王子と王女
新しく物語を始めました。
作者として読者として、楽しい物語にしたいと思います。
皆さまのご意見・ご感想を頂けると嬉しいです。
Twitterもやっていますので、そちらも覗いて頂けると幸いです。
@Sarasa_MilkyWay
今日は特別な日らしい。
いつもなら寝ている時間に起こされ、僕とローズはバルコニーに出た。
国の繁栄も、夜になると眠りにつくみたいだ。
「あっ、見てアレク。流れ星!」
「えっ、どこどこ?」
「ほら、あっち。もう……、すぐ消えちゃうんだよ」
「残念……。そうだ、ローズ。お祈りをしないと!」
「じゃあ、次のが来たらね」
その日は数十年に一度、天に異変が起きる日だったようだ。
これが吉兆なのかどうかは分からないけれど、僕とローズは多分同じことを願ったと思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小さな頃から絵本で見てきた魔女たちは、この国では恐ろしい女性と語られている。
ある魔女は大きな甕で毒薬を作り、ある魔女は天候さえも操るらしい。
「アレク、早く続き続き!」
「しぃー、ローズ。お父様はカンカンだし、お兄様たちも呆れ顔だったんだよ」
朝ベッドで目覚めると、ローズは僕の顔を覗き込んでいた。
隣に並んだベッドはもぬけのからで、僕を起こすには忍びないものの、起きるのを待ちきれなかったようだ。
その日はお兄様の誕生日間近で、ローズが突然手作りクッキーを焼きたいと言い出した。
ローズは思いついたら一直線だし、そんなローズの事を一番に理解しているのは双子の僕だ。
日頃、僕たちの面倒を見てくれるミランダを撒いて、調理場で作業している大人達に手を出さないように命令する。
順調に進んでいた調理も火傷しそうになった所で、早々にミランダに見つかり咎められた。
ミランダは何故正確に、僕たちのいる場所を把握してくるのだろう?
僕たちは今、お仕置き部屋で反省しているフリをしている。
それでも優しいミランダはランタンに灯りをともし、一冊の絵本を持ってきてくれた。
「もう、アレクは何でも遅いんだから」
「ローズ……。仮にも僕は、君のお兄様なんだよ」
「あら、そうかしら? 双子の産まれは、先に出た方が……」
「しぃー……」
僕は自分の唇に指を当て、大きな声を出そうとするローズに『今、何処にいるか』を再確認させる。
更に声を上げそうになったローズも、その仕草で状況を理解出来たようだ。
お互いに五歳の身では、有意義なプレゼントなど出来はしない。
お金を出せば買える物もあるだろう。
でも、そのお金も出掛ける術も今はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それにしても、何でこの部屋なんだろう?」
「でた! アレクの何でだろう」
「でも、ローズ。いくら王族だからって、『子供専用のお仕置き部屋』があるのは、おかしいと思わない?」
「うーん……。確かに物置代わりにしては、おかしいわね」
僕はランタンを目線の位置まで掲げ、ローズの首の動きに合わせて移動をさせた。
ミランダはさっさと戻って行ったし、いつまでここで反省していれば良いかは分からない。
いつもなら僕たちはいつの間にか寝てしまうみたいで、その時は毛布に包まれて『ごめんなさい』を言う事が多かった。
「ねえ、ここを片付けたら褒められないかな?」
「ハァ……、ローズ。僕たちのする事は反省であって、点数を稼ぐことじゃないよ」
「アレクは本当に、そう思ってるの?」
「……モチロンだよ」
ジーっと覗き込む視線に、思わず目を逸らしてしまう。
そんな僕からローズはランタンを取り上げると、仕掛けを解除して展開した。
このランタンはガラスの外側に四方の木片が覆っていて、上下にスライドさせて光を遮ることが出来る。
仕掛けを展開すると、周囲を大きく照らす事が出来るようになる。
逆に一辺だけ灯りを出す事も出来れば、四方を囲ったまま仕掛け2に当たる、針の穴くらいの細い光を出す事も出来た。
「何でこんなに、物が点在してるのかな?」
「アレク、これはもしかして?」
「ローズ、仕舞ってある物だからプレゼントには向かないよ」
「でも、お宝があるかもしれないわ」
少し考えれば分かる。
ローズが絵本一冊で、満足出来るわけがない事を……。
ミランダがいない時、ローズは少し大胆になる。
その代わり、彼女がいる時は絶対服従だ。
それはお父様・お母様と一緒に居た時にした約束。
お母様は病に臥せっているので、僕たちに課せられた一定のガイドラインだった。
「ハァ、じゃあ見るだけだよ!」
「うん。良い弟を持ったお姉様は嬉しいわ」
「ローズ、僕がお兄様なのは譲らないからね!」
「もう、そこは乗ってこないのね」
双子にとって、そこは外せないアイデンティティーだ。
まだ似た顔でも、男女の違いがあって良かった。
ローズからランタンを受け取り、僕が先頭になって部屋を移動する。
無駄に広いこの部屋も、物を片付けて行けば何かに使えるかもしれない。
背の高さくらいの何かが、布に覆われて点在している。
その内の一つの布を手に取り、そーっと捲ると……。