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夢守ノネットシンフォニア  作者: 鳥路
Album1:現実とゲームの始まりへ
5/32

Track5:九重家の大黒柱と行方不明の調律師

時刻は五時少し前

ギリギリの到着だ

家から徒歩数十分の場所にある玖清市役所に到着する


「司!こっちだ!」


市役所の近くにあるイルカの像のところで政宗が僕に向かって手を振る

僕は駆け足でそこに向かい、政宗と合流した


「ごめん、遅れた」

「気にすんなって、後はここでお兄さんを待つだけだな」

「そうだね。あっ、もう五時だ」


五時を知らせるチャイムが町中に鳴り響く

市役所の中からも「五時になりました。本日の業務を終了します」と音声が流れてくる


「そういえば、お兄さんはいつぐらいに来るんだ?」

「もうすぐ来るはずだよ。双馬兄さんの職場ここだからさ」

「マジか。だから待ち合わせがここだったんだな」


その放送から、数分が経った

市役所からぞろぞろと人が出てくる

急いで出てくる人、相手と話しながら出てくる人、少し落ち込んでいる人・・・色々な人が出てくるが、双馬兄さんの姿はなかった

ある程度人が出て行った後、それを見計らったように出てくる人が出てくる

そして待ち人はやってきた


スーツをきちんと着こなして、姿勢よく歩く見覚えのある姿

同じくスーツ姿の男性と話しながら外に出てくる


「双馬兄さんだ」

「え、どっち?」

「眼鏡かけてる方」

「ああ、確かになんか写真で見たことある人だ」


政宗と双馬兄さんのほうを交互に見ながらこの先どうするか考える

隣の人と話しているみたいだし、しばらく待ってみようかな・・・

そう思って、僕は双馬兄さんと隣の男性の会話が終わるのを待つことにした


「九重さん、定時帰りって珍しいですね」

「確かに。久々に五時に帰る気がするよ」

「そうだ!今日飲みに行きません?パーっとやりましょうよ!」

「ごめんな青井。俺、酒は駄目なんだよ」

「ええ!?意外でした・・・」


「それに、今日は弟と待ち合わせをしているんだ。ごめんな。酒は飲めないが、タイミングが合えばいつか誘ってくれると嬉しい」

「そうだったんですね。わかりました。では、今度は美味しいご飯の店を探しておきますね」

「はは、ありがとうな」


青井と呼ばれた青年と談笑しながら双馬兄さんはあたりを見渡す


「おかしいな、この近くにいるはずなんだが・・・」

「双馬兄さん!」


こちらから行動を起こさないと気づいてもらえない気がしたので、僕は双馬兄さんの名前を大きな声で呼ぶ


「あ、そっちにいたのか」

「弟さんですか?二人?」

「一人は弟の友達。じゃあ、また明日な」

「はい!また明日!」


青井さんに小さく手を振りながら双馬兄さんは僕たちの元へ来る


「遅くなったな、司。それと・・・君が政宗君?」

「あ、はい!木城政宗です!」


政宗がそれに気づいて急いで自己紹介する

実際に双馬兄さんと政宗が会うのはこれが初めてだ


「ああ、君が政宗君なんだな。司からよく話は聞いている。俺は九重双馬。敬語はいらないから普通に、司に話すように話してくれると嬉しい」

「わかった、双馬さん。それと今日はありがとう」

「構わない。それじゃあ早速行こうか」


双馬兄さんは駅の方向に歩き始める

僕たちの歩くスピードに合わせて歩幅を狭くしてくれていた

僕たちはその後をついていく


「そういえば今日は深参兄さんに呼び出されているんだよね?」

