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夢守ノネットシンフォニア  作者: 鳥路
Album2:精霊王と愛し子の独奏曲
11/32

Track2:四男と手ごろな足の現実側調査

電車で病院から桜公園の方まで移動する

休日なのに、人がほぼいないのは・・あのゲームの影響だろう

それに、バスも何も動いていないから移動手段も限られる

タクシーもほぼ稼働していない・・・なんと動きにくい世の中だ


自転車は残念ながら乗れないし・・・無人電車という概念が存在していてよかった

免許を持っていない俺にとっては重宝すべき存在だ


「・・・足、欲しいなあ」


人の少なさでドリーミング・プラネットのプレイヤーの膨大さを改めて痛感させられる

起きている人間も、収容ボランティアに駆り出されて・・・俺みたいに自由に動いて現実側から調査をしている方が珍しい


移動の間、俺はファミリア・リンクを起動させたまま家族のフォルダを漁っていた

司のフォルダ内にあった深参兄さんの手紙のように、何らかの手掛かりや情報を得るため

・・・プライバシーが云々とか言っている場合じゃない

後で謝ればいいかと思いつつ、一人一人データを精査していった


「司はこれ以上なさそうだな・・・次は奏」


奏は・・・吹奏楽部に所属しているトランペット奏者

楽譜とか、部活の写真もあるけれど・・・目立つものはない

強いて言うならば民間の楽団にも出入りしているぐらいか。あれ、この写真の男、市役所で見たような・・・


「まあ、いいか。しかし部活だけで飽き足らないのかこの音楽馬鹿。誰に似たんだ」


まあ、誰とは言わなくてもいいか。睡眠時間すら削って音楽をやる姿は双馬兄さんに重なる

最も、兄さんはもう音楽から手を引いているけれど

そのせいで、奏との間に溝ができたんだよな

昔は見てるこっちが呆れるぐらいに双馬兄さんに引っ付いていたのに・・・その光景すら懐かしく思う日が来るとは思っていなかった


「これは奏の部活の時の写真だな・・・あれ、この人・・・」


俺が注目したのは顧問の教師の方

こいつ、確か一馬兄さんが毛嫌いしている中学の音楽教師じゃなかったか

それぐらいだな。奏から収穫できる情報は、これ以上なさそうだ


「・・・次は音羽」


音羽は栖鳳西高校せいほうにしこうこうの三年生

課題の資料や、進路を決めるために色々と学校案内のファイルがダウンロードされている

・・・それよりも、料理のレシピとか、掃除の豆知識のスクショが目立つのは、家の家事担当をしてくれている音羽らしさを覚える


音羽の通う栖鳳西と言えば・・・一馬兄さんが難関と噂の入試でフルスコア出したところだっけ

その後に身体を壊して入学辞退・・・ってなったけど


しかし、このクラス写真・・・やっぱりいるんだな。進学校にも不良という生き物が

一馬兄さんの出身校のように、不良だらけの空間なら浮かないだろうけど、真面目な人間ばかりのこの空間の中では結構異質なオーラを放っていた

音羽はきちんと写真にタイトルを付けていたので、その男の名前がわかる


「二島湊・・・か。まあいいか。どうせ三日で忘れるだろう。次、志夏」


志夏は基本的に無趣味・・・なだけあって、写真も割と抽象的なものが多いし、というか前三人に比べて非常に少ない

