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41.悪しき精霊に憑りつかれた竜(2)


 私は、大きく息を吸って……それからゆっくりと吐くと、手の甲を壁に近づけて竜王国に通じる秘密の扉を開けた。扉の向こう側からガルデオン様の不貞腐れたような声が聞こえる。


「ボク、もう戻りたい!」

「ガル、あと一回付き合え」

「魔力をかなり使ったから疲れたよぉ。いくら魔法をかけても、この綿埃は綿埃のままじゃん!」

「綿埃と言うな! ガルデオン!」

「なら、さっさと元通りにもどれよ。このへなちょこシーフ」

「お前の魔力がいいかげんだから上手くいかぬのだ!!!」


 そぉっと覗くと、竜王様に首を掴まれてばたばたと暴れているガルデオン様が目に入った。ガルデオン様のまわりをちょっとだけ大きくなった綿埃、もとい、シーフウィル様がチカチカ光りながら飛び回っていた。 少し離れたところに、ファニール様とドラゴネット様が困った顔をして丸くなっていた。私がいない間、こんな感じだったのかしら? 私はぎゅっと手を握ると、扉を開けた。


「あの……」


 ぱあっと顔を明るくしたガルデオン様が竜王様の手を逃れて、パタパタと私のところに飛んできた。


「ローゼ! どうしたの? もう見つかったの?」

「まだ、全然です。いろいろあって……」


 私は、眉をさげて、アンが襲われたこと、ルーカスの左手が真っ黒になったことを話した。


「な……に……? 怪我をした?」


 ガルデオン様から表情が消えた。仲良しのアンが怪我をしたと聞いて、動揺しているのが手に取るようにわかる。私はガルデオン様を安心させようと、明るい声をだした。


「アンはもう大丈夫です。傷の跡も残らず、今はルーカス様の看病をしています」

「……戻る」


 ガルデオン様は、よろよろっよろよろっとよろめきながら飛んで行った。たぶん、アンのことが心配で魔女の家に戻るのね。私は、尾が下がっているガルデオン様の後ろ姿を見送った。


 ガルデオン様が私の前から立ち去ると、前に見た時よりも少しだけ大きくなったシーフウィル様がふわふわっと近づいてきた。


「それで、ルーカスとやらは?」

「解呪魔法と、蕺草(ドクダミ)などで編んだ紐でなんとか。シーフウィル様、黒い靄を触った場合はどうすればいいのですか?」


 シーフウィル様がチカチカと光りながら揺れる。


「黒い靄には、白来路花(ホワイトセージ)が一番いいのだが、今は他の方法を考えねばならん。……そうだな……蕺草と鉄葎(カナムグラ)の小さな玉のクロッシェを編んで飲ませるとよい」


 シーフウィル様は、ふわふわっと私の頭に落ちてきた。一緒に来てくれるつもりなのね。心強いわ。


「ファニール様、それで、白来路花は?」

「ここにある。友が心配でここで編むことはできぬだろう。魔女の家に持っていって編むとよい。首に巻き付けられるような大きな細長い四角ものを編んでくれ」

「? それって、首巻きのことですか?」

「ああ、そうだ。長さはお前の背丈の半分くらい、太さは……そうだな……お前の手の大きさほどのものだ」


 私は大きく頷いて、ファニール様から白来路花の鉢を受け取った。ファニール様の横で寝そべっていたドラゴネット様が首をあげて私を見た。


「ドラゴネット様、星糖は、友人に頼みました。おそらく、この白来路花のクロッシェが出来上がる時には、一緒にお持ちできると思います」

「……ああ」

「しかし、まだ、薄紫色の鈴蘭までは、手が回らず……申し訳ありません」


 私は、頭を下げた。エリック様にもまだ薄紫色の鈴蘭の話をしていない。いろいろありすぎてエリック様に言う機会を逃してしまったけれど、みんなで考えればいい案が思い浮かぶはず。まずは、ルーカス様の治療をして、それからみんなで手分けして探しに行こう。私はそう決心して、ドラゴネット様を見た。ドラゴネット様は、すこしうつむきながら首を振っていたが、何か決めたように顔をあげた。


