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夢守ノネットシンフォニア  作者: 鳥路
Album1:現実とゲームの始まりへ
3/32

Track3:ドリーミング・プラネット

政宗は心底嬉しそうに鼻歌を歌う

明日が楽しみなんだろうな

素直に羨ましく思う

僕と康太と小宮さんは憂鬱だから、政宗のその感情を少しでもいいから分けてほしい


「それで、本ってなんだよ」

「あれ嘘だよ」

「え」


康太がさらりと言うものだから、政宗が酷く動揺していた

政宗からしたら嘘をつく理由がわからないからだろう


「あの場から離脱するにはこういう嘘も必要なんだよ。カモフラで本貸すけどね。はい司」

「ありがとう康太。助かる」


僕は康太から本を受け取る


「・・・やっぱり、片桐さんは司狙いってマジなのか」


意外と有名な噂だったようだ

知らなかったのは僕だけか


「マジだと思うよ。司と、政宗と俺への対応比べてみてよ。天と地の差がある」

「司君への問いが不自然すぎて笑いそうになった・・・あれ露骨すぎる」

「確かに。あれじゃ、お前らの意見はどうでもいいとか思ってるのかと」


小宮さんと康太が小声で文句を言いあう

それを傍目に僕と政宗はどうしたものだろうと見つめていた


「司は片桐さんのことどう思ってんの」

「正直嫌い。関わりたくない」

「お前、そう言うところ素直だよな」

「友達への扱いが酷い人と友達になりたい人はいない」

「俺・・・お前のそう言うところいいと思ってる」

「ありがとう」


「席、戻ろうぜ。片桐さんと木村さん、戻ったし」

「ん。それじゃあまたね、康太、小宮さんって・・・聞いてないか」


文句を言い続ける二人に軽く挨拶してから僕らは席に戻っていくと、僕の机の上に紙切れが一枚


「机になんか置かれてる」

「ゴミだろ」

「捨ててくる」


それを適当に丸めて、ごみ箱へ捨てる

全く誰だよ人の机にごみを置いていってさ・・・

ごみを捨てた後、僕は席へ座る

政宗は次の時間の準備をしていた


「次何だっけ」

「国語」

「オッケー」


僕も次の時間の準備を進める

ノートと筆記用具を出して準備を終えた頃、政宗が思い出したように声をかける


「あ、そういえば司は昨日のアプデ生放送、見たか?」

昨日の生放送といえば「DP」の放送だろう

「見たよ。イベント報酬の公開と、新規ステージの詳細・・・そしてLE武器とクエスト詳細公開!」

「条件が初めて公開されたLEクエストだけど、レベル100以上、四人パーティーで参加可能はえぐい!クリアできる気がしない!」

「そもそも僕たちのレベルはまだ60だし程遠いよね」

「そうなんだよなあ・・・・でもさ、無縁の話でも気にはなるだろ?」

「なるね」


僕と政宗は互いに顔を合わせて、ニンマリと笑う

先ほどから話の話題になっている「DP」・・・正式名称「ドリーミング・プラネット」は、国内外問わず、世界中で人気を博しているVRオンラインゲームだ

現在進行形で、僕らを閉じ込めている場所の名称でもある

人間の夢を舞台に、プレイヤーは人々の夢を守る人形「夢守ゆめもり」となり悪夢から人々の夢を守るために数多の夢の世界を冒険するゲームだ

そこまではごく普通のオンラインゲームと大差はない


けれど、ドリーミング・プラネットだけの機能も存在する

例えば、レベルアップ報酬やクエスト報酬で得るポイントは現実で使用できるクーポンや、電子マネーと交換することができるという仕組みがある

それ目当てでプレイする人も少なくない

