追われる駒と追う駒
あまりにも眩しい光に手を光のほうへとかざす
「姉ちゃん?」
「あら、起こしちゃったのね・・・・・・」
研究者の姉 粕屋 見庫はパソコンから弟の粕屋 見通に目を移す
手術台のようなベッドに横たわる弟を恍惚とした表情で見つめる
「これで見通は私の理想になったのねぇ」
「理想?まあ、いいや!姉ちゃんが喜ぶなら嬉しいし!」
「ふふっ」
そんなやりとりは見通にとって唯一の姉とのコミュニケーションだった
実験こそ姉との唯一の交流で兄弟の至上となったのは
粕屋家の両親を見庫が亡き者にした時から始まった。
「ん?起きたか?見通」
「ああ・・・・・・」
「また昔の夢か?」
「あのクソ女を過去の女ってのは嫌だがな!」
そんなやりとりはもう何十回としているためか
もはやルーティンとなっている
悔しいながらもこのルーティンは生き残るためには必要不可欠になっていった
この夢は能力を何故か円滑にする特殊な夢らしく
幽世会の闇医者も驚いていた
「飯だ・・・・・・」
幽世会の幹部の一人だった男、藤堂はコンビニかスーパーかわからない
見慣れぬロゴの弁当を憂鬱ながらも差し出す
「藤堂さん?どうしたんですか?」
「いや、状況が状況でな・・・・・・」
今より二週間前のことだ
部下の橋間 蓮耶の裏切りにより幽世会を追われる身となったのだが
どうやら他の幹部が会長筆頭であった藤堂を蹴落とすために
一丸となっていたらしい
「こんなことになんでなっちまった?俺はなんか悪いことしちまったか?」
「いや~藤堂さんは部下とか仲間に優しいから~」
「いやそれ、俺たちも助かってるからな?」
いつものけだるさ全開で人を小馬鹿にする見通と
ツッコミを全力で入れる灯色に
少し呆れながらも安心する藤堂は疑問を一つ、尋ねる
「おまえらは不安とかねえのか?明日、死ぬかもしれねえから話してみろ」
「いやにリアリティ溢れる不安はやめてくださいよ・・・・・・」
「確かに~」
「はっはっはっ!違いねえな!」
不安を持つだけ無駄だったなと一言付け足し豪快に笑う藤堂に
見通からも疑問を放つ
「まさか藤堂さん、藤金の鴉も動いてたんじゃないの?」
「さすがの千里眼だな」
適当でおちゃらけなのは演技かと思わんばかりの真剣さで的中させる
「まじか?!藤金の鴉って幽世会と現世会が奪い合うクラスのやつじゃないっすか!」
「ああ、見通より使い勝手がいいと自慢を受けるぐらいだ」
藤金 島侍
幽世会の四人の最高幹部が一人で金の流れを担当しながら
新しい金源を探す
幽世会の裏のボスとも呼ばれるが最高幹部の中では一番下
それはあまりに卑怯で幽世会の会長が一番嫌っているから
そんな藤金だが
「鴉」と呼ばれる最強の使い駒を持つ
鴉は元々、孤児院で拾われた少女で
当初は何も出来ないながらに必死だった
そしてなによりも無能
サクリファイスという体にある紋様では類も見ないぐらいに
強力なものだったが
失うことにすさまじい恐怖があった
それではサクリファイスがいくら強力でも
能力は得られない
なぜならサクリファイスを唯一使える彼ら
「オルタナティブチルドレン」は
なにかを失わなければ能力が出ない
しかも物と認識したものでなければならない
この世界は人や家族なら喜んで差し出すだろう
なぜならこの世界では親の大半は子供に対して虐待をするか
売り渡すかのどちらかで
金がなければなおさらそれが行われる
子が親を恨むシステムが確実に形成され
それが常識で悲しい現実
もとはそんな付けいる隙はなかったぐらい平和な世界
親は子を大切にし、大半が溺れるぐらいに愛していた
しかし、虐待死が続いたことにより
たかが外れ親の暴走が伝染した
そんな中でも大切にする親は居たが
やがてある災害によりそれは絶滅の一途を辿る。
「鴉たん?どうしたの?」
若いような顔立ちで白髪交じりのおじさんが
少女に対して愛称で呼び、疑問をぶつける
「島侍おじさま、なにか噂をされています」
棒読みで寒気を訴えている鴉は
これがいつものらしく島侍と呼ばれるおじさんは
「笑っていたほうが鴉たんはかわいいよ?」
その言葉に鴉は両頬を指でニッと持ち上げ見せる
無口か棒読みが常な鴉にしては要望に応えている
「そんな不安かい?見通だったかな?あの千里眼・・・・・・」
携帯をいじり情報を漁る
島侍と呼ばれたおじさんが開いたアプリは
裏の仕事での仲介を楽にする
ディープなアプリ
「いた、千里眼で過去も未来も見通すため注意が必要?」
これは面白いとほくそえむ島侍の裾を引っ張り鴉が一言
「気持ち悪い・・・・・・」
「え?そんな・・・・・・鴉たん?うそだよね?」
オロオロしながら鴉にダメ元の確認を取るが
「そんな島侍おじさまは嫌いです・・・・・・」
「オーマイガっ」
鴉は不思議そうな顔で首をかしげる
ごまかしを入れても効かない鴉に
「ふっふっふ!必殺のチョコレートだ!」
板チョコを目の前に目が輝く鴉
「仕方ないですね・・・・・・」
板チョコを受け取り、コホンっとして
「島侍おじさまぁ~だーいしゅき!」
「うひょー!鴉たんは最高に可愛いよ!」