表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢守ノネットシンフォニア  作者: 鳥路
Album1:現実とゲームの始まりへ
8/32

Track8:帝国が保持せし13の武具

家の中に入る

半年前から暮らしているこの家は、ゲーム内では「ギルドハウス」と呼ばれるものだ

半年前の日付で一馬兄さんが所有者となっている


この家にいる全員が、今はそのギルドに所属している

一馬兄さんは自分がゲーム内に閉じ込められたことで、もしかしたら他の兄妹も同じ境遇かもしれないと思い、まずは連絡をそのまま繋いでいた音羽姉さんと合流した

その流れで、奏姉さん、桜姉さん、そして僕と政宗が一馬兄さんに保護されたわけだ


僕と共に行動をしていたルル・・・「ルルリエール・アリシア」はゲーム内で出会った外国人の女の子

ルルは日本に来たばかりだそうで、英語しか話すことができない

今は簡単なことなら話せるようになったが、前は一馬兄さんと音羽姉さんしかまともに意思疎通を図ることができなかった


話を聞くと、ルルは外国人学校の友達に進められてゲームを始めたという新人プレイヤー

皮肉にも、そのプレイ開始日は半年前

このゲームを始めると同時に、このセカイに閉じ込められてしまったのである

もちろん、両親もまだこのゲームを始めておらず・・・ルルは右も左もわからず、誰にも頼れない状態でこのセカイをさまよっていた

そこを音羽姉さんと僕が見つけて、一緒に行動するようになったという経緯がある


他にも、ここには九重家以外の面々がいる


「ツカサ、ツカサ」

「どうしたの、ルル」

「マサムネとツクモ。うだうだ」


ルルが指さす先には、項垂れた政宗と築茂

二人は僕が帰ってきたのに気が付いて、覇気なく手を振る

僕の友達である政宗と築茂ももちろん例外なくここにいた


二人は今、レベルを上げつつある調査に出向いていた

その同伴者は・・・


「ほら、二人とも。司君帰ってきましたよ。新発見話すんじゃなかったんですか?」


一馬兄さんと同じくらいの伸長を持つ、如何にも司書のような恰好をした「召喚者」の役を持つ「六平坂薫ろくひらざかかおる」さん

三波兄さんの助手ポジション(自称)の女子大学生だ


そしてもう一人


「司だ。お帰り」


こちらもまた無気力に手を振る「狩人」の役を持つ次女の志夏姉さん

薫さんと志夏姉さんは同級生で、三波兄さん関連で交友があるらしい

彼女もまた初心者に近い存在ないので、志夏姉さんがここに連れてきたという訳である


「お疲れ、政宗。築茂」

「おつかれ司」

「おつかれさん、司」


互いに労わりつつ、政宗と築茂は上体を起こしてちゃんと椅子に座る

政宗はこのセカイでは「戦士」の役を持つ。築茂は「魔術師」


「護衛騎士さんは、きちんとお姫様の護衛を成し遂げたようやなぁ」

「その役で呼ぶなって。恥ずかしいんだよ」


護衛騎士、というのが僕のこのセカイにおける役だ

元々「槍使い」だったが、武器が役職を変えたのだ

僕が持つこの槍「騎士長の長槍・メヌエット」

これもまた、ラストエンパイアシリーズの一つだ


他のラストエンパイアシリーズを持つ人は全員あの針に刺された

どうして僕だけが残されたかなんてわからないし、それに・・・このメヌエットも本来のスキルが使えない状態になっている

それを使えるようにするためには・・・もう一度、あの場所に行き、騎士長の試練を受けなければならない


「司、ん」

「なに、これ」


築茂が色々と書かれたメモを手渡す


「なにって。ラストエンパイアシリーズの所持者と武器一覧。そしてクエストがあるエリアの一覧やけど・・・」

「なにそれ凄い!?」


僕の声に反応して、別の場所にいた他の兄妹も飛んでくる


「それ、どこ情報!?」

「よくパーティー組ませてもらってた人に運営会社の人がいたんよ。有事やから、抜き取ってもらった。メヌエットのプレイヤー情報を提供する代わりに、名前付きでな?」


築茂のパーティーは割と人脈広いな・・・三波兄さんも組んでたし、何気に凄い気がする

勝手に情報を提供されたのに関しては言いたいことは少なからずある。しかし、それでも

それだけで十分な情報が得られたのだ

何も言うことはない。文句なんて言えるわけがない


「僕の情報で全員分手に入れられるのなら十分だよ・・・」

「情報って言っても、ゲーム内での影響みたいな感じや。特に司・・・メヌエットのプレイヤーは例の武器を持っているうえでアカウントがおかしくなってない唯一のプレイヤーやから。ついでに言うと、個人情報以外は他のプレイヤー以外にもばらまいてもらった。攻略の為にな」

