Track4:鍵は思い出の場所へ
「あの・・・三波兄さんへの謎の介入というのは」
『・・・君がメヌエットをきちんとした形で使用できないように、三波達には金縛りのような介入が先程から行われている』
おそらく、謎の介入というのはアカウントの乗っ取りの事だろう
NPC側にもそれが把握できているというのは、不思議な現象だけれども・・・
少年は、淡々と話を続けてくれる
『かという私も、権限・・・まあ、力を奪われてしまってね。他の帝国武器も同じような感じのようだけど』
その言葉で、僕は目の前にいる彼が何者なのか直感的に悟った
「・・・じゃあ、貴方はもしかして、精霊王、なんですか」
『うん。力を奪われて、子供になってしまっているけれどね。威厳とかなさそうだろう?』
「まあ、はい。そうですね・・・」
『君にしか語りかけられないのは、君がメヌエットの持ち主だからだろうか。他の人にも話しかけてみたのだけれど、無反応で少し寂しさを覚えたね・・・。これも力を奪われた影響だろう。なかなかに面倒だ』
彼が見えているのはどうやら僕だけらしい
本来なら無差別に見えているはずなのだろう。けれど、今は僕にしか見えていない
システム的な問題だろう・・・なかなかに厄介だ
内容はきちんと聞いて、全員に伝えられるようにしないと
今、彼の言葉を聞き取れるのは僕しかいないのだから
『半年前から起こる異常事態。人が集ったことで、精霊たちもざわめいている。私も、あの異常事態の渦中に巻き込まれ、こうなってしまった』
少年は風になびく金色の髪を抑えながら、丘の全てを一望する
煌めく光たちは、言われてみれば確かに落ち着きがない
『三波の他にも、帝国武器を持った者たちがこうした異常に巻き込まれていると聞く。我々は、それに対する対処をそれぞれ行ったのだが・・・逃げおおせたのは三人だけのようだ』
最も、私は三波を眠らせて、異常に対する浸食を抑えることしかできないけれど・・・と彼は付け加える
しかし、三人?ラストエンパイアシリーズの武器の所有者で、まだ正気を保っている存在が・・・いるのかな
「三人、というのは?」
『教えてもいいけれど、まずは私の依頼を果たしてもらおうか』
「・・・ですよね」
『私が探してほしいのは、この杖を繋いでいる鎖の鍵』
「ガラスの欠片ではなくて、鍵?」
やはり、クエストの内容が微妙に変わっている
三波兄さんが知っている精霊王のクエストはもうどこにもないらしい
『そう、鍵。透明なガラスでできた鍵だ。あいにく私は自由に動くことが出来なくてね。君たちに探し出してほしいんだ』
「ここのどこかにあるんですか?」
『あるだろう。なんせこれは、三波を起こすためのLEクエスト。なければいけない。存在しないのは許されない。それは、ゲームとして成立しないことは、許されない』
精霊王の彼から直々にこれがLEクエストだと発表される
しかしそれは、精霊王の杖を得るためではなく、三波兄さんを起こすためのものに変化している
だから、クエストの内容が微妙に違うのだろう
しかし、NPCである彼が、この世界はゲームだと認識しているのはどうなのだろうか
そして、LEクエストに関係しているNPCは、僕にメヌエットをくれた騎士王をはじめ謎の独断行動を起こしているようだ
なぜ、ゲーム内の存在である彼らが、ゲーム内に仕組まれた事件に反抗するような真似をしているのだろうか
・・・まさか、運営会社すら乗っ取った大掛かりな事件とでも言うのだろうか
流石に、そんなことはないだろうけど・・・
『司。無事に君が三波を起こすことが出来たなら、私の知る武器の所有者の今を伝えよう』
「本当ですか?」
『ああ。王に二言はない。それともう一つ』
「まだ何か?」
『鍵は、三波の一番思い出深い場所に埋まっていると思う。落ちているということはないだろうね。それは巧妙に隠されている!』
三波兄さんの思い出深い所に埋まっている?
