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夢守ノネットシンフォニア  作者: 鳥路
Album2:精霊王と愛し子の独奏曲
21/32

Track12:彼の名前を呼んで

「・・・三波兄さん」


薫さんが知る昔話を聞いた僕と音羽姉さんは言葉に詰まる

帰国した理由は・・・悪い噂がキッカケということになるのだろうか


「・・・それから、どうなったんですか」

「姉がついた嘘はすぐにバレ、世間からの糾弾を受けました。半無限種の資料は研究所の上層部経由で准教授に渡され、准教授はその意志を継いで作り上げたこと。そして、おしゃべり花は准教授が作り上げたものだと・・・」


少しずつ、語る声のトーンが落ちていく


「・・・結果的に、姉は実家に戻ってきてから何もしなくなったんです。無気力に、ただ一日を何もせずに、過ごすようになりました。後は・・・私が、准教授と出会い、現在の准教授の事を知った後に自殺しました。そこまでの間に、変わったことはなかったはずです」

「なるほどなぁ・・」

「重いですね・・・」

「そうですね。結構重い話になってしまいました」

「けれど、それだけじゃ・・・三波兄さんにとって思い出深い所はわからないね」


音羽姉さんの言う通り、いくら過去を聞いたところで三波兄さんにとって思い出深い場所に相当するものはここにはない


「・・・おしゃべり花がその辺に生えてたりとかしないかな」

「・・・ウィリアム?」

「そうそう」


ルルがおしゃべり花の本名を告げたことでふと考える


「・・・思い出深い。ウィリアム」


思い浮かべるのは、僕にしか見えない精霊王

彼、名前を明かさなかったよな。僕のクエストに出てくる騎士長も名前があったのに


「まさかねえ・・・」

『やあ』

「うわぁ!?」


噂をすればなんとやら。隣に精霊王が立っていた

しかし、他の四人にはやっぱり見えていないらしい


『そろそろ頃合いだと思ってね』

「幻想郷で待っているんじゃなかったんですか!?」

『仕様だよ。さあ、司。我が友人である三波の事、何かわかったかい?』

「わかりましたよ。だから教えてください。貴方の、名前は?」

『それは君が答えなければならない。言ってみてくれ』


もしかして、三波兄さんにとって思い出深い場所って・・・思い出深い場所にいる人物を指すのか?

完全に後だし情報じゃないか・・・


「・・・ウィリアム」

『そう。ウィリアムだ。三波が付けてくれたのだよ。素敵な名前だろう?』

「・・・やっぱり。じゃあ、鍵も」

『ああ。そういう仕組みだからな。これが、鍵。受け取るといい、司』


ゲームだから、クエストだから・・・そういう仕組みだから

彼は名前を当てられなければ鍵を渡すことが出来なかったのだろう

ガラスでできた鍵を受け取りながら、しみじみ思う


『・・・三波を起こしたら幻想郷の方に来なさい。そこで、話の続きをしよう』


精霊王の言葉に僕は無言で頷きながら受け取ったガラスの鍵を握り締めた

その手に何かが握られたことを、築茂がすぐに察知して声を出した


「司、それ・・・」

「・・・精霊王がくれた。名前を当てないと渡せない仕組みだったらしい」

「名前?」


音羽姉さんが不思議そうに僕に問う

確かに名前があるとは思わないからな・・・


「精霊王の名前。ウィリアムだって」

「・・・いかにも、准教授がつけましたって感じの名前ですね」

「三波兄さんが?」

「はい。ウィリアムというのはですね・・・ウィリアム・リンドバーグと呼ばれる、准教授が尊敬している植物学者の名前なんですよ。おしゃべり花の名前も彼から取ったと言っていました」


薫さんの言葉に、僕と音羽姉さんは顔を見合わせる

互いに首を傾げた後、その異質さを実感し、心を揺さぶってくる


「「三波兄さんが尊敬している人間なんていたんですか!?」」

「音羽さんも司君も、驚くところそこなんですね・・・」

「ミナミ、オトハとツカサからどんな印象、持たれてる・・・?」

「間違いなく、一馬さんみたいな「尊敬できるお兄ちゃん」扱いはないと思うで・・・」


そんなことを言い合いながら、僕らは一度立ち上がる


そして、眠る三波兄さんの側へと進んでいった


・・・・・


志貴さんたちの様子を見終えた後、運営の男性が俺たちに声をかける

どうやら、クエストが進行して俺がログインできる可能性が出てきたらしい

着用していた「A-LIFE」を運営さんに手渡し、それに先程言っていたアカウント保護を施してもらっている

どうやら、中にいる運営さんと同じような感じにしてくれるそうで・・・俺からも現実の運営さんに連絡をとれるようにしてくれるらしい


今はその作業の終了を待っている間

可愛い弟妹共の失礼な発言をBGMにのんびり時を待っていた


「しかしまあ・・・音羽も司も人が聞いていないと思って好き放題言いやがって」

「尊敬している人いたんですね・・・」

「お前もか!」

「痛っ!?」


隣で失礼なことを言うあんぽんたんに蹴りを入れる

全くどいつもこいつも・・・俺が憧れとか尊敬とか抱いているだけで不気味に思いやがって・・・いたら悪いのかよ


しかし・・・そろそろ現実でできることが終わる

彼に一言言っておかなければならない


「夏彦」

「はい」

「ありがとうな。俺、現実でできること多分ここまでだから・・・付き合ってくれて助かったよ」

「いえ。お気になさらず。一馬先輩によろしくお願いします」

「ああ。全部終わったら何かお礼をするよ。住所は一馬兄さんが・・・」


夏彦は無言でそれを押し付けてくる

小さな紙きれ。それを受け取ると、そこには彼の住所と連絡先が記載されていた


「一馬先輩に聞かずとも連絡先は知っていると思います。住所はこちらなので、何かあれば」

「ああ。そうだな・・・何かあればここに」

「これ以上は何もできませんけど、また起きたら連絡してください。まだ情報収集が必要なら、車ぐらいは出しますから」

「ああ。起きたら、連絡する。本当にありがとう」

「いえ。では、俺は帰ります。ご健闘を」


彼はのんびりとした足取りで部屋を出て行く

それと入れ替わるように、運営の男性が戻ってきた


「九重さん、助手さんは」

「今から俺はこっちなので、戻ってもらいました。それで・・・」

「はい。作業終了しました。ログインを試みて貰ってもよろしいですか?」

「勿論です。のちの事はお願いします」

「はい。九重さん・・・よろしくお願いします!」


運営の男性の声と同時に、俺は「A-LIFE」を耳に着用し、いつも通りの手順を踏む


「・・・コネクト!」


世界とセカイを繋ぐ言葉を、半年ぶりに呟く

それを合図に、俺の意識はセカイへと繋がれる

半年ぶりに入り込む、ゲームの世界へと―――――――――!

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