Track5:果たすべき恩返し
一方、現実にて
やっと植え込みの捜索が終わったみたいで、噴水前に腰かける俺に夏彦は声をかける
「弟さん・・・植え込みの中に、ノートがありました。後は空き缶とかゴミですけど、捨てていいですか」
こいつ・・・本気で全部持ってきやがった
普通はゴミっぽいのは持ってこないだろう。まあ、あるもの全部持って来いと言ったのは俺だけどさ・・・ここまで馬鹿正直な奴、桜の他にも存在したのか・・・
「ご苦労。ノート以外は処分でいい。それと俺の事は三波と呼べ、夏彦」
「はあ・・・しかし、そのノートは一体」
「一馬兄さんたち三つ子の一番下・・・深参兄さんが残したノートだ。おそらく失踪する前に残した唯一の足取りになるだろう」
「ええっと、深参さんは三男さんでしたよね。失踪って・・・」
「そこは気にするな。とりあえずこれをもって次のところに移動するぞ・・・次は」
次は、玖清警察署にと指示を出そうとした時
見覚えのある黒い服を着た男たちが噴水。そこにいる俺たちを囲むようにして立っていた
間違いなく狙いは俺か・・・夏彦が探し出した深参兄さんのノートか
どちらにせよ、彼らに捕まるわけにはいかない
「・・・三波さん、彼らはお知り合いで?」
「いいや。うちに一度訪ねて来てくれたことはあるけど・・・首に変なもの刺されてさ。とてもじゃないが、お知り合いとは言いたくないね」
「そうですか」
「意外と反応軽いな・・・」
あっさりと状況を理解したのか理解していないのかわからない反応で、夏彦は俺の前に庇うようにして立つ
「・・・どうします?」
「強行突破は?」
「できますけど、逃げやすくするためには全滅がいいと思いますよ。その間、ちょこまか逃げられます?」
「成人男性の癖に小学生に間違われる小柄さ。アホに対する行動予測も足して・・・そんなこと、朝飯前に決まってるだろ」
自慢気に言うことではないが、正直なところ・・・今はこうして自虐を交えつつ自分を鼓舞しなければ足がすくんでしまいそうなほど怖い
それでも、こいつとならどうにかなりそうな気さえする。なんでだろうな
「言いますね。では、一分で終わらせます。全力で逃げてください」
「・・・は?」
一分。確かにそう言った
彼は左足で思い切り地面を蹴り、男の元へ駆けた
そういえば、そういえばで・・・一馬兄さんから聞いた覚えがある
『夏彦は基本ぼんやりしてるけど、あの子もね、沼田の子らしく不良だったからね。かなりの腕・・・いや、足利きだよ』
自慢気にそう告げる言葉を、もう少しちゃんと聞いておけばよかったと思う
そうしたら、この光景を見逃さずに・・・直視できたのかもしれない
一分もかかっていないだろう。三十秒で「けり」を付けた
普通に腕っ節もあるが・・・何よりも蹴りの威力は群を抜いている
蹴りだけで人を浮かせられるとか、竜巻に飲まれたように上昇するだとか言っていたな
確か、ついたあだ名は・・・
「・・・暴風龍」
「そのあだ名、一馬先輩でしょ。恥ずかしいからやめてくださいよ」
「お前、殺ればできるんだな」
「殺してませんよ。気絶させただけです。ほら、行きましょう。次はどこへ?」
俺を瞬時に抱え上げてから、彼は問う
「次は警察署に・・・」
「ええ、警察署?嫌です一人で行ってください」
流石元不良。言うことが違う・・・
「そこにある物の調査を頼んでいるんだ。頼むよ」
「まあ、協力すると言ったのは俺ですから。最後まで付き合いますよ」
「しかし、お前・・・なんで俺を抱きかかえたまま進むんだ」
「こっちの方が早いでしょう?」
「・・・」
言いたいことは山ほどあるが、確かに今は早い方が望ましい
「ありがとう。助かるよ」
「うわ素直」
「おい」
「いえ、すみません・・・意外な反応で。どういたしまして。警察署の後の事を決めておきましょう。どこに行くんですか?」
「次は、運営。ゲームのな。そこじゃないと・・・向こうの様子が知れないから」
「なるほど。わかりました。」
俺は抱きかかえられたまま、彼に今後の予定を伝えていく
彼は相槌を返しながら、駐車場の方に駆けていった
・・・・・
「・・・」