こいつ、薫以外に友達いるんだろうな


友達といえば、志夏の同級生になんか変な奴いなかったか

そう。確か高嶺廻たかみねめぐる。清志の奴とつるんで厄介ごとを引き起こしていた奴

例えばそう。倫理観を無視した実験という名のいじめとか・・・な

あいつと志夏は今どういう関係なんだろうか

アドレス帳を見るに連絡を取り合っていないみたいだし、清志だけの繋がりだったのだろうか


「・・・まあ、その辺りはわからないか。次は、桜か」


桜はなあ・・・桜だしなあ・・・

けど、俺がほとんど知らない学生時代の縁とかあるかもだし、調べてみる価値があるとは思うけど・・・

仕事とプライベートのファイル分けぐらいしろよな・・・この資料、会社の開発データだろうが。鍵つけとけよ。清志が生きてたら間違いなく悪用されるぞ


・・・そう言えば、清志の端末は家にあるんだったよな

一馬兄さんが「悪いもの」として、一馬兄さんの部屋の金庫に仕舞ったと聞く

あんないわくつきのものを通帳と届出印と一緒にいれるなよ縁起悪い・・・


けど、そうでもしなければ・・・志夏以下の弟妹が好奇心で見てしまった時に対処できない

中に入っているのは反吐が出てくるような内容ばかりだ

見る時はそれ相応の覚悟がいる・・・いや。いった

あれは、深参兄さんをはじめとする保存されたデータを見た全員が衝動的に壊したくなる感情を抱くような・・・代物なのだから


「まあ、あの馬鹿の端末は後で調べるとして・・・桜って女子高出身とは聞いていたけど、マジだったのか。うわ、夢が壊れる・・・」


その隣に写る少女と、いくつものプリントクラブ・・・確かプリクラだったか

そのデータが記録されている

書かれているのは「さくら&あさぎFo「u」ever friend」・・・?

なんだこれ、見たことない英語だな・・・ふぉう、えばー?


「ああ、fo「r」everか。痛恨のスペルミス。しかも記録に残る媒体で・・・」


まあいいや。桜にはあさぎという友達がいた。それぐらいの情報だな

仕事のデータも、ドリーミング・プラネットを開発している会社のライバル企業

目立ったデータは存在しない。桜はここまでか


「・・・深参兄さんは、抵抗あるけど見ないとだよなあ」


深参兄さんのフォルダはやはり仕事と志貴さんの事ばかり

司宛の送信メッセージも確認できた。あのメッセージは確実に深参兄さんが送っている事もまた、確認できたことになる

しかし、俺の目を引いたのはそれ以外のメッセージだ


「・・・これ、かなりマズいんじゃないのか」


深参兄さんのメッセージフォルダ内には、病院から何通かメッセージを送られていた

内容は全て志貴さんの事


「・・・重度の精神障害。やっぱり、あのことが今も・・・。今は薬で安定させつつ様子見ね。うげ、薬の量凄いな」


精神安定剤から始まり、皮膚用の軟膏に渡るまで、色々な薬が処方されていた

何か皮膚疾患があったのだろうか。そんな様子はなかったはずなのだが


「それに、他にも・・・なんだ、この五年前の交通事故の記録って。深参兄さんは何も・・・」


その事故で脳にも障害が出て・・・体の機能に麻痺も出ているようだ

とてもじゃないが、一人で出歩けるような状態じゃない。自分で車椅子すら動かせない

じゃあ、あの動画に写っていた志貴さんは、誰に連れ出されたんだ?

