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1.妹のおねだり

「だから、お姉さま。私にその指輪を下さらない?」


 ああ、また始まった。イメルダのおねだりだ。昔から私が持っているものはなんでも欲しがる。イメルダはゆるくウェーブがかかった金色の髪を意味ありげにそっと触った。そして、私に右手をだした。ふわふわの金色の髪はイメルダの自慢だ。胸元を強調するようなフリルのついた淡いピンクのドレスは最近王妃様から次回のお茶会で着てくるようにと私に下さったものだ。公爵家に届けられた日、そのドレスもお母さまに泣きついて私から取り上げた。そうやって、なんでも私から取り上げていく。でも、こればかりは無理だ。


「無理よ、これは皇太子妃候補に貸与されている指輪だもの。この指輪はただの指輪ではないのよ?あげたりもらったりしていいものではないわ」


 私はひとつため息をついた。そして、右手の薬指にはまっている金の鎖と銀の鎖が蔦のように絡まっているだけのシンプルな指輪を右手で撫でた。無理だと言っても、イメルダはひかない。金色の瞳をうるうる潤ませて、かわいらしくもう一度『お願い』のポーズをとった。でも、それでは私からもらえないと悟ったイメルダは、キッと私を睨みつけた。


「わかっているわ。けれど、私がエドワード様の婚約者になるのよ。だからその指輪を渡して頂戴」


「何をいっているの?イメルダ。渡すことは出来ないって言っているじゃない。

私は皇太子妃候補の一人であって、婚約者ではないのよ。

それに、貴女は皇太子妃候補試験を受けていないから、候補にはなれないことくらい知っているのではなくて?

……それから、皇太子殿下のことを名前で呼んでは不敬だからおやめなさい」


 私は何が何でも私から指輪を取り上げようとするイメルダに諭すようにゆっくりと説明した。

 去年行われた皇太子妃候補選抜試験。男爵以上の地位を持つ貴族が我が娘をと推薦状を書き、その数100通以上。それを元老院が両親の派閥、領地経営状態、本人の素行、王立学院での成績、人なり、等々で篩にかけ、実際に一次選考を通過して王城に呼ばれたのは20名だった。運悪く(?)その選考に残ってしまった私にとって、それからが大変だった。マナー講習に始まり、諸外国の歴史・言語等の授業及びテスト、皇后さまを交えたお茶会という名の面接試験・・・等々。王城での選抜試験で始め20名いた皇太子妃候補は5名に絞られ、あとは、皇太子殿下がそれぞれの家を訪問して、皇太子殿下が1名を選ぶという話だったはずだ。そういえば、そろそろ、この公爵家にも皇太子殿下来られる予定だったかも。そんなことをふと思い出した。


 実は、イメルダはお父様が推薦状を書かなかったから審査さえも受けられなかった。推薦状に関して私は何も言わなかった。本当のところ私はこの選抜試験は受けたくなかったけど、もうどうでもよかった。イメルダは王城に憧れていたからイメルダがなればいいのにとはちょっと思っていたけど。でも、お父さまが公爵家として推薦状に書いたのは私の名前。お父さまも我儘でおねだり上手なイメルダのことをわかっていたのだろう。皇太子妃は、人にねだるだけでは務まらない。

 

 イメルダはその庇護欲をそそるような容姿をフル活用して、欲しいものは何でも手に入れてきた。ドレスや宝石はもちろん、私が大事にしているものもすぐに欲しがった。そして、手に入れるためなら平気で嘘もつく。何度、私がイメルダに意地悪をしてきたとみんなに言いふらされてきたことか。私は意地悪なんかしたつもりもないし、自分の大切なものはあげたくないと言っただけだ。それなのに、まわりはそう思わない。私が意地悪をしたとまわりから責められ、詰られ、最終的にお母さまに渡してあげなさいと何度諭されたことか。だから、私は諦めたんだ。イメルダが欲しいと言えば、何でも渡してきた。我儘な妹にしてしまったのは私のせいかもしれない。



「知っているわ。お姉さまがお父さまにわたしのあることないことを言ったから、推薦状さえ書いてくれなかったのよ。だから、私はエドワード様に直接お願いしたのよ。私を皇太子妃にしてくださいって。」


 皇太子殿下に直接お願いした????


 そのありえないイメルダの言葉に、今までの自分の態度を反省していた私は現実に引き戻された。推薦状を書いてもらえなかったのは、まあ、私のせいにしても仕方ないかもしれない。でも、直接お願いなんて、ありえない。私の中の常識が崩れていく。


「イメルダ、何を言っているの?」

「エドワード様がここにいらしたからお願いしたのよ。そうしたら、いいよって言ってくださったのだから。」


 はい?…………皇太子殿下がいいって言った?…………なんじゃそりゃ。


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