とういうか、身近にそれ目当てでプレイしている人を知っている


さらに、現実のエリアを使用したARでのゲームプレイが可能なことだったりだ

これは季節ごとに行われるイベントだけの機能だが、そのイベントでプレイヤーは運営に指定された「指定エリア」でゲームをプレイすることになる

指定エリアに展開されているダンジョン内にいる敵を倒して、イベント限定アイテムを集めて、限定報酬をゲットする・・・という方式のイベントだ

よくあるゲームのイベント方式だと思う

イベント限定ダンジョンは、指定エリアに行かないと入れない仕組みとなっているから、報酬が欲しかったら外に出なければならない

・・・この方式は、なぜか引きこもり撲滅イベントだとかネットで呼ばれている


僕と政宗は「とある記事」を見て、同じ時期にこのDPをプレイし始めた

僕たちがDPを始めてもう二年が経とうとしている


「まあ、新規エリアの情報も含めて、詳細は後日公開らしいじゃん?」

「そうだね。楽しみに待っていようよ。LEクエスト攻略はできないけど、新規エリアは行けるしね」

「だな。それと司、桜花クエストの報酬が公開されたな!何に交換する?」

「そうだね。僕は「春色の結び紐」かな。敏捷大幅上昇は僕には魅力的」

「俺は「桜花の精霊・サヤ」がいいなって思った。あの子可愛いわ。精霊術師に転職しようか悩むレベル」


政宗がうっとりとした顔で答えてくる

確かに、今回の目玉報酬である「サヤ」はとても可愛いと思ったけど・・・転職を考えるほど政宗にとってドストライクだったのだろうか・・・


「確かになあ・・・でも「サヤ」はそこまでステ高くないんやで」

「わっ!?築茂つくもか・・・驚かせるなよ」

「親友たちが俺をほっぽってゲームの話をしてたんでちょっとびっくりさせてみたんや。ごめんな」


突如会話に入ってきたのは隣の一組に所属する「柊木築茂ひいらぎつくも

僕たちゲーム仲間の一人で、今回は一人だけクラスが離れてしまった


「それで話に戻るけど、フレンドの「ナミさん」が精霊術師なんやけどな、溜めまくっていた桜花の宝珠を生放送後に交換しに行って、サヤを手に入れたんやけど・・・防御だけ異様に高くて、それ以外は低級精霊と大して変わらんって教えてくれたんや」

「なんか聞き覚えのある話と名前だな・・・」

「マジかよ。てか、サヤが貰える宝珠の数って千個じゃなかったっけ?一戦闘につき一個だからそのナミって人はあの短期間で千回も叩いたのか。スゲーな」

「いや、ナミさんは弟さんに手伝ってもろうたらしい。いい弟さんやなぁ」


政宗と築茂が二人でほんわかトークを繰り広げる中、僕の頭の中は穏やかじゃなかった

精霊術師で、ナミって名前で・・・弟をパシ・・・手伝わせてイベント限定アイテムを回収しまくる・・・兄の一人がすべての条件に当てはまっている

植物をこよなく愛し、人間をごみのように扱う極悪非道な兄に・・・


他人の空似と信じたい。世の中には「ナミ」というハンドルネームを使っている人はごまんといるし、きょうだいに手伝ってもらった人もいるだろうし、精霊術師なんてDPの中じゃ人気職の一つだし、同じ条件の人がいてもおかしくない

でも、でも一つだけそのナミがあの人だと証明できる質問があるのだ

僕は恐る恐るその質問を口に出す


「ねえ、築茂。そのナミって人はもしかして「精霊王の杖・アリア」・・・持ってる人?」

精霊王の杖は、「桜花クエスト」の前に話題に上がっていた「LEクエスト」で獲得できる「LE」・・・「ラスト・エンパイア」の一つで、DP内でたった一つしか習得できない特別な武器だ