まだまだ、疑問は俺の中に降り積もっていく


「暴れるせいで定期的に鼓膜が破れて・・・って、五年間でさらに悪化してるのかよ」


彼に何があったか・・・それは、兄さんたちから大まかに聞いている

だからこそ、悔しい

ただ、悪くなるのを見るしかないのが・・・家族が犯した罪を、彼に対して償えない事が


「他には、ああ・・・小さい頃の写真か」


兄さんたちの写真はざっくり三つ子のファイルなのに、志貴さんとの写真は日付ごとにファイリングされている

・・・志貴さん大好きだな、本当に

九重家にある大きなグランドピアノに並んで座り、二人が連弾でピアノを弾く様子が収められた写真

もう戻れない過去の写真だった


他には日記があったが・・・残念ながらパスワード付。これは確認するべきではないだろう


「深参兄さんでこれとかさあ・・・双馬兄さんは・・・ええっと」


双馬兄さんは仕事資料に全部鍵をかけている。桜にも見習ってほしい

・・・何もないな。漁っても大したものはない。写真も家族写真だけだ

家計簿とか、本当に家に関係するものしか記録がない


「これが・・・全部背負わせた結果か」


仕方ない。最後に一馬兄さんかな


「・・・意外と色々入ってるな。学校の記録には全部鍵。まあ、どうでもいいけど・・・ん?」


日付は三年前。一馬兄さんが倒れる前の記録のようだ

このフォルダには鍵がかかっていない。見てみるか


中身を確認してみると、一馬兄さんが担任をしていた「八重咲宇月」という女子生徒に関する記録だった

一馬兄さんは体調を崩す前、ある人物の調査をしていたようだ。なんだか意外だ


「夏彦に関係有。八重咲亙という親類の確認済ねえ」


夏彦・・・ああ。一馬兄さんの漢数字すら書けなかった後輩か

じゃあ、この八重咲宇月って奴はあいつの親族かよ・・・世間は狭いな


他にも資料を漁ってみる

高校時代の一馬兄さんを先生として、授業を受けていた生徒の資料もあるようだ

つまり、あの後輩の資料もある。中身は指導要項みたいな感じで面白いな


「へえ、あいつ。ゲームしたことないのか。勧めても、そう言うのは苦手だからって・・・」


・・・したこと、ない?

自分で言った意味を考えた

つまり、ドリーミング・プラネットのプレイヤーが全員昏睡する今

この後輩。今、確定で起きているんじゃないのか?