「ああ」


深参兄さんは双馬兄さんと一馬兄さんと共に生まれた三つ子だ

似ているのは外見だけで中身は全員バラバラ


一馬兄さんはマイペースで朗らか、天然なところがあるお兄ちゃん

双馬兄さんは基本厳しいが優しい所もあるしっかりしたお兄ちゃん

深参兄さんは何でもできてしまう誰もが認める天才的なお兄ちゃん


そんな三人の意見と考えは僕が知る限り一致したことがない

趣味も特技も嗜好も全員バラバラな三つ子

けれど三人とも互いを、そして弟妹を大事に想ってくれているところは共通していると思う

深参兄さんに限り、その度合いは異なるが


「そうそう。こっちも聞きたい事があるんだ」

「何?」

「結局あの時ききそびれたのだが、二人は桜公園に何をしにいくんだ?」

「イベントだよ。DPドリーミング・プラネットの」

「あー・・・そういうことか」


駅構内に入り、改札を通る

そして偶然やってきた目的の電車に乗りこむ


切符も何もかも、A₋LIFEに登録している電子マネーで自動的に購入される

実際、お金が引き落とされるのは降りた駅の改札を通ってからだ


「そういえば、深参兄さんの用事って?」

「人探しだ。今、行方不明になっている人を、探している」

「・・・深参兄さんが頼み事なんて珍しいね」

「探してる人の名前って聞いていい?」


政宗が気になったのか、双馬兄さんに探し人の名を聞く


「もちろん。もしかしたら二人が何か知っているかも・・・」


双馬兄さんはそう言って、一枚の写真を手帳から取り出す

写真なんて珍しいなとは思ったが、今回は「人探し」

素早く見せられるものが都合がいいのだろう


その写真はどうやら成人式の写真のようだ

そこには一馬兄さん、双馬兄さん・・・そして深参兄さんともう一人

そのもう一人は、僕もよく知った人だった


「この人なんだが・・・名前は七峰志貴ななみねしき

僕のA-LIFEを耳につけられるように改造してくれた人が、その写真の中にいた


「・・・この人」

「司、覚えがあるのか?」


政宗の問いに、僕は無言で頷く

まさか、志貴さんが行方不明、だなんんて想像つかなかったから


「うん。僕のこれを改造して、耳につけられるようにしてくれた人だよ」

「・・・昔から手先が器用だったからな。仕事は調律師なんだが、今は深参の専属状態だ。凄く腕がいい調律師だぞ」

「この人、なんでその、深参さん?が探しているんだ?」

「深参の親友なんだよ。というか、深参の同居相手」


深参兄さん一人暮らしじゃなかったんだ・・・

というか、兄さんたち以外と足並みを揃えるような真似ができたことの方が驚きだ


「深参兄さんが、同居って言うのは驚かないかな。むしろ、あそこまで生活力が壊滅的な人が一人暮らしできているって言うのが不思議だったから。志貴さんがいてくれたんだね」

「ああ。志貴がいてくれて本当に安心していたよ。深参は本当に、作曲だけに特化した弟だと我ながら思うから。生活力は全て一馬に吸われたんじゃないかともな」

「でも、そのおかげで僕らはバラバラにならずに済んだ」

「・・・そう、なんだよな。だから「生活力を身に着けろ」なんて強く言えなくて」

「ええっと、深参さんって一体何者なんだ?」


置いてけぼりにしてしまった政宗が問う


「深参は高校時代から作曲の仕事をしていてな。色々なゲームやアニメに曲を提供している。代表作は「ドリーミング・プラネット」のメインステージとか「リジェクト・レジェクト」と聞いているが・・・政宗君はわかるだろうか?」