けれど僕は、三波兄さんの子供の頃なんてほぼ知らない
音羽姉さんも同様だろう。なんせ三波兄さんは成人するまで海外にいたのだから
・・・こんな時、桜姉さんがいてくれたら少しは違ったかもしれない
例え離れていても、手紙という形で繋がりを残し続けた桜姉さんなら・・・三波兄さんの昔の話を少し知っていたかもしれない
「・・・僕は、三波兄さんの昔の事は知らない」
『君はそうだけど、あの、背の高い彼女ならば知るはずだよ。彼に何が起きたのかをね。その記憶の先に、幻想郷の道が開かれるはずさ。私はそこで待っているよ、司』
そう言って、彼は姿を消した
僕はまだ聞きたいことが山ほどあったが、向こうはもう言えるだけの事は言ったのだろう
今の僕らは・・・三波兄さんの昔を辿って、鍵を探すしかないらしい
「司、どうしたん?そんなところで。ほなはよガラスの欠片を・・・」
「築茂、ううん。築茂だけじゃない。皆に聞いてほしい話があるんだ。一度集まろう」
一人で立ち尽くしていた僕に疑問を持ったのだろう。不思議そうな声で築茂が僕に声をかける
その声のお陰で一人考えていた思考から「やるべきこと」に対して動き出すことが出来た
周囲を見て回っていたこの場の全員に声をかけて、一度近くに集まる
そして先ほど彼から聞いた話を四人にすると、それぞれ反応を見せてくれた
「なるほどな。メヌエットを持っとったから、精霊王の姿が見えた・・・」
「ツカサがいなきゃ、大変だった」
「けど、三波兄さんの過去を辿って、思い出深い場所を探さないといけないんだよね。困ったな・・・桜姉さんなら何か知ってるだろうけど、私は司と同じぐらいしか知らないな。でも・・・」
「でも?」
音羽姉さんは、凄く言いにくそうに口を結んだ後・・・覚えている事を教えてくれる
「・・・帰国した後の三波兄さん、凄く荒れてて、一馬兄さんと桜姉さんのいうことを全く聞かなかったの。むしろ、反抗してたって感じかな。「誰も信用するもんか」って・・・言っていたのは覚えてる。凄く、暴れていて、怖かったから」
三波兄さんが帰国したのは十八の時・・・今から八年前の事だ
音羽姉さんはその時九歳。怖かったことで印象深く記憶に残っているようだった
「・・・やっぱり」
そんな音羽姉さんの情報に反応を見せたのは薫さん
彼が言っていた通り、薫さんは三波兄さんの昔の話を知っているようだった
「・・・薫さん。何か知っている事があれば、教えてほしいです」
「・・・あの、音羽さん」
「なんでしょうか」
「・・・准教授は、その時何か言ってませんでしたか、その・・・おしゃべり花の事」
お喋り花の事は僕も音羽姉さんも知っている
三波兄さんの友達?みたいなポジションの花で、日光浴をこよなく愛する思ったことしか言えない花だ。名前はウィリアム。意外と洒落た名前をしている
僕らもたまに話し相手になってもらっている。凄く優しい花だ。正直すぎて三波兄さん同様言葉のナイフで心を抉ってくるときはあるけれど
「おしゃべり花・・・?いいえ、ただ、誰も信用しないとしか言っていませんでした。そのせいか、三波兄さんと一番仲がいい桜姉さんも、三波兄さんが急に帰国した理由は知らないみたいなんです」
「・・・そうですか。じゃあ、音羽ちゃんも司君も、知らないんですね。お姉ちゃんと、准教授の事」
「お姉ちゃん?カオル、お姉ちゃん、いる?」
「はい。お姉ちゃんが「いました」」
薫さんは、胸に手を当てて自分の事を辛そうに語り始める
しかしそれは、薫さんだけの話ではなかった
三波兄さんにも関わる、大事な話
「姉は・・・一年半前に自殺しました。ある人物を陥れようとした罪悪感のあまり、自分で命を絶ったのです」
「その、ある人物ってまさか・・・」
その先は言わなくてもわかる。話の流れで、理解できたのだから
それでも薫さんは僕たちに教えてくれる
お姉さんが陥れようとした人物の名前を、告げてくれる
「・・・植物学で有名な「ハリス・アーデンフィルト」・・・その一番弟子の「九重三波」。そこで眠る、お二人のお兄さんです」
「・・・薫さんのお姉さんが、三波兄さんを」
薫さんは、かつての話をしてくれる
おおよそ十年前から始まる昔話
植物を愛し、語る事を夢見た少年と同じ研究所で働く努力家の女性
二人が、道を別つまでの昔話を・・・ゆっくりと、初めていく




