Track13:悪魔の帰還
三波兄さんの鎖の鍵を開けて、様子を伺う
・・・遠く離れた茂みの中で、起きるのを待っていた
「・・・アカウント乗っ取りで襲い掛かってくるとかないよね?」
「音羽姉さんの心配はわかる。けど、三波兄さんの事だ。乗っ取られたふりをして殴りかかってくるのは普通だからこれぐらい離れて待つのが当然」
「ツカサ、不審?」
「なんか、三波さんの印象変わりそうで申し訳ないわ・・・」
築茂の悲痛な声が小さく響く
水のせせらぎしか聞こえない空間で、ひたすら様子を見る
なんだか、退屈してきた
「・・・三波兄さん、寝たふりとかじゃないよね」
「何か、仕掛けてみる?」
「なぜ二人揃って私の方を見るんですか・・・」
「薫さんだったら、三波兄さんを翻弄できるかと」
「薫さんだったら、三波兄さんに怒られないかと」
僕らの視線に、薫さんは耐え切れなくなったのだろう
悔しそうに口を結んで、ゆっくりと諦めたように息を吐いた
「・・・わかりました。額に「肉」って書いてきます。これでいいですか?」
「定番!」
「ルルちゃん、喜ぶところちゃうで・・・ん?」
ふと、築茂の側を緑色の光が走ったような気がした
けれど、普通に精霊が通り過ぎただけだろうと僕も築茂も気にすることなく、三波兄さんに対するいたずらの計画を進めていく
「それじゃあ、行ってきますね・・・」
薫さんがペン片手に三波兄さんの元へ歩いて行く
そして、兄さんが眠る側に立ち、ペン先を額に近づけながら震えていた
「こういうシチュエーション、御伽噺風だったら眠ってる方にキスとか可愛げのあるような話なんやけどなぁ・・・」
「確かに、定番。眠り姫を起こす方法・・・」
「まさか肉って書いて遊ぶとは・・・なんとも」
「でも、寝てる人に対する悪戯では定番。日本に来る前に勉強した」
「そうかそうか。本かサイトか知らんけど、それ大幅に間違っとるから参考にするのやめた方がええで?」
「・・・これ、定番じゃないの、ツクモ」
「定番じゃないなあ・・・」
「そうなんだ・・・しゅん」
築茂がツッコむ理由がわからないようで、ルルは首をかしげながら不思議そうに築茂の言葉を聞く
そして、それが定番じゃない事を知ってなぜか落ち込んでいた
「・・・准教授、御覚悟!」
薫さんが覚悟を決めてペン先を三波兄さんの額につけようとした瞬間、緑色の光を放つ精霊が薫さんの手を宙で受け止める
その光景で、何が起きたか瞬時に理解する
なんせ、この場に精霊を操れる人間なんて・・・一人しかいないのだから
「覚悟するのはお前だよ、薫」
「うげばぁ!?起きてた!どこから!」
「気持ち悪い声出すなよ。最初っからだよ、バーカ」
ゆっくりと身体を起こし、相も変わらず悪態をつきながら楽しそうに笑う姿は間違いなくあの悪魔そのものだ
アカウント乗っ取りとか絶対にありえない。なんせこの嫌な予感がするオーラは奴にしか出せない
「薫、久しぶりだな。元気そうで何よりだよ」
「三波さん・・・!」
けれど、そんな彼が目覚めたことを喜ぶ人物もいる
一番近くにいた薫さんは三波兄さんに抱き着きながら、目覚めたことを喜んでいた
三波兄さんも色々といいつつも、大体いつも行動を共にしていた薫さんに会えたのが嬉しそうで、自分よりも大きな彼女の頭を撫でていた
「お前なぁ。まあ、准教授って叫ばれるよりマシか。ほれほれ。ペン貸してみ?」
「はい!」
「どうも・・・はい、できたぞ」
「・・・三波さん、私の額に何を書きました?」
「肉だけど?」
「ぬぁあ!?」
「いつも言ってるじゃねえか。いたずらする気なら、される覚悟で挑んで来いって」
薫さんは額を抑えながら慌てて僕らの元に戻ってくる
三波兄さんはそれを笑いながら、黙って僕らの方を見ていた
その目は、完全に笑っていない
「・・・音羽姉さん」
「司。わかってるよ。逃げるべきだって・・・」
「さて、音羽。司」
「「・・・・なんでしょう、お兄様」」