「助かるよ、築茂。でも、おかしく・・・?どういうこと?」


築茂は全員が集まったことを確認して、運営さんに聞いた話をメモしたであろう手帳を開いた


「まず、運営さんの話によると「ラスト・エンパイアシリーズ」を持っているプレイヤー全員のアカウントが乗っ取り状態なんよ。司以外ってなるけどな」

「じゃあ、今・・・そのプレイヤーはどうなっているわけ?」

「プレイヤーはログインして、意識もあるのに挙動がおかしいって。でもなあ」


築茂は視線を一馬兄さんに流す


「まずは、このリストを見てほしい」


築茂はメモを操作して、拡大して全員に見えるようにしてくれる

そこには、築茂が貰ったプレイヤーと武器名、そしてエリア名の一覧が存在した


・精霊王のアリア:エリア名「精霊の幻想郷」:九重三波

・夢見姫の書架キャロル:エリア名「茨に眠る廃図書館」:四条瑠月しじょうるつき

・狂博士の大砲イラート:エリア名「汚染されし実験場」:五月さつきあさぎ


「まずは三人。この中で見覚えのある名前は・・・まあ、ナミさんというか、三波さんやろうな」


それともう一人、別の名前に反応していた人がいた


「・・・あさぎ?なんで、ここにいるの?」


桜姉さんは大砲の持ち主である「あさぎさん」という人物に心当たりがあるようだ

が、全員それに気が付かないまま話は進んでいく


「九重三波とは現実で連絡が取れとるらしいんや。一馬さん、この人は・・・九重家の家族で間違いないんよね?」

「うん。三波はうちの三波だよ」

「彼は現実で起きとるらしい。ゲーム内ではログイン状態にかかわらず、な」

「それって・・・」

「そう。ある意味別媒体から完全乗っ取り。当の本人たちから見たら自分のアカウントが凍結されている状態らしい。運営に保護された三波さんは何度もログインを試みとるらしいんやけど、全くらしいんや」