車内で深参兄さんのノートの内容を読む
「・・・司がゲーム内に入っているのは、深参兄さんの影響か」
あの黒い連中に襲われた時の状況はほぼ同じ
しかし、俺とは異なり深参兄さんは彼らと会話をしているようだ
それをこっそり書き取ったものだったから走り書きで読みにくいが・・・読めない事はない
「しかし、あの「ラメントのシキ」が「七峰志貴」とは・・・世間は狭すぎないか?」
しかし、志貴さんが「失ったものを取り戻す」為に賛同しているのは・・・少しおかしい気がする
なんせ、志貴さんは喋れないどころか、意志疎通もまともにできないし・・・
どちらかといえば、無理やり組み込まれた可能性の方が高いのかもしれない
それか、彼が自我を失う五年前の交通事故の数日前あたりに黒い連中と接触していたか・・・
情報が増えると同時に、倍以上の疑問がさらに積もっていく。とても悩ましい現状だ
「・・・情報収集に長けた奴とかいないかな」
「情報収集ですか?」
「お前、何か心当たりある?」
「得意そうな人に心当たりはありますが、今頃病院ですよ」
「・・・やっぱりそこなんだよな」
今、この世界のほとんどの人間が眠りについている
例え、情報網を持っている存在が知り合いにいても、ゲームをプレイしてなかった存在とは限らないのだ
まあ、運営あたりに依頼するか。深参兄さんのノート付きで相談して、志貴さんの事を調べてみるべきだろうな
あの人には、深参兄さんも知らないようなことがまだあるのかもしれない
「しかし、意外だな。双馬兄さんがプレイヤーだったとは」
司、俺、双馬兄さん、深参兄さん、志貴さん
その五人の共通点として「LE」と記載されている
間違いなく、あの武器の保持者なのだろう・・・何もかも斜め上の情報で驚きを隠せない
「しかし、面白そう・・・その理由で残された司は災難だな」
だが、深参兄さんの機転で奴らの思惑通りになる可能性は逆に減っているのだろうか
わからないけれど、そうであればいいのだが・・・
ノートから得られるメインの情報はこれぐらいか?
奴らの目的は、志貴さんの項からわかる通り「失ったものを取り戻す」
志貴さんが賛同者であり、賛同した理由が確かにそれならば・・・と仮定した話だが
「三波さん、警察署につきましたよ」
「ん、ああ・・・そうか。ありがとう。お前も来い」
「・・・嫌だと言っても連れて行くんですよね。わかりましたよ」
エンジンを切って、鍵を片手に車を彼は降りる
俺はそれを確認してから、助手席から車を降りた
「しかし、警察にどんな調査を頼んだんです?」
「俺の首に刺された、針の事を調べて貰っている」
「針、ですか?」
「言ってなかったか?ニュースでやってた噴水の集まりの事」
「ああ。十一人が集められて、なんか儀式っぽく針を刺されたって奴ですか?」
「そう。俺、あの噴水に集められた十一人の一人。唯一あそこに取り残されていて、そこを保護されたんだ」
「・・・そうだったんですか。だから、事件の調査を個人でしているんですか?」
「そう言う訳だな。自分に何が起こったのか、そして、事件の解決の為にできることをしたい。終わるのを待つだけなのは嫌なんだ」
白衣を正しながら、警察署の方へ歩いていく
後ろから彼がついてきてくれるのを確認しながら、内心を少しだけ零した
もっとも、少しだけではなかったけれど
「一馬兄さんだけじゃない。他の兄妹もあの中にいるんだ。必ず、終わらせるんだよ。それが「あの時の俺」に手を差し伸べてくれた兄妹たちの為だと、信じてな」
誰も信じられなくなった俺を諦めないでいてくれた兄妹たち
その兄妹の危機なんだ
あの日の恩返しを、俺は果たさなければいけない
季節はもうすぐ秋
俺が向こうに渡ったのも、帰ってきたのも、これぐらいの時期
昔を思い出すのは、十年経っても嫌気がさす
ここに、おしゃべり花・・・ウィリアムがいなくてよかった
いたらきっと、八つ当たりをしてしまうだろうから
十年前、大学を飛び級で卒業した後、俺は先生に連れられてある研究所に所属することになった
そして俺はそこで、あいつと出会う
六平坂穂希・・・俺の助手を務める薫の姉と出会ったのは、そこだった