僕と音羽姉さんはゆっくりと悪魔を見上げる
逃げなければいけないのに、逃げられない
本能的な何かに縛られるように、僕らはその場で三波兄さんの反応を待っていた
「お前らさぁ・・・よく人で遊ぼうとか考えるよな。それに・・・尊敬する人がいたのかとか、いたずらしようとか散々失礼なこと言ってくれたじゃねえか」
「なんで知ってるの!?」
動揺しきった音羽姉さんは、困惑した声で三波兄さんに問う
「現実で見てたから」
「見てたんだ。てか見れるんだ・・・」
三波兄さんにしてはすんなりと答えを提示してくれる
それと同時に悟る。これから僕と音羽姉さんに降りかかる事象を・・・
「さあ、言い残すことはあるか?」
「「・・・・ございません」」
「現実だったら土いじりフルコースだが・・・音羽」
「は、はい!」
「俺が連れ去られた後に警察へ連絡したり、一馬兄さんに俺の事を知らせてくれたこと、色々してくれたからな。むしろ感謝してる。だから音羽に対するお咎めはなし」
「ほっ・・・」
音羽姉さんはお咎めなし
つまり、つまりお咎めがあるのは・・・!
「問題はお前だ、司ぁ!」
「ひぎゃああああああああああああああああああ!」
「散々失礼な事を言ってくれたなぁ!仕置きだクソガキ!」
「ごめんなさい!もうしませんから!」
「その台詞も聞き飽きた!もうちょっと言い回し考えろ!」
「理不尽!怒るところ理不尽!」
「そんな語彙力のなさだから国語のテストしょっちゅう六十点なんだろうが!お前は何人だゴラァ!何年この国に住んでやがる!うちの長兄は何科の教師だと思ってんだ!?聞いてんのか司ぁ!」
やっぱりお咎めは僕だけ
起きたばかりとは思えない勢いで僕は三波兄さんに追いかけ回され始める
いつも通りのキレ方にやっぱり三波兄さんだと思うと同時に、命の危険を感じながら必死に逃げる
「・・・司、相変わらず国語ボロボロなんやな」
「ツカサ、がんば・・・」
「三波兄さん、私が言うのもなんだけど他人の目があるから少し落ち着いて・・・」
「三波さん、家族の前ではあんな感じなんだ・・・」
四人はそんな僕らの様子を傍観しながら、僕らの追いかけっこを見守る
現実の三波兄さんは体力が壊滅的なので、そろそろ終わるのだが・・・ゲーム内の三波兄さんの脚力は衰えるところを知らない
「こっちのセカイはいいなぁ・・・無限にバカを追いかけられる!」
「勘弁してください!ごめんなさい、三波兄さん!」
「謝って許したところでお前は繰り返すだろが」
「いきなり冷静になるの反則じゃない!?」
その瞬間、石に躓いて転んでしまう
倒れ込む瞬間、僕は死を悟った
「ぐべっ」
「ツカサが転んだ」
「死んだな、司・・・南無」
「・・・勝手に殺さないで、築茂」
しかし、奴は笑顔でやってくる。無慈悲な笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩いてくる
「さて、司。覚悟はいいか?」
「・・・好きにしてください」
「ちなみに司。これは何だと思う」
三波兄さんは僕に両手を見せながら問う
肌色の両手。手袋に覆われていない、綺麗な手だ。それ以外の何物でもない
「・・・手、だよね」
「ああ。ゲーム内だから現実の手袋問題もないんだ。つまり?」
「・・・つ、つまり、あのお仕置きの強化版!?」
「そういうこと。司、笑えばいいと思うぞ!」
ノリノリで手をわしゃわしゃさせながら僕を固定するように体の上に乗る
そして、その手を脇腹に添えて動かし始めた
まあ、いわゆる「こちょこちょ」そして「九重式くすぐり刑」である
十分間で終わるけれど、一時間ぐらいの体感時間がある地獄
三波兄さんが満足するまで僕のお仕置きは続く
ひたすら笑わされ続けて、息が苦しくなった頃・・・お仕置きは終了する
そのお仕置きを受けながら、奴の帰還を・・・・来訪
九重三波は確かに、このセカイにやってきたと、その身に実感させられた