「じゃあ、今、このセカイで三波兄さんに出会ったら・・・」

「他人やと思った方がええ。それに、司以外の保有者は、プレイヤーに対しての攻撃がなぜかできる。痛い思いは全員したくないやろ?ましてや身内から、なんて・・・」


その言葉に全員が沈黙する

このゲームは、プレイヤー同士の戦闘は許可されたイベントでしかできない

ましてや、何もない状態で攻撃などできないのだ

それが、十一人のプレイヤーに関してだけ許可されている

その言葉に、背筋が凍った


「まあ、唯一の救いは・・・保有者はクエストエリアの最深部に居座っているってぐらいやな。ただ・・・一人を除いてやけど」

「どういうこと?」

「まあ、急かさんと。続き、いくで」


メモをスライドさせて、次の保有者を表示する


・帽子屋のおもちゃアニマート:エリア名「不思議の鏡内国」:六見渡帆むつみわたほ

・騎士長の長槍メヌエット:エリア名「帝国軍基地」:九重司

・監獄囚の銀鎖プレスト:エリア名「終身監獄:最下層」:一園鳴海いちぞのなるみ

・巨人兵の氷槌ノクターン:エリア名「古き戦場の巨人村」:八重咲宇月やえざきうづき

・生存者の二丁銃エネルジコ:エリア名「裏帝国都市・カルテイロ」:三奈森栄みなもりさかえ


「ツカサだ!」

「そうだね、ルルちゃん」


僕の名前を見つけて、音羽姉さんに褒められるルル

・・・日本語、読めるようになってきたなと言いたくなる微笑ましい光景なのだが、今はそんな場合ではない


「六見って、あの六見渡帆か?」

「うん。うちのクラスの六見さん。このゲームとは縁遠い存在と思ってたけど、プレイしててこんなものを手に入れてたんやなあ・・・」


正宗が言う通り、僕らが知っている同級生の六見渡帆さんは、凄く大人びており小学生とは思えないような人なのだ

賢くて、バカ騒ぎも呆れた目で見ている・・・読書好きな女の子

まさかこんなところで名前を見るなんて思っていなかった


「三奈森栄って・・・中学教師じゃなかった、一馬兄さん」

「うん。志夏たちが中学生の時の担任だね。あまり、いい思い出はないけれど」


どうやら、三奈森さんという人にも心当たりがあるようだ

世間って狭いなと思いつつ、次の情報を期待して全員が築茂に注目する


「・・・次は、その・・・このシリーズのクエストの中で、かなりの高難度をたたき出していたクエスト。例えば、シキのクエストとかなんやけど・・・」


築茂は、メモをスクロールする


・災禍鬼の大剣グランディオーソ:エリア名「炎獄の孤島」:二島湊にしまみなと

・聖天使の細剣シンフォニア:エリア名「天海最下層・落翼場」:九重双馬


「一応聞いておくけど、この、九重双馬さんって・・・」

「・・・僕の弟。正確には三つ子の真ん中なんだけど」


築茂の質問に、一馬兄さんが答えてくれる

まさかこんなところで双馬兄さんの名前を見ることになるなんて誰も思っていなかった

けれど・・・


「双馬兄さん。それだけは、諦めてなかったんだ。よかった・・・」

「奏」


本来なら喜ぶべき状況ではないけれど、奏姉さんだけは双馬兄さんの名前を見て涙を流して喜んでいた

志夏姉さんがそれを見て、奏姉さんを抱きしめて慰める

けれどその光景は僕的には違和感があった


奏姉さんと双馬兄さんの仲は兄妹の中でも一番冷え切っている

二人が食卓以外で同じ空間を共にすることはないし、当番も一緒になればわざわざ他の兄妹に代わってほしいと頼むぐらいだ

奏姉さんが双馬兄さんに関することで喜ぶ姿は、僕的には違和感なのだが

兄さんや姉さんたちは当たり前のように接していた


「正直、九重って名前を見たら、この九重家の一員として思っていたんやけど・・・もしかしなくても、この家に「深参」さんって名前の人、おる?」

「うん。三つ子の末に深参がいる。まさか・・・」

「予想通り。彼もこのリストの中にいる。けど・・・一つ異なるんや」


その合間に、築茂が一馬兄さんに問いを続けていく

その結果、深参兄さんも保有者の一人だとわかったのだが・・・築茂の話はそれだけでは終わらないらしい


「・・・この人なんよ。自分の武器に対応するエリアから移動して他のエリアに居座るプレイヤー」

「双馬兄さんとか、三波のところにいるとか?」


桜姉さんは他の兄弟の元かと思い、そう聞くが・・・築茂は両方首を振る


「メモの続き。これが最後や」


・航海士の短剣トリオ・ソナタ:エリア名「深海迷宮の廃船」:九重深参(エリア内不在)

・死神の処刑鎌ラメント:エリア名「死神の処刑場」:七峰志貴

・藤姫の革命扇子グローリア:エリア名「花園宮の儀礼場」:未クリア


「・・・なんで、志貴まで」

「志貴さん」

「・・・探してた人、こんなところにいたのか?」


僕と一馬兄さん、そして半年前に話だけ聞いていた正宗がその名前に反応を返す


「・・・志貴さんって人に心当たりは?」

「あるよ。志貴は、僕らの同級生で、深参の親友だから・・・でも、このゲームをやる余裕は彼自身にはないはず・・・」


「日本語喋れないから?」

「何言ってるの、司。志貴は日本語だけじゃない。ドイツ語も英語もフランス語もイタリア語も中国語も韓国語もアラビア語も、スペイン語もギリシャ語どころかラテン語、エスペラント語でも会話できるようなバイリンガルだよ・・・?」