設定では軍事力があったとある帝国に保管されていた、強力な武器とされている

けれど、その帝国は滅んでしまい、帝国が所有していた武器は帝国の臣下によって隠された

その隠された武器を見つけ出すクエストが「LEクエスト」と呼ばれている

出現条件の情報はほぼゼロ。偶然に頼るしかない

今回のように情報が出されたのは初めてなのだ


僕みたいに偶然条件を満たして手に入れた人間もいれば、三波兄さんみたいにいくつかの条件を検証して手に入れた人間もいる

更には、何度も何度もボスに挑んで手に入れた者も・・・

なかなかおかしな高難易度クエストなのだ

そういうわけで、もしも築茂の言う「ナミ」が、DP内でたった一つしかない「精霊王の杖」を所持しているとなると、築茂の話すナミ=「あの人」になってしまうのだ

ありがとう、兄さん

貴方が意地で攻略してくれたおかげで、貴方の特定が容易になりました


「おお、よう知っとるなー。そうやで、ナミさんはLEクエストをソロでクリアして、精霊王の杖を手に入れた人なんや。もっとも、攻略に四ヶ月かかったらしいけど、凄いよなぁ」


築茂は笑顔で言う

世間は僕が思っていたよりかなり狭かったみたいだ

それを聞いた政宗も絶句している

「やっぱり三波みなみ兄さんか・・・」

「あれ?司はナミさんと知り合いなん?」

「築茂、三波さんは司の四番目のお兄さんだ。知り合いなんて生易しいもんじゃない」

「お兄さん!?じゃあ、司がナミさんの言う弟さん・・・いやあ、世間って思ったより狭いんやなー?」


僕も思ったことを築茂がうんうんと頷きながら声に出す


「・・・築茂、騙されるな。あの人は悪魔だ。極悪非道な天使の姿をした悪魔だ」

「んん?ナミさんが悪魔?あの人凄く優しいんやけど・・・」


政宗は死んだ魚のような眼をしながら、築茂の肩に手を置いて三波兄さんに関しての忠告を築茂にする

築茂は三波兄さんと会ったことがないが、政宗はかなりの回数で三波兄さんと会っている

初対面の人間を「マセガキ」呼ばわりし、音羽姉さんから出してもらったお菓子を強奪されたな・・・あの時の記憶は今でも鮮明に思い出せる

かなり大人げない人だ

これでも大学の准教授のはずなのに、どこで道を踏み外したんだろう


「でも、身内にナミさんがおるなんていいなぁ。今度会わせて!」

「うーん・・・わかったよ。来週のどこかにね」


これは現実を見ないと理解してくれないやつだ

僕は築茂には悪いと思ったけれど、現実を打ちのめす日程を立ててしまう

見てもらったほうが早い。あの人は、三波兄さんは人でなしだ


「やったー!」


喜ぶ築茂を脇目に僕と政宗は溜息を吐く

ああ、また新たな犠牲者が誕生させてしまうのか・・・ごめんね築茂

けれど、こうしないと築茂は分かってくれないだろう?

