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アレクとローズと優しい魔女  作者: 笹之葉サラサ等
獣と魔女
11/13

美女の野獣

 前回と打って変わって森の中。

 かろうじて道らしい場所ではあるけど、もちろん舗装はされていない。


「ガオールくん?」

「来るぞ!」


 虎人族であるガオールは感覚が鋭い。

 今でも分からない何かを、鏡の向こう側の時点で察知していて……。


 そうだ、鏡は?

 こちらは前回と同じように、景色に同化して消えてしまったようだ。

 とりあえず今は、みんなが無事でいることの方が大切だと思う。


「来るって何が?」

「ユーリッドくん、とりあえず下がろう」


 ガオールの睨む方からユーリッドを下がらせて、僕はガオールの隣に並び立つ。

 いざとなったらローズは逃げてくれるはずだ。

 何故ならミランダに捕まる確率は、双子なのに僕の方が圧倒的に高い。

 少しすると、誰かが走って来るようだ。


 フード付きの赤いエプロンドレスの少女で、前面には白い布がフリルっぽくなっている。

 茶色く編まれたカゴを抱えるようにして、その少女はこちらに向かって走って来る。

 そして絶妙な位置で転んだ……。


「もしかして、あの息遣いを?」

「あぁ、何かありそうだろ?」


 まるで大事な物だけでも守るかのように転んだので、多分すり傷がひどいだろう。

 少女はこちらに目もくれず、反対側を向いて座り込んでしまった。


 ゆっくり歩き出すガオールの横を、僕は慎重に見回しながら少女に近付いていく。


「走らなくて良いの?」

「あぁ、こういうのは牽制けんせいになるからな」


 少女は慌てていて、カゴを手元に引き寄せようとしている。

 ただ、少女の後ろから何も来なさそうな事に違和感はあるけど、ガオールは警戒態勢を解いていない。

 すると少女のすぐ左の繁みから、ガサガサする音が聞こえてきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ズキャァァァン――晴れ渡る青空に、棚引たなび白煙はくえん

 いつの間にか少女の手には細長い鉄塊ライフルがあって、覆いかぶさる寸前の犬獣人の喉元に風穴を空けていた。

 少女に向かってゴフリと血を吐く犬獣人を右手で無造作にどけた少女は、赤く染まった白いエプロンを剥ぎ取った。

 そして埃を払いながら立ち上がると、篭から何かを取り出そうとして……こちらを振り返った。


「チッ、無駄骨か」

「ちょっと、ガオールくん。言い方!」

「そうですよ。それにあの犬獣人……」


 三人とも危険が去ったと思っているようだけど、それは早計というものだ。

 僕にとってどちらかというと、この少女の方が危険度が高い。


「ちょっと、気付いていたなら……」

「アァァン?」


 スチャっと細長い鉄塊ライフルをガオールに向ける少女。

 そういう反応を取るのも仕方がない。

 さっき倒れた犬獣人は、ガオールの国で普通に見かける人々だと思う。


「おいおい。勘違いされちゃ困るが、そいつはコボルトだ」

「躾がなってないのには変わらないと思うけど?」

「確かにガオールくんは躾がなっていませんが!」

「アァァン?」


 ユーリッドのフォローだかフォローじゃないんだか分からない言葉に、ガオールは振り向いて目を剥く。

 この二人はいつもこんな感じなので、正直止めた方が良いのか判断に困ってしまう。


化物コボルトを倒すのに文句はねぇよ」

「その目は生意気ね……。そして淑女レディに対する配慮が足りないわ」

「ケッ……。今、何処に、淑女レディが、いやがる?」

「そう……、それがお前たちの答えね?」


 赤いフードを被った少女はそう言うと、下げていた長い大筒の鉄塊バズーカを構えた。

 いつの間に形状が変わったのか、嫌な予感しかしない。

 まずい……、非情にまずい。あの大筒からはかなり危険な雰囲気を感じる。


 ガオールは撃ち落とせると思っているようだけど、さっきの細長い鉄塊ライフルでさえ化物コボルトがイチコロだった。

 僕たちに向けられたその筒の大きさは、掌を広げたくらいある。

 もしガオールが避けられても、その後ろにはローズとユーリッドがいた。


「俺たちはお前を助けにきた。だが、そんな恩知らずな真似をするなら……」


 ガオールが全てを言いきる前に、何かが放たれた。

 僕は木剣を前方に出し、運良く当たってくれと願う。

 目で追う事は無理そうだけど、咄嗟の事だったので思わず目を瞑ってしまった……。


 目を開けた瞬間、何故か僕たちはまとめて網に捉えられていた。

 その範囲は狭く四人が藻掻もがくものだから、どれが誰の手だか脚だか分からない。


「少しは反省するといいわ。まあ真実の愛でも見つけられれば、その性格も治るかもね」

「て、テメェ……」

「ちょっとガオールくん、動かないで」

「ちょ、ぶちのめして・・・・・・やるからそこにいろ。無視すんな!」


 ガオールの叫びもむなしく、少女はこの場を後にしようとしている。

 途中でコボルトの頭を掴み、ズリズリと引き摺っている姿は逆に怖い。


 そもそも倒せる力があるのに、何で逃げてきたのだろうか?

 変わらずに藻掻もがいているので、僕たちは誰が誰だか……。


「ちょっと、毛が多すぎじゃないか?」

「アレク、それは失礼じゃ?」

「あぁ? 良いから動くな。今、網を切るから」


 一旦落ち着いて動きを止めると、ガオールが爪を伸ばして網を切り裂く。

 順番に網から抜け出すと、僕たち全員は獣人の姿になっていた。

 虎獣人のガオールは変わらなかったけど、僕とローズは顔の比重が大きめな猫獣人の姿になっていた。

 問題はユーリッドで……。


「お、お前……」

「な、なんだよ。ガオールくん」

「め、メスだったのかよ!」


 そうユーリッドはユーリッドくんではなく、ユーリッドさんだった。

 顔は精悍にして気高い獅子族の姿で、獅子族と言えば『獣人の国』に於いて……。


「ハァ、問題しかないな」

「問題しかないね」


 前途多難だった。

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