「え、でも・・・双馬兄さんが喋れないって」

「ああ。俺もそう聞いた」


僕と政宗の言い分に、一馬兄さんは何かに気づく


「・・・双馬、そう言うことにしたのか。それならそうと伝えてくれないと」

「・・・一馬兄さん」

「気にしないで。志貴が話せないのは・・・今は事実だから」


今は事実。その言葉に引っかかりを覚えないわけではない

志貴さんにはまだ何かありそうだ


「一馬さん。一応言っておくけど・・・志貴さんのエリアに、深参さんがいる。その理由に心当たりは?」

「・・・ある。けど言えない」

「そっか。僕的にはそれで十分。しかしあの作曲家の九重深参が九重家の人やったとは・・・世間は狭いなぁ」

「そうだね。世間が異様に狭すぎて、嫌になるよ」


兄弟が四人。桜姉さんと関わりがあるのが一人。同級生が一人

僕もよく知る深参兄さんの親友が一人

改めて見ると、世間が狭すぎる気がしてきた


「・・・これで全員かな?」

「ああ。全員。それでな。全員に提案があるんよ」


築茂は手を叩いて全員の注目を自分に集めた


「僕は、三波さんのクエストを攻略したい」

「確かに、一番手っ取り早いのは三波のクエストだと思うけど・・・あれ、かなり条件が面倒なんだよね?厳しくない?」


桜姉さんの言葉に、三波兄さんの攻略を知る全員が首を縦に振る

しかし築茂は諦めない


「アリアのクエストはそこまで制限がない。絶対に精霊術師じゃないといけないとか縛りはない。時間制限は大きいけど、条件さえわかっていれば一番攻略しやすいクエストだって三波さんは半年前に言ってたんや」


そして、築茂はそのメモを上げる


「ここに、その時聞いた条件を全部まとめとる」

「・・・じゃあ、准教授を」

「そう。僕らにとって最短でクリアできるのは彼のクエストや。それに、精霊術師としての実力も、死神はともかく、災禍鬼と聖天使、そして航海士の相手をする前提なら・・・必ず確保しておきたい」


ゲームモードの築茂の言葉に圧倒されつつ、僕らは彼の言葉を聞き続ける


「まずは簡単なものから地道にやっていくんや。提案したのは僕やし、僕はこのクエスト絶対にクリアする!皆にはそれを手伝ってほしいんや!」


「確かに。築茂君の言う通りだね。僕は賛成だよ」と一馬兄さん

「私も賛成かな。あさぎ、早く助けたいし・・・三波の力は絶対にいる」と桜姉さん

「全員がいいなら私もいいかな」と適当な返事を返す志夏姉さん

「准教授が心配ですもん。私は絶対に賛成です!」と薫さん


「ルルはミナミ知らない。でも、ツカサたちの家族。絶対に助ける」とルル

「反対することなんてないよ。私にできること、頑張るから!」と音羽姉さん

「勿論。三波兄さんに恩を売る絶好の機会だしね!ね、政宗君!」と奏姉さん

「奏さんの言う通りだな!三波さんを助けた恩を売ろうぜ!」と政宗

「僕はもちろん賛成だよ!」と、最後に僕


だれも築茂の言葉に反論を返すことはない

反論する理由が何一つないから


「ありがとう、みんな!」

「気にするなって築茂。いや、うちの参謀殿!」

「流石築茂。頼りになるね!」

「そ、それほどでも・・・」


僕と政宗が駆け寄り築茂相手にわちゃわちゃしていると、奏姉さんは何かにひらめく


「確かに参謀ポジは必要だよね。築茂君。今後もお願いできるかな」

「も、もちろんや!若輩やけど精一杯務めさせてもらうで、マスター!」


築茂は奏姉さんに「マスター」という呼称を使う

このギルドハウスの所有者は確かに一馬兄さんのものだ

なんせ、一馬兄さんの工房を兼ねているのだから


しかし、ギルドのマスターは一馬兄さんではない

この、目の前にいる奏姉さんなのである

なんせ、このギルドの名前は・・・・


「それじゃあ!ギルド「ノネット」!三波兄さん救出大作戦始めるよ!」


奏姉さんの掛け声に合わせて、全員が返事を返す

ギルド「ノネット」日本語訳では「九重奏きゅうじゅうそう

如何にも奏姉さんらしい名前のギルドの活動は、今、幕を開ける――――!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