姿ではマズいだろう。


「とにかく魔女に会って、元の場所に帰して貰えるように頼もうよ」

「そうだね。二人にもしもの事が……」

「アレクさま・ローズさま、この顔は十分もしもです!」

「あぁ? いや、ユーリッドはユーリッドのままが良いんじゃねぇか?」


 何故かガオールは、普段は言わない台詞せりふを言い出した。

 問題は『ユーリッドのまま』が、どの状態を差すのか?


「そういえば、僕たちも困るね」

「多分、そのうち治るんじゃないかな?」

「ローズ、お母さまのお茶会が待ってるんだよ!」

「あっ。これじゃあ熱くて、お茶が飲めないね」


 ローズから斜め上の答えが返ってきて、僕のりきみが軽くなる。

 まずは城に潜入してから考えよう。

 ガオールとユーリッドの問題は、その後でも何とかなると思う。

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