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夢守ノネットシンフォニア  作者: 鳥路
Album1:現実とゲームの始まりへ
6/32

Track6:五時半の桜公園

時刻はもうすぐ五時半になる

俺は玖清桜公園の空いているベンチで時計を何度も見つつ、待ち人を待っていた


「双馬の奴、時間厳守だって言っただろうが・・・なに油売ってやがる」


一馬はともかく、双馬が待ち合わせに遅れるなんて珍しい


「そういや、司とその友達も一緒とか変なメッセージ来てたな・・・」


司のせいで遅れているのなら、あとで司を・・・


「・・・こんなの、志貴がいたらキレるだろうな」


苛立ちに身を任せようなんて、自分らしくないと言い聞かせ冷静さを取り戻す

俺は頭を抱えながら、大きな溜息を吐いた


志貴がいなくなってから半年が経とうとしていた

あまりにも余裕がなさすぎる自分の言動に呆れる

兄弟に、一馬や双馬ならともかく弟にキレそうになるなんて最低だ


「志貴、今、どこにいるんだよ・・・」


俺は、今はもう小学生と中学生しか使用しない紙のノートを開く

半年前から何一つ進んでいないそれは、俺の仕事道具だった

今はまだ溜め込んでいた音源でどうにかなっているが、次の依頼はゲームのBGMの作成

桜から依頼されたそれは、割と大きな仕事で随分前から決まっていた

・・・志貴が、いなくなる前から


このノートに記入されているのも、その依頼の分だ


「・・・依頼、断ったら桜泣くだろうな」


自分の名前がどれほどまで有名なのかは理解している

もうすでに降りれないことも十分わかっている

けれど、書けないのだ

俺の世界を彩る「しき」が隣にいてくれないから

「志貴」がいなければ、俺は自分の世界に「色」をつけられない

だから志貴を探しているというわけではない


仕事をするためだけに志貴を探してなんかいない

理由はいつだって単純で

俺にとって志貴はなくてはならない存在だから、探している


「・・・双馬、何か掴めてたらいいんだが」


双馬たちが来るのを待ちつつ、俺はA-LIFEを起動する


「・・・桜公園、か」


待ち合わせ場所をここに指定したのも、ある動画で志貴の姿を確認したからだ

俺とよく似た格好をした誰かと共に動画に映っていたからだ

その動画を送ってくれたのは三波だ


三波にも双馬同様、志貴探しを手伝ってもらっている

報酬は、半年間の庭の管理手伝いで手をうってもらった

三波はうちの庭で、色々な花を育てている

あいつからは想像できない、愛情たっぷりの植物たち

むしろ俺が関わったら大変なことになるんじゃないかという若干の不安もあるが、三波がそれでいいのなら、それでいいのだろう


俺は動画の場所をゆっくりと歩いていく

数日前、あいつはたしかに誰かとここにいた

けど、今のあいつは出歩けるような状態ではない

目も見えなければ、耳も聞こえない

一人では出歩けない


便宜上、司の耳に入ってもいいように「行方不明」として探してはいるが、実際には警察も動いている「誘拐事件」だ

殺されていないとわかっただけでも御の字だが・・・これ以上はどうなんだろうか

動画の中の志貴は、消える直前よりも顔色は悪いし車椅子で外出していた

誘拐事件の犯人は、その車椅子を押している人間になるのだろうが・・・

・・・自分を誘拐した人間と談笑なんて俺ならできない

あんな風に微笑む志貴を見たのは、あの日が最後


『おかえり、深参。今日は、君の好きなものを作ってみたんだよ。ほら、早く食べようよ。お腹すいたでしょう?』

『深参。コーヒー淹れてきたよ。作業のお供にはこれ、だからね』

『深参は昔からうっかりさんだからね。また自分が受けた仕事のドラマとアニメ、録画予約するの忘れてる。でも大丈夫。ちゃんと二つとも録画しておいたよ。早速見ようよ』


五年前に消え失せた、志貴の笑顔は今でも覚えている

複雑な家庭で疎んじられながらも、志貴はいつだって笑みを絶やさなかった

幼少期、あいつが日本に来たばかりの時から、俺たちはずっと一緒で、一馬と双馬を除けば、俺が人生を共にした時間が多いのは志貴だろう

生活力が壊滅的な俺と、世話焼きの志貴

互いの需要を互いが満たし、互いの要求を受け入れていたと思っていたのは俺だけだったが


同時に、五年前のあの光景も思い出す


『ごめんなさい、深参。僕は、そんなつもりじゃ、なかったんだ』

『酷いよね。気持ち悪いよね。軽蔑したよね。だって、深参は・・・』

『これ以上は言い訳だね。ごめんね、深参・・・もう、二度と、君の前には現れないから。安心してほしいな』


そう言って、志貴は家を出た

その先で、事故に遭って・・・目と耳が使い物にならなくなったし、声も出せない

理由は精神的なもの。絶対に、俺のせい