「マジで!?」

「メインステージの曲は全部深参兄さん作曲なんだ」

「そ、そう言うの早く言ってくれ・・・サイン欲しい」

「頼んでおくよ」


政宗にはそう言ったが、深参兄さんはかなり特殊な人だ

何というか、興味のあるものには異様に執着し、興味のないものは切り捨てる

サインを作るなんて、興味がなさそうなのでサイン自体存在しているかすらわからない


それに、志貴さんが行方不明ならそんな場合ではないだろう

深参兄さんの優先度は、僕でもわかるほど明らかで、そして露骨なものだ

1に志貴さん、2に志貴さん、3に志貴さん、その次にその他大勢みたいなおかしな優先度

家族の事も、同時に生まれた兄弟の事すらもどうでもいい

七峰志貴がいれば、あとのことはどうでもいい

それが、九重深参という人間だ


「ありがとう・・・でもさ、同居していたってことは、毎日顔を合わせていたんじゃないのか?」

「そうだな。でも、志貴は半年前からずっと行方不明なんだ。連絡もつかない」


知り合いがいなくなるというのは、少し怖くて不安になる

特に彼は・・・・


「特に、志貴は・・・全く喋れないから深参が焦ってる」


双馬兄さんは写真を手帳に挟みつつそう告げる

志貴さんは、ドイツから来た帰国子女だ

僕との会話も翻訳機能を実装しているチャットを通して会話をしている

三つ子の兄さんたちと同い年で、同級生

でも、一馬兄さんと双馬兄さんより深参兄さんと一緒にいる時が多い

朗らかな人で、献身的な印象が僕の中にはある

それは全て・・・特定の人物だけに向けられているのは、当の本人以外気がついていた


「そうだね。日本語話せないもんね・・・」

「・・・それに加えて目も見えないし、耳も聞こえない」

「は!?なんで?」

「それ、やばくないか?」


僕と政宗の動揺を横目に、双馬兄さんは話を続ける


「精神的なもので・・・昔ある事件に巻き込まれたことが影響しているそうだが、それ以上は・・・」

「・・・で、手がかりは」

「全くだ。知り合いに頼んでみても収穫はなかった」

「そんな・・・」

「気を落とすな司。けど、志貴の連絡先を知っているのならお前からも連絡をとってみて欲しい。お前なら反応があるかもだから」

「わかった」

「すまないな・・・司」

「ん?何か言った?」

「いや、何でもない」

「ふーん・・・」


どうせなら、確実に志貴さんが出てこないといけない理由で連絡を取ってみようか

例えば、このA-LIFEの付け根が壊れて、耳にかけられなくなったとか・・・

僕は今のうちに嘘の理由で連絡を取ってみる

反応があるかわからないけれど・・・

僕はこの時の双馬兄さんの告げた言葉に、違和感を抱くことなく志貴さんへの連絡方法を考えていた


「・・・」


政宗が写真を凝視して何かを考え込んでいた


「どうしたの、政宗」

「いや・・・この人最近何処かで見た気がするんだよな」

「どこかって、どこさ」


政宗と志貴さんに面識はないはずだ


「あ、あれ!司、休み時間に見せただろ!あの動画!」

「シキの?」

「そうそう!あれに映ってた気がする!」

「・・・俺にも見せてもらえるか?」

「うん!双馬さん、メール開いて」

「もう開いてる。IDはこれだ」

「了解!URL送ったよ。見てみて」


政宗がすぐさま行動に移し、双馬兄さんはその動画を見てみる


「・・・なんで。日付は四月二十日。二日前・・・」

「志貴さんだったの?」

「ああ」

「政宗、凄いよ。よく気が付いたね。こんな小さいの・・・」

「動画だけは何度も見たからな。情報提供できてよかったよ」


政宗は胸を張って、その功績を自慢する

動画を見た時の違和感に気が付いて僕自身もスッキリした

しかし、双馬兄さんは・・・


「この車椅子の男性が志貴だというのは間違いない・・・しかしなぜ・・・あいつは・・・やはり」

「双馬兄さん?」

「ああ。すまない。画質的に・・・隣にいるのはだれかわからないな。深参ではないことは間違いないだろう・・・けど」

「けど?」

「・・・深参によく似ている。仕草も服の趣味も・・・けど、どこか違う」


僕にはさっぱりわからない

けれど三つ子だからわかるものがあるのか、双馬兄さんは志貴さんと一緒にいる男の姿を指でなぞる


そして、僕たちを乗せた電車は玖清桜公園の駅前に辿り着く

全ての、始まりの場所へと、辿り着く

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