三波兄さんが、いかに最低な人間か理解してもらうためにはこれが一番早いんだ


「あ、次の時間うちのクラス移動教室なんよ。そろそろ行かんと遅れそうやけんもう行くわ。あ、司の都合のいい日あとで連絡してな!それじゃあ!」


時計を確認し、築茂は慌ただしく行動を始め、急いで僕らの教室を出て自分の教室へと帰っていった


「じゃあなー築茂」

「またね、築茂」


僕たちは築茂を、手を振りながら見送る

そして僕らは授業が始まるまで、再び話し始めた


「てか、三波さんもDPやってたんだな」

「うん。しかも初期勢」

「さらにLE武器保持と・・・お前もだし、九重家って偶然に恵まれているの?」

「知らないよ・・・」

「そういや、なんだかんだでスルーしてたけど・・・三波さんのパシリお疲れ、司」

「そんな風に労わってくれるの、政宗だけだよ・・・ありがとう」


「最近土日遊べなかったのは三波さんに桜の宝珠の回収を頼まれたからか?」

「そうだよ・・・毎週のように連れていかれてさ」

「うげえ・・・」

「政宗が巻き込まれなくて本当によかった。三波兄さん「司、これ以上効率落としたらお前を騙って政宗も呼び出すからな?」って脅してくるから」

「最低だなあの人!?ありがとうな司!俺が無事なのはお前のおかげだ!」


政宗から両手を握られ、ブンブン振られる


「今週からは普通に遊べるんだよな?」

「うん。もうノルマを達成したから今週からは普通に遊べるよ」

「よかったー!今度、なんかお菓子奢るわ」

「ええ、いいよそんなの・・・」

「いいから奢られろ!俺の無事はお前のおかげなんだからさ!」

「・・・わかったよ。ありがとう、政宗」


これ以上言い合ってもどちらも食い下がらないと思い、僕は政宗の提案を受け入れる


「もしかして居眠りしかけるほど疲れてる感じなのも昨日どっかに行ったからか?」

「そうそう。限定クエストの指定エリアになっている「玖清くすみ桜公園」に」

「三波さんも一緒って点を除けばいいよなー。桜公園結構遠いから子供の俺たちじゃ滅多に行けないし」


確かに、政宗の言う通り玖清桜公園は同じ市内にあるのに、僕たちの住む「第三住宅地前」の駅から電車に乗って三駅後の「桜公園前」で降りて十分ぐらい歩いた場所にある

バスでも三十分ぐらいかかる位置にあるから、かなり遠い部類だろう


「そうだね・・・でもこの近くに児童公園があるからイベント参加には困らないんだよね」

「でも桜公園の方が回収率いいらしいぞ」

「ああ、確かにゲリラボス結構出た」


政宗の言う通り、桜公園の方がイベント限定アイテム「桜の宝珠」のドロップ率が高い

しかしそれは同時に桜公園に出現している敵のレベルが高いことを示している


「けど桜公園の適正レベルは55以上、ゲリラボス討伐の適正は65だよ。かなりレベル上げとかないとペナルティが痛すぎる。僕もギリギリだった」


DPには死亡という概念がなく、HPがゼロになった瞬間にプレイヤーは復活することができるが、アイテムストレージからアイテムがすべて無くなる、ステータスが激減している等ペナルティが存在している

アイテムはHPがゼロになった際に立っていた位置に散らばってあるから回収は一応可能

装備品また特殊アイテムは普通にストレージ内に残っているのでまだいい方だ


半年後、ゲームの中に閉じ込められてからはこのペナルティは廃止されるのだが、厄介なハンデがある分まだこちらの方がマシだったと思っている


三波兄さんから「死んでもアイテム拾わねえからな」やら「ペナルティ食らったお荷物を抱える余裕はない。政宗を呼ぼう」とか脅されたものだから、回復をこまめにしながらゲリラボスを叩いていった