「いや、無理を言っているのは俺のほうだ。お前だけに探させるわけにはいかない。俺も探しに行く」

「どこへ行くつもりだ?」


 踵を返して、図書館を出て行こうとするドラゴネット様に竜王様が声をかけた。


「ヨルムヴィルムのところに」

「ヨルムヴィルム?」


 聞いたこのない名前に私は聞き返してしまった。隣にいたファニール様が「地竜だ」と教えてくれた。


「ヨルムは()()()ぞ」

「何もしないのはつらい。可能性があるならやってみる。ヨルムを叩き起こして鈴蘭の在処を聞いてくる」


 ドラゴネット様が尾をぶんぶん振りながら言う。ファニール様がドラゴネット様に近づいた。


「私も一緒に行こう。ローゼリアから預かっている桜のクロッシェを持って、二人で呼べば起きるかもしれぬ」


 ファニール様が私に片目をつぶって見せると、ドラネット様と一緒に図書館を出て行った。

残ったのは、私と竜王様とシーフウィル様だ。私もそろそろ魔女の家に戻ろう。竜王様に挨拶をしようと近づいた。竜王様がすこし首をかしげて私の胸元を見ている。


「おや? 首飾りはどうした?」

「アンに、貸してきました」

「はぁ。あれは人に貸していいものではないのだが……」


 竜王様が一つため息をついた。竜王様のため息をつく姿は、憂いを帯びていて私の心がざわざわする。


「まあ、許そう。……実はな、あの魔石を使えば水に関する魔法が一度だけ使える。浄化するのもよし、雨を降らせるのもよし。呪文はこうだ」


 竜王様が耳元で小さく呪文を教えてくれた。


「これなら魔力のない侍女でも使える。侍女にも伝えておくがよい」

「ありがとうございます」


 私は、竜王様に礼を言うと、急いで、魔女の家に戻った。薬草室の扉を開けると、ガルデオン様の悲鳴が聞こえてきた。


「な、なんなんだよぉ! どうにかしろ! 鼻がおかしくなる!」


 慌てて、声のする2階に上がっていくと、寝室の前で、ガルデオン様が鼻を押さえてのたうち回っていた。


「だから、さっきから蕺草の匂いだって言っているじゃないですか。 嫌なら向こうの大きな部屋にいればいいではありませんか」

「ここには、侍女とルーカスがいる!!」

「ルーカス様は、今は寝ています。起こさないでください。ガルデオン様はあっちで待っててください。しっしっ・・」


アンが片手で追い払う仕草をする。


「やだ! やだ!」


 ガルデオン様の駄々をこねる子どものように床に転がっている。空竜の長だというのに、自尊心はないのかしら? 私は思わず吹き出しそうになった。でも、ゆっくり息を吸って気持ちを整えてからガルデオン様に声をかけた。


「ガル様、どうしたのですか?」

「あー ローゼ! やっときた! この中、ひどい匂いがする。なんとかして!」

「ルーカス様の治療のためです。あきらめてください」


 アンが、両手を腰にあてて、横から答える。


「アン、ルーカス様の具合はどう?」

「はい。熱も下がり、黒い部分はもう指の先だけになりました。峠は越えたかと」


 アンが私の方を向き直って答えた。アンの表情も少し穏やかになっている? アンの表情に、ルーカス様の状態がよくなってきていることを見つける。よかった。私がいない間に、悪くならなくて。私はほっと胸をなでおろした。


「……ローゼリア、何をしたのだ?」


 私の頭の上に乗っていたシーフウィル様が聞いた。アンが声の主を探して、きょろきょろしている。


「アン、シーフウィル様よ」とアンにシーフウィル様を紹介すると、私は部屋に入って、ベッドにかかっているシーツをそっと持ち上げ、薬草がはいっている桶を見せた。桶の水はまだ、湯気が立っている。私は、ルーカス様の額に手をあてて熱がないこと、顔に耳を近づけて呼吸が苦しそうでないことを確認した。確かに、左手の黒い部分は、もう爪の先にしかない。よかった。効果があったわ。


「おお。珍しい治療をしておるな。今までいろいろ見てきたが、そのように燻しているのは初めて見た」

「効果があってよかったです」


 私は、にっこり笑った。この前、アンに摘みたての加密列でお茶を入れてもらった時、湯気に混ざった魔力は吸い込むことが出来た。それを思い出して、もしかしたら湯気を当てれば、魔力と香りの両方を体に作用するかと思ったのだけれど試してよかった。かなり効果があったみたい。


「しかし、竜にも精霊にもきつい匂いじゃ」

「……実は私も少し苦手です」

「じゃあさぁ。はやく、この匂いどうにかしてよ!」


 鼻を押さえながら、ガルデオン様が叫ぶ。


「ルーカス様に飲ませるクロッシェが出来上がるまでは、このままでお願いします。私も、ガル様には部屋を移動することをお勧めします。しばらくしたら、エリック様ももどってきますよ」

「魔術師は面白くないもん」

「苦手なのですか?」

「……皇子のくせにさ、認識障害の魔法をかけていてさ……」


 ガルデオン様がそっぽをむいてぼそぼそと呟いた。その呟きは私の耳まで届いてきた。


「皇子?」


 私は、思わず聞き返してしまった。確かに、七竈のリングを外したら、髪の色が紫紺色から銀色に変わったことを思いだした。あれって、認識障害の魔法だったの? ガルデオン様が「やばっ」と言って、ばつが悪そうにそおっと私から離れていく。


「ガル様は、エリック様のことをご存じなのですか?」

「え?……し、知ってるよ。でも、魔術師が『自分で言う』って言っていたから、魔術師から聞いてほしいなぁ。魔術師ってねちっこく嫌味言いそうじゃん? お菓子買ってきてくれなくなったら困るし……」


 ガルデオン様が珍しくぶつぶつ言い訳をしている。確かに、私も自分の身分を偽っている。それを誰かが誰かにばらしたら、嫌な気持ちになる。


「そうですね。エリック様もあとで話すとおっしゃっていたので、帰ってきたら本人から聞くことにしますね」

「うん! それがいいよ! じゃあ、ボクは向こうの大きな部屋にいるね! ローゼも鉄葎の魔力を採りに行くんでしょ? 何か困ったら呼んでね!」


 ガルデオン様がぱたぱたと飛んで行った。


 さあ、私も私に出来ることをしよう。エリック様が返ってくるまでに、蕺草と鉄葎のクロッシェと白来路花のクロッシェを作らなくてはいけない。よし! 私は、自分の頬を叩くと、気合を入れて階段を下りていくことにした。



少し推敲しました。読みやすくなっているといいのですが……。

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