Track14:歩幅を合わせて
「ツカサ、生きてる?」
「生きてる・・・」
瀕死の身体をルルにつつかれながら返事を返す
三波兄さんの仕置きが終わり、僕はやっと解放される
そしてそれは同時に本題にやっと入れるということでもある
「ねえ、三波兄さん」
「なんだ音羽」
「現実で見てたってことは、三波兄さんは起きてたの?」
「ああ。現実のお前らは寝ていたけれど、俺は動き回って色々と情報を集めていた」
「そうなんだ・・・」
音羽姉さんも普通にしているが、驚いているようだった
それは築茂も薫さんも僕も同じ
まさか、アカウント乗っ取りとか言われていた武器所有者が現実では自由に動き回っていた・・・その事実を突きつけられるのだから
「予想外だったか?俺が、情報収集してるって」
「それよりも、自由に動けたことが意外だよ・・・他の人も?」
音羽姉さんの問いに、三波兄さんは首を振る
「・・・司と俺以外は所在がわかっていない。今も行方不明だ。司は半年前から眠っているけれど・・・それ以外の、俺以外がどうなっているかはわからない」
「じゃあ、双馬兄さんと深参兄さんは行方不明のままなんだ」
「そういうことだな。調査をしている間に二人が出てきたらなんて考えていたけれど、そう簡単に上手くいかなかった」
ゆっくりと息を吐く
僕らがゲーム内に閉じ込められてから、半年間・・・三波兄さんは情報収集を始め色々と手を尽くしていたのだろう
それでも、二人の兄の元に辿り着けなかった
「お前らが俺のクエストを攻略してるって運営さんから聞いてさ。入れるようになるかもってことも。だから、考えたんだ」
小さな鉄籠がついた杖を構えながら、息を吸い込む
心の中に仕舞った意志を紡ぎだす言葉を、彼は告げた
「・・・俺も、こっちに合流して攻略に集中するべきなんじゃないかって。だから、ここに来た」
「じゅ・・・三波さんのアカウントは問題ないんですか?その、乗っ取りとか」
「聞いた話だと、俺のアカウントは司とほぼ同等の綺麗さだったみたいで、犯人側の影響はさほどなかったんだ。それでも保護はされているよ。俺側から運営さんに連絡取れるようにもなってる」
「へえ・・・」
「・・・しかし、こっちの世界に普通の状態でいる「もう一人」の方は、アカウントに制限が出ているみたいで記憶喪失みたいだけどな」
「もう一人・・・」
精霊王が仄めかした通り、やっぱり存在する「もう一人の武器所有者」
記憶喪失でも・・・どうにか会って、攻略の手伝いをお願いできればいいのだが
「司、何か知ってるのか?」
「・・・精霊王が、もう一人の存在を仄めかしていたことだけ」
「そうか。まあ・・・とりあえずウィリアムから情報を聞き出すぞ。そいつと合流するのは戻ってから決めてもいいだろう。特に、一馬兄さんの返事を聞いた方がいい」
「まさか、一馬さんと相性の悪そうな教師か・・・!?」
「待ってくれ、ええっと「ツクモ」・・・君は何を知っているんだ?」
「ええっと、実は・・・」
築茂は自分の家の事と、運営さんとの繋がり・・・そして、他の武器所有者のリアル側の情報を得ていたことを伝える
「・・・ふうん。運営には個人情報漏洩といいたいところがまあいいだろう。しかし、司の情報を引き換えに引っ張りだしたって君、本当に小学生か?」
「小学生やで、ナミさん」
「・・・とりあえず。まあ、改めて思うことは」
「思うこと?何かある、ミナミ」
「あるよ。大ありだ」
遠く何を考えながら、三波兄さんは目を細めて空を仰ぐ
「・・・世間って、狭いのな」
「だね」
「とりあえず、そうだな。ウィリアムのところにでも行くか?俺の知っている情報を話すのは、帰ってからでもできるだろ?」
「そうだね。早く話を聞いて帰ろう?一馬兄さんたち、特に桜姉さんは喜ぶよ」
「ああ。早く会いに行ってやりたいよ。しかし、双馬兄さんがいないから奏がうるさいのが難点だな・・・どう黙らせようか」
次の犠牲者に対する理不尽な仕置き予告をしつつ、三波兄さんの先導で僕たちは歩き出す
そして、少し早歩きで薫さんは前に進み、三波兄さんの隣に立って歩き出した
「・・・薫か」
「はい」
「久しぶりなのに、久しぶりな気がしないよ。さっきまで同じ身長の男と歩いていたからかもしれないが」
「そうですか」
薫さんは若干複雑そうな表情を浮かべた後、切り替えるように笑みを浮かべる
歩幅を狭く、三波兄さんに合わせるように、小さくゆっくりと歩いていく薫さん
そんな彼女に合わせるように、三波兄さんにしては珍しく、少し速足気味で歩いていた
歩幅をあえて狭くする彼女の負担を少しでも軽くするように
「でも、私は久しぶりですよ。たとえ、同じぐらいの司君と歩いていても、三波さんと歩くのは久しぶりですからね」
「あっそ」
「もう、すぐに悪態ついて・・・ほら、素直なお気持ちを表明してください。たまにはいいではないですか」
薫さんは三波兄さんに臆することなく、会話を続けていく
面倒くさそうにしているけれど、三波兄さんもそこまで嫌がっている様子ではない。面倒くさそうだけど
「・・・意外と楽しそうだね」
「やっぱり、久々に会えたの嬉しいんじゃないかな。薫さん、助手さんだし」
音羽姉さんと二人、様子を伺いながらついていく
「ツカサとオトハ、嬉しそうじゃない?」
「意外と面倒見よさそうやし、しっかりした印象の人やけどなあ・・・なんで二人揃ってあんなに警戒しとるんやろうか・・・あのこちょこちょ、そこまでの威力があるんやろか」
「まだ、知らない一面あるかも?」
そんな僕と音羽姉さんの様子を見ながら築茂は不思議そうに首を傾げ、ルルはのんびりと核心に近い意見を述べながらついてくる
「まあ、薫。積もる話もあるし・・・今夜、時間空けとけ。そこでお気持ち表明してやる」
「なんと。これは期待していいやつですか」
「どうだろうなあ・・・ま、時間まで悶々と悩んでるといいさ」
「わかりましたよ。ところで、庭園は無事ですか」
「ああ。俺が直々に毎日見てたんだぞ。無事に決まっているだろうが。自動システムも作動させてきたし、記録用のビデオも設置した。しばらくは大丈夫なはずだ」
「それはよかったです。しかし、早く帰りたいですねえ・・・三波さんが育てた新しい花、完成しましたか?」
「お前がいないと咲かせる意味ねえからまだ咲いてねえよ」
「・・・・へ?」
「何呆けた顔してんだよ。ほら、さっさと歩け」
「ひゃ、はい!」
薫さんの動揺した声に、僕らの意識もこちらに引き戻される
「・・・三波兄さんが言いそうにないワードが飛んだような」
「ラブコメの気配がしたけど、気のせいやろか?」
「・・・今夜はお楽しみ?」
「ルル、それはなんか違う。どこで覚えてきたかわからないけど記憶から抹消した方がいい」
仕事中と、家族外で親しい間柄の人物と会話する兄という知らない一面を見つつ、僕らは前へ進む
先についた三波兄さんが扉に手をかけて、その先に進んでいく
僕らもその後に続いて「彼」が待つ場所へと向かっていった




