6
ガチャリとドアが開く音がして、男が一人部屋に入ってくる。
私は仕事が休みだったので、ホットケーキミックスと牛乳と夕食の材料を買って、炊飯器の予約と洗濯をした以外はテレビを見てゴロゴロしていた。
「ごめん下さ〜い。こんにちは、美紀」
「……?」
「何、怪訝な顔してんのよ」
「……もしかして、摩耶さん?」
「そう。久しぶりね、ここまで来るのに迷っちゃった」
彼を居間に招き入れ、お茶を淹れる。
「この前会ったのはいつでしたっけ? 確か一昨年……いやもっと前ですか?」
「ちょうど三年前よ。私、三年周期で活動してるから」
「オリンピックとかそういうのみたいですね」
私は、彼……彼女と言った方が良いのだろうか、彼女に初めて会った時の事を思い出す。このアパートに越して来たばかりで、食材の安い店を開拓する事に命を懸けていた頃だ。彼女は突然現れた。外見は男なのに喋り方が女性だから驚いたが、サバサバとしていて悪い人では無さそうだった。
「それよりさ、孝一と結婚するんだって? 本人に聞いたよ。今日はおめでとうを言おうと思って。丁度休みで良かった。手ぶらで申し訳ないけど」
「……ありがとうございます」
「何だか元気無いね。もしかしてマリッジブルーってヤツ?」
「そういうのじゃないんですけど……」
「私に話してみなよ。楽になるかもよ。今なら孝一も聞いてないしさ」
「そうですか? じゃあ……実は私、晶の事がちょっと気になるんです」
「あちゃ〜、そうきたか。彼、ちょいワル親父っぽい雰囲気だもんねぇ〜」
ちょっと嬉しそうな摩耶さんはちゃぶ台に肘をつき、前のめりになった。
「古いですよ。それに晶はまだ中年じゃないです」
「で、美紀は彼とどうなりたいの」
「……わかりません。ただ、気になるんです」
「もうさ、いっそヤっちゃえば?」
彼女の目がキラリと光る。いたずらを考えついた子どもみたいだ。
「……何でそうなるんですか。返ってややこしくなりますよ」
「ヤれば見えてくる事もあるかもよ?」
「適当に言ってるでしょう。茶化さないで下さい」
「まぁまぁ。モヤモヤしたまま結婚するよりいいでしょ」
「そういう問題ですかね……?」
「そろそろ私行くわ。眠たくなってきたし」
「もうですか。会うのはまた三年後ですね」
「うん。三年後、家族が増えてたりしてね。じゃあ、グッドラック!」
「摩耶さんも、お元気で。良い眠りを!」