・・・お陰でレベルは上がったけれど、このことは政宗には言わないでおこう

さらに気を遣わせてしまう


「確かに危険だな・・・でも俺が桜公園に行きたい理由はまだあるぞ!桜公園いるらしいんだよ・・・あの人がさ・・・」

「いるって?」


僕の疑問に政宗はニコニコしながら「耳を貸せ」と言う

僕は政宗の顔の近くに耳を寄せ、政宗は僕だけに聞こえるように小声で「あの人」の名前を言う


「シキがいるらしいぞ・・・まさか同じ地域に住んでるとは思わなかったわ」


政宗が言う「シキ」はDPでかなり有名なソロプレイヤーだ

DPは基本的にプレイヤー同士でパーティーを組み、ダンジョンに挑むという感じだが、シキはDPプレイヤーでも少数派であるソロプレイでダンジョンに挑んでいる

彼が最初に攻略したダンジョンは数知れず

その中でも有名なのは「死神の処刑場」という「LEクエスト」を単独でクリアしたことだ


今までパーティーじゃないと攻略不可能と言われた「LEクエスト」

もちろんだが、入手が三波兄さんや僕のような「調査・探索型」のクエストならば単独でクリアも可能だ

しかし、そのクエストは数多の挑戦者を出し、敗北者を生んだ「戦闘型」のクエスト

そんなクエストを単独でクリアし、LE武器である「死神の処刑鎌・ラメント」を手に入れている

彼はそのプレイスタイルと武器から「哀歌の死神」と呼ばれている


当時その情報をネットで見た僕たちは「かっこいいな」と感じた

それをきっかけにDPを始めたので、シキは僕たちにとって憧れみたいな存在でもある


「本当に?どこからの情報?」


興奮を抑えながら、小声で政宗に問う


「一昨日の桜公園でゲリラボスが出てきたときに、シキがいたらしい。ちょうどその時に桜公園にいたプレイヤーが動画上げてたんだ。見ろ!」

「うん!見る!」

「じゃあURL送るから「A-LIFE」つけろ」

「わかった」

政宗が何もない所で、何かを操作し始めると同時に机の横にかけていた鞄から僕は例のものを取り出す

それを左耳に装着して、電源を入れると「起動中」と表示が出てくる

先ほどの五時間目は「学活」で「これ」を使う必要がなかったので電源を切っていたのだ


「司お前「A-LIFE」の電源切ってたのか?こまめだなー」

「使わない時は切っておいた方がいいからね」


少し傷がついている「A-LIFE」に触れながら、政宗の質問に答える


A-LIFEは、AR拡張デバイスと呼ばれるもので数十年前に「クリアージワン」というどこかの大企業の、電子機器部門を担う会社が開発したそうだ

身につけるスマホをコンセプトに作られたこれは、今では人々の生活の必需品となりなくてはならない存在にまでなっていた


個人情報は本人とタグ付けされている家族以外閲覧不可

A-LIFE以外のデバイスで閲覧することも不可能という話だ

セキュリティ面もしっかりしているらしい・・・詳しくは知らないけれど

A-LIFEの機能として電話やメール、ネットなど色々な機能が存在している

また電子マネー等の機能も使える

もちろん、年齢による制限もついている

ネット経由で欲しいソフトなどをダウンロードし、自分に使いやすいようにカスタムすることが可能だ

視界に合わせてそのアイコンも移動するので、歩きながらでも使用できる

視界いっぱいにアイコンが表示されることはなく、普通の生活をつけた状態でも過ごせるようになっている


現在、国民の九割がA-LIFEを使用しており、学校もA-LIFEで授業を行うようになっている

高校からはA-LIFEで授業をすべて行うが、義務教育課程までは板書をA-LIFEではなく、普通のノートで取るように義務付けられている


そんなA-LIFEの機種は三つ存在している

一つは僕もつけているこの「イヤー型」

取れやすいことが問題視されており、子供向けに軽量化また小型化できない欠点があり、主に大人向けとして販売されている


その問題点を踏まえ作られたのが、隣の政宗がつけている「ネック型」

首に装着するものだ。主に子供やお年寄り向けに開発され、軽いが少々高値、しかし一生使えるようにサイズ調整ができるようになっている


そして、あまり目に見える部分につけたくないと思っている人向けに開発されたものが「リスト型」

一見リストバンドのように見えるそれは、別途にイヤホンのような小型デバイスを耳につける必要があるが、わりと目立たずに拡張デバイスとしても使え、普通の腕時計としても使える代物だ


ちなみに僕が使っているこのイヤー型の「A-LIFE」は、三つ子の兄さんたちの友人である七峰志貴ななみねしきさんの厚意で僕の使いやすいようにカスタムされている特別仕様となっている

