8
ふと目を覚ます。寝室には私一人だ。隣室に人の気配を感じる。こんな真夜中に孝一は何をしているのだろうか。静かだ。私は再び眠りに落ちる。
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『話って何だよ、孝一』
『しらばっくれるな、分かってんだろう』
『……』
『ほら、心当たりがあるんだろう』
『……』
『黙るな! 卑怯だぞ。俺の振りして美紀と寝たんだろう、言わなくてもバレバレなんだぞ』
『お前の振りなんかしてない。彼女、俺の事『晶』って呼んでたぜ』
『寝た事は認めるんだな』
『それにあいつ、美紀じゃないみたいだった。ほら、あいつも俺たちみたいに……』
『人の女を『あいつ』とか『美紀』とか軽々しく呼ぶな!』
『いいから聞けよ!』
『お前が聞け!! いいか、美紀は男とホイホイ寝るような女じゃないんだ、どうせお前がたぶらかしたんだ』
『だから、俺が寝たのは美紀じゃないんだって! 美紀じゃないからそうしたんだ!』
『同じ事だろ!』
『矛盾してないか? その理屈だと俺と美紀はとっくに……』
『感情とタイミングの問題だ。百歩譲ってお前の言う事が事実だとして、簡単にハイそうですかって割り切れるかよ! 俺はお前が大人しくなって信用してたのに、裏切られた気分だ。よく分かったよ、お前がいる限り俺達は幸せになれないんだ!』
『……やめろよ、何するつもりだ。笑えないぞ。それにお前もタダじゃ済まない』
『俺達の幸せがそんなに嫌か。お前の思い通りにはさせない。いつもいつも肝心なところで邪魔ばっかしやがって。もう限界なんだよ! …………絶対に許さねぇ』
『やめろ!! 美紀はどうするんだ、彼女悲しむぞ!』
『……こんなのと一緒になるよかマシだろ……』
『おい!!』
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ガラガラと引き戸の開く音、次いでドサリという重い物が落ちるような音を、私は寝入り端の夢の中で聞いた。