「・・・・」


一馬兄さんが登録している連絡先から、後輩の連絡先を探し出す

そして、ダメ元でかけてみる

電車内で通話なんて本来ならご法度だろうけど、今は誰もいない

緊急事態だ。今ぐらいは構わないだろう

登録していない番号だったら取らないみたいなタイプじゃなければいいのだが


『はい、巽です』

「・・・巽夏彦か」


ビンゴ。とりあえず出てみるタイプらしい


『・・・そうですけど。貴方は?』

「俺は九重一馬の三番目の弟。九重三波だ。一馬兄さんの事はわかるよな?」

『一馬先輩の・・・もしかして、一馬先輩に何か・・・!?』


声のトーンが変わる。一馬兄さんを心から慕い、心配しているのだろう

一馬兄さんの身体が弱いこともわかっているのなら・・・この声は、まあ、出るだろうな


「いや。一馬兄さんは寝ているだけだ。お前もテレビとかネットで知っている通り、ゲームの影響でな」

『今、凄い話題になっていますよね。一度プレイを始めて、アカウントを放置した人間も眠っているとか。ニュースで言っていました』


「それは初耳だな。まあいいや。起きているなら丁度いい。少し、協力してもらおうか。どうせ暇だろう?」

『まあ、今は暇ですけど。しかし、俺に、何をしろと』

「俺の足になれよ。車ぐらい運転できるだろ。ついでに情報収集も手伝え」

『え』

「どうせ、暇だろ?」

『・・・はあ。強引さは九重家の専売特許ですかね。まあいいですよ。どこに行けばいいですか』

「玖清桜公園まで。そこで合流しよう」

『わかりました』


通話はそれで終了

一馬兄さんの繋がりだが、いい足が手に入ってよかったよ

暇だろうし、沢山こき使ってやろう・・・


・・・・・


玖清桜公園

その噴水広場前。そして自宅から連れ去られた俺が発見された場所に立っていた


「・・・噴水近くの植え込みか。手を突っ込むのは面倒だな」

「・・・あの」

「来たか。巽」


薫並みの身長を持つ山吹色の男は、俺の姿を見て声をかけてくれる

恐る恐るといった感じだった。容姿を伝えてはいないから、迷ったのだろうか


「一馬先輩の弟さんですよね・・・?」

「ああ。九重三波だ。会えて嬉しいよ、巽夏彦」

「俺の事知っているんですね」

「まあな。一馬兄さんから聞いてる」


調査資料を見たとは言えないので、とりあえず一馬兄さんから聞いたことにしておこう

年齢は確か二十五歳。アラサーとは思えない端正な顔立ちをしている

・・・人の事は言えないけれど


「小学生?凄い行動力だけど、結構歳が離れていますね?」

「失敬な!俺はこれでも社会人だ!二十四歳だ!」

「え」


彼の絶句する声と、俺の絶叫が無人の桜公園に響く

必ず間違えられるが、よくて中学生。小学生に間違われる屈辱は、今が初めてだ


「はあ、はあ・・・次、間違えたら社会的に殺す!」

「それは、気を付けないといけない、かも・・・」

「気を取り直して・・・早速行こう。現実側からできる調査を」

「はい・・・」


少しだけ緊張感のある声で、足・・・じゃなかった巽と俺は現実側の調査を始める


「まずはそこの四つの植え込みを調べろ」

「半分ずつですよね。俺はみ―――――――――」

「何言ってるんだよ。お前が全部調べるんだ。やれ。見つけたものはゴミでも何でもいいから持ってこい」

「はい・・・」


近くのベンチに腰かけて、様子を見守りつつ、俺は別方面でできることをしていく

調べることはまだまだ多い


「・・・しかし、植え込みか」


かつて攻略したクエストの第一段階も、植え込み探しだったなと思い出す

一本道の脇にある白い花の生えた植え込み

それを目印に森に入れば精霊の丘に行けるっていうギミック

・・・まあ、キノコとかしか生えていない道の途中で特徴的な白い花が生えている場所とか何かありますよと言わんばかりの光景だ


その為、俺は仲のいいゲーム仲間には「丘に入ってからの話」しかしていないが、それぐらいわかるだろう

だって、あんなにも露骨なわけだし。むしろ見つけられない方がおかしい


「さて、今頃あいつらどうしてるかな・・・」


ゲーム内の様子はまだわからない

そんな中、俺の元に二通のメッセージが届く

待っていた出来事に、無意識に笑いながら俺は巽の植え込み漁りの終わりを静かに待った

挨拶+おまけ


夢守単体では半年ぶり、恩返しからは半月ぶり

ブレイクタイムを経由してくれた方は数日ぶりです。ご無沙汰しております。鳥路です


大変長らくお待たせしてしまいました。今日から夢守を毎日投稿でお届けいたします

時間は午前一時は確定で、後はランダムです

一話だったり、二話だったり、都合で変わるかと思います

全部締めるまでに長い時間お付き合いしていただくことになると思いますし、別枠の作品を待っていただいている方は、さらにお待たせする形となってしまってしまったこと。大変申し訳ありません

それでも、投稿している分、また予定しているものは全て最後まで走り抜く所存でございます。

まだまだ未熟ですが、九重家の物語に、最後までお付き合いいただければ幸いです

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。


おまけ


一馬「ええっと、恩返しは夢守の五年後って言っていたね。なのでまだ、ここの夏彦の元には「あの子」は来ていないよ。お爺さんのお家にはもういるだろうけどね」

三波「鳥の人から後にも先にも、別枠の主人公を顎で使うのはお前だけだと言われた」

一馬「僕もそうであってほしいと思うよ・・・流石に別のところで頑張ってきた子を顎で使うのはちょっと・・・」

三波「巽が語り部をしている恩返しには、一馬兄さんがサブ枠で、俺と双馬兄さんと奏がゲスト枠で、深参兄さんが名前だけ出張している。完結済だからこちらも一読してもらえると嬉しい。一馬兄さんの高校時代の事がなんとなくわかるぞ」

一馬「それと、休憩時間の方で深参の親友である志貴と、三波の助手で志夏の友達の薫さんが観測記録?とかいう媒体で、昔の話を少しだけ公開しているよ。深参と三波と志夏も少しだけ出ているから、あの子たちの事が気になった人はそちらもどうぞ!」

三波「じゃあ、宣伝はこれぐらいにしておいて・・・最後は兄さんが」

一馬「うん。これから、僕たちの物語をよろしくお願いします!」

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