元々思い入れのある品で、子供の僕がつけられるようにどうにかならないかと七峰さんに相談してわざわざ作ってもらった


「司君が大きくなったら、ちゃんと合うように調整するよ。何年も使えるように、するから」


と手紙を添えてこの「A-LIFE」を送ってくれた

なので、本来は大人向けであるイヤー型を子供がつけられるようになっているのだ


政宗との会話が終わると同時に起動が完了し「ようこそ」と表示される

そして見慣れた画面が視界いっぱいに広がる

下の方にある新着アイコンのところに「政宗さんからメッセージが届いています」と表記があった

僕はそれをタップし、メッセージを表示させる

そこにあるURLを再びタップし、ブラウザが開かれる

そして動画の再生を始めた


動画が撮影されたのは三日前、つい最近だ

この日はちょうど、三波兄さんが講義の準備があるとかで回収が休みだった日


『今日のゲリラなかなかこねーな・・・』

『そろそろ引き上げるか?』


今の音声はこの動画を撮影した人のものだろう


『おっ、ゲリラ戦始まったわ』

『うわ、いつもよりやべーじゃん。レベルが段違いすぎ』


動画にゲリラボス戦の様子が映る

動画の撮影主は少し慌てながら、ボス戦に参加し始めるが・・・ダメージを受けて一気にHPが減っていってしまう


『今回は無理ゲー。今日は撤退しよ・・・うおっ!?』


一人のプレイヤーがボスに向かって走り始める

そのプレイヤーは自分の身長の二倍はあるであろう大鎌を片手で持ち、異様な速さで走っていた


『大鎌使い無謀すぎんだろ。今回は倒せないって・・・ありゃ?』

『・・・・』


無言のまま、ボスに近寄り、大鎌を振り上げる

その勢いでマフラーが宙にはためいた

攻撃のほとんどは視界で捉えられないぐらいの速さで、あっという間にボスを倒してしまう


『マジか・・・あれよく見ると『ラメント』だ。じゃああいつが噂のシキか・・・すげーモン見たわ』


その呟きと同時に動画は現実を映し始める

そこは玖清桜公園で、他にもDPをプレイしていると思われるプレイヤーが映っていた


「ん・・・・?」


その動画の端に映っている二人組に目が行く

A-LIFEのイヤー型を外される、車椅子に乗った青年と・・・もう一人、フードをかぶった誰かの二人組

なんだか、不審な組み合わせだ


「・・・見間違い、かな」


車椅子の青年はどこかで見たことがあるような気がする・・・

どこで、だったかな

二人組は気が付けば映像の中にはいなかった

僕はブラウザを閉じて、政宗の方を見る


「全然見えなかったね・・・けど他人目線のシキの戦闘ホントやばい」


興奮気味で動画の感想を言う僕に同じく興奮気味で頷く政宗


「だよな!しかもこれ午後六時ぐらいの事らしいんだよ。なあ司、今日俺と桜公園一緒にいかね?もしかしたらシキに会えるかもしれないしさ!」


政宗の提案に僕は息をのんだ

憧れのプレイヤーのプレイを間近で見られるかもしれない

会えたら、の話だけど・・・少しの確率でも会えるかもしれないとわかった今、桜公園に行ってみたいと思った


「うん!行くよ!」

「決まりだな。放課後になったら家に帰って、第三住宅地前の駅前で待ち合わせ」

「わかった。それと、今のうちに聞いてみようよ、子供だけで玖清桜公園に行っていいか」

「だな。母さん、こんな時間だけどメール見てくれっかな」


僕らはメールのアイコンをタップし、メニューから新規作成を選ぶ

僕は双馬そうま兄さんのアドレスを選択して、仮想キーボードで本文を打ち始める

双馬兄さんは九重家の保護者的な立ち位置だ

なので、何か相談事があったら双馬兄さんにしないといけない


『今日政宗と玖清桜公園に行ってもいい?』


送信ボタンを押して、返信を待つ

仕事中だからすぐには来ないだろうと思っていたけど、すぐに返信が来る

三時ぐらいだし、少し休憩をしているのだろうか


『・・・何時ぐらいに帰ってくる予定だ』