志貴が壊れてから、俺はずっとこの五年間、介護を続けていた

・・・先程も述べた通り、志貴の家庭事情は複雑で、いや。すでに崩壊しているが正解か

ご両親には頼れなかった。むしろ、頼ってくるなと言われた

その為、志貴を引き取ってくれる人がいなかったのだ

病院に入院させ続けるというのが理想手だったはずなのだが、俺は志貴と共にいることを選んだ

俺自身、志貴とどう接したらいいかわからないまま、五年を過ごした

そして、一つの答えに辿り着く

けど、それは・・・


「ああもう」


嫌な考えが浮かび、頭を振って飛ばす

今はそんなことを考えている場合ではない。志貴を、取り戻すことが最優先だ

後のことは、後で考えればいい

志貴の体調が戻って、落ち着きを取り戻した後にでも


『深参兄さん』


唐突に三波から連絡が来た

あいつが連絡をするような事態とはと思い、メッセージを開く


「どうした?」

『今すぐ逃げろ。双馬兄さんと司も近くにいるなら早く』

「は?どういうこと?」

『あいつは、俺たちを狙っている』

「・・・意味わかんねえな」


けど、あいつの忠告を無視なんてこともできない

ここから動いた方が良さそうだな

そんな矢先だった

黒いフードの男が目の前に立っていた


「あなたが、九重深参さんですか」

「違います」

「あなたを迎えに来ました」

「話聞いてますか。人違いです。誰ですかそいつ」


男の手が俺の方へ伸びてくる

俺はそれを振りらはって、すぐさまその場から立ち去ろうとする


「大人しくしてください。七峰志貴さんがどうなってもいいんですか」


男の言葉を聞いて、俺は立ち止まった


「・・・は」


こいつは

こいつは志貴の居場所を知っているのか


「我々の賛同者である七峰さんに危害を加えるのは良心が痛みます、が・・・目的のためならば」

「志貴は、お前らのところにいるのか」

「はい。我々の元に」

「・・・なぜ」

「失ったものを、取り戻すため」


全てのピースが繋がっていく

繋がってほしくないピースが形を作る


「あいつは・・・ずっと、後悔しているのか?」

「はい」


その一言が、俺の心を締め上げる

俺のせいで、あいつは・・・ずっと・・・五年前から、動けずにいるんだ

俺の、せいで


「お前らの、目的はなんだ?」

「舞台を整えること。そのためにあなたが必要です」

「あなたじゃなくて、あなた「たち」だろう?」


志貴、俺、三波、双馬、司

五人に共通することは、予想だが「あれ」しかない

偶然の産物が、こんな大事件を呼び出す羽目になるとは

・・・いや、そもそも偶然の産物なのだろうか

最初から目的として組み込まれていたんじゃないのか


「・・・大人しく捕まってやるから、そのかわり一つ教えろ」

「いいでしょう」

「お前らがいう舞台は、これだろう」


自分のA-LIFEを指で叩きながら問う


「はい」


黒服の答えに、俺の中で全ての点と点が繋がる

俺たちの共通点・・・そしてこいつらから狙われているのは「あれ」が原因で間違いないだろう

俺は仕事用のノートにあいつに残すメモを記していく

あいつなら、一馬なら・・・読み取ってくれるはずだ

けれど、これを誰に回収してもらう?

・・・ダメ元で条件をつけるしかない

こいつらが「舞台」にこだわると言うのなら

その舞台の主役が必要なはずだ

俺が知る中で、その舞台の主役にふさわしい人間はただ一人


「すまんがもう一つ」

「・・・仕方ないですね。なんですか」

「せっかくだしさ、最年少ぐらいは残したらどうだ?」


片手で司宛に一通のメールを作成しながら男に提案してみる


「最年少とは?」

「九重司。俺たちよりは伸び代あるし。お前らが整えた舞台をさらに面白くしそうだとは、思わないか?」

「ふむ。確かに・・・上に進言してみよう。彼者が良いと言えば、お前の弟は舞台の主人公として働いてもらう」


反応は、意外といい感じだ

彼者・・・リーダー格だろうなそいつに話を通してくれるのなら好都合だ


「だが、お前は結果を知る前に眠りにつく」


男が俺の首元に、注射器を射し込んだ

痛いな。勢いつけすぎなんだよ・・・と心の中で悪態をつく

意識がどんどん遠くなっていく。入れられたのは、なんだろう。睡眠薬か何かだろうか?

こう言う専門的なことは、全くもってわからない

しかし、それが効くまでかなりの時間があった

指が動かなくなる寸前だったが、メールも司に送付できた


これでいい

末っ子に全てを任せるのは申し訳なく思うが、それでも

その「可能性」を植え込みの中に隠しながら俺は可能性を信じ・・・

終わりの見えない眠りについた

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