始まりは流れに任せて
理不尽はきっと、最初は無垢な子供なんだろう
なぜなら世界が理不尽ではなく人が理不尽なのだから・・・・・・
ビル群が並ぶ都会の街
行き交う大量の人と空気
影にうごめく害獣と呼ばれる生物たち
いろんなものがバランスを保ちながら存在している。
ある例外を除いたバランスの中で
存在は協調を繰り返し例外を疎外する
そして例外の一人である特殊なニート
粕屋 見通
彼は言い訳でニートをしている訳ではなく
確実に働けない
それは彼の体に刻まれた実験痕「サクリファイス」
実験の大義名分は
「完璧な社会の実現」
だが実際、現実は研究者の名誉や富のため行われ
研究成果は一つ
しかし実験施設やプロジェクトの委員会はとうに凍結され
残されたのは実験痕のある子供達
「オルタナティブチルドレン(OC)」
そんな「サクリファイス」を宿す子供達は少し特異だった
自身の何かを犠牲に能力を得られる
何かとは端的に所有物であり認識上で物と自身が認識した物
何故、働けないのか、理由としては一つ
それは「サクリファイス」を刻むための対価
刻む代わりに内蔵を最低でも四つ以上損傷し通常の人と比べると
働ける時間は限られ、もし仕事についたとしても差別を受けたり疎まれたりする
しかも厄介なのは実験が秘密裏に行われたこと
他者からみれば「学生気分」「持病のふりをしている」
などの偏見は免れない。
生きるためには金が必要だ
そんなOC達のためにある
裏仕事の職安「シークワークス」
見通はそんな裏の職安で若き注目株となっていた
彼の能力によるところが多いその注目は
裏の社会で一番、必要な要素を含む能力
「千里眼」(せんりがん)
あらゆる物を見通し観察を瞬時に完結する
それがなぜ必要なのか
裏の組織にとって一番に警戒すべきは部下の裏切り
そして隠された武器、言わば暗器
見通は護衛に居るだけで敵が何かを見破り相手のすべてを瞬時に理解する
ある一角にある反社会組織の事務所で二人の少年がソファに座る老けた男性の後ろに構えていた
「あー、腹減ったー」
空気を壊す様に棒読みで吐き出す本音は冗談にしか聞こえない
「おまえって感情があるのか?それともわざとギャグでやっているのか?」
そんなツッコミを入れたのは事務所の警備を請け負う見通の先輩
灯色 美哉
能力は身体の強化
見通とは何回か組んだことがあり気が知れている
「若くて結構だがな、仕事中に私情のぼやきを入れるとは余裕じゃねえか?あぁ?」
少し呆れ気味に顔を手で半分隠しながらため息を吐く依頼主
藤堂 浪吉
幽世会の幹部で頭が切れる人情派
今回の依頼は尋問の警備だ
「だって藤堂さんの言った裏切りもの候補ナンバーワン来ないじゃないですか~」
先ほどの一言とは裏腹にいじるように依頼主に問う
「しかたねえだろ?いつも遅刻しやがるんだよ、あいつ・・・・・・」
お腹のあたりをさすりながら痛そうな顔をする
胃がキリキリ痛むらしく胃薬をポケットからだし水なしで飲み込む
「はははっ!こんな厳ついのに胃が弱いって!」
「灯色、てめえ笑ってんじゃねえよ・・・・・・」
そんな家族のような会話が許されるのは藤堂以外にいないだろう
そんな気さくなタイプの人情派はそれ故に背負う物が多い
そんなやりとりの中でいきなり見通はさらっと重要なことを言う
「もしかしてその部下って線の細い男性すか?結構、お仲間さんいるんっすね~」
「ん?どういう意味?」
見通と灯色の会話に冷や汗が滲み出たのは藤堂だけだった
「てめえ!それ完全にやばえじゃねえか!」
血相を変えて立ち上がる藤堂は続けて
「あいつはいつも一人だぞ!」
その言葉の真意を灯色は理解し臨戦態勢のモーションのなか事務所の扉がいきなり吹っ飛ぶ
吹っ飛び終えると短銃を両手に持った数人が訓練さながらの行動で
多数なだれ込んでくる
「藤堂さ~ん?死んじゃいました~?ふふふっ」
ふざけながら指揮を執るのは依頼主の警戒対象
橋間 蓮耶
いつも物腰が柔らかく典型的な舎弟の彼はいつもとはかけ離れている
そんな態度にさすがの藤堂も気がつく
「こいつらは狩人部隊だな・・・・・・」
「そうですよ?藤堂さんはもう幽世