『わからない。でもなるべく早く帰ってくる予定だよ』

『保護者は?』

『いない・・・』

『じゃあ、だめだ。桜公園で不審者が目撃されたと情報が入ったから子供だけでは行かせられない。絶対に』

『それに、二人で玖清桜公園に何を行く気だ?イベントか?』

『うん・・・けど、保護者がいないとダメなんだよね。諦めるよ』


『・・・政宗君のお母さんはどうなんだ?』

『政宗のお母さんも忙しい人だから・・・無理かも。双馬兄さんが僕たちの保護者として来てくれるのは駄目?』

『俺が?』

『お願い!他に頼めそうな人がいないんだ!』

『・・・仕方ないな。わかった』

『いいの!?』


意外な回答が来た


『今回だけだ。いつも家事手伝ってくれてるし、これぐらいはな』

『ありがとう、双馬兄さん』

『司たちは何時に学校が終わるんだ?』

『四時半ぐらいだよ』

『じゃあ学校が終わったらその友達と一緒に玖清市役所に来い。保護者代わりにはなるから。丁度俺も桜公園に呼び出されているし』

『・・・呼び出しって誰から?』

深参ふかみ。何の用かはわからない・・・一人で来いと言われているが、司達なら許してくれるだろうさ』

『双馬兄さん、本当にありがとうね。じゃあまた後で』

『ああ。その代わり、帰りに買い物付き合えよ。それじゃあ、六時間目も頑張れ』

『うん!』


それでメールは終わる

よし、双馬兄さんに許可を取ることができた

それについてきてくれるらしい・・・いつもならセールがあるから忙しいと一蹴されるけど、今回は深参兄さんの呼び出しがあったみたいだ

なんで呼び出したのかはわからないけど、今回は深参兄さんに感謝しよう


「政宗、僕の方はーーー」

「ああああああああああああああああ」


報告しようとすると、政宗の絶叫が教室中に響き渡る


「ちょっと政宗どうしたのさ!?」

「母さんが絶対ダメだって言った!不審者が出てるからダメだって」

「あー」


双馬兄さんも言ってたな・・・不審者


「保護者になってくれる人がいないと行かせられないって。司は?」

「僕は大丈夫。それに保護者なら双馬兄さんが一緒に行ってくれる」

「じゃあ保護者問題も・・・」

「解決」

「ありがとう司!双馬さん!母さんの説得に戻る!」


僕の報告を聞いた政宗は嬉しそうな表情で再び母の説得に戻る

しばらくすると、政宗のキーボードを打つ手が止まった


「よし!母さんの許可取れた!流石主婦たちに紛れ込んで井戸端会議と特売セールに参加する九重家次男こと双馬さんの名は伊達じゃねえな・・・」

「双馬兄さん何やってんだよ・・・」

「やったね、政宗!これで行けるね!」


僕たちは笑いながらハイタッチをする


「政宗。双馬兄さんが「学校が終わったら玖清市役所に」って言っていたから待ち合わせは駅から市役所に変えてもいい?」

「いいぞ。じゃあ学校が終わったら荷物を置いて玖清市役所!決まりだな!」


政宗がそういうと同時に六時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴る

教室内の後ろの方で談笑していた生徒たちが席に戻り、次時の時間の準備を始める

僕たちも少しだけずれていた机の位置を元に戻した後に授業の準備をする

ノートを開いて、筆記用具を筆箱から出す

そしてA-LIFEの本棚アイコンをタップして次の時間の授業で使う教科書を出す

これで準備完了だ

後は先生が来るのを待つだけ


「お、先生来たみたいだぜ」


政宗がそういうと同時に教室の扉が開かれ、先生が入ってくる


「皆、教科書は出しているわね?じゃあ日直、号令を」


先生が僕たちを一通り見終わると「よし」と小さく呟いて日直に指示を出す

日直はすぐに大きな声で「起立」といい、僕たちはその号令を聞き立ち上がる

「お願いします」と声を揃えて言った後、僕たちの今日最後の授業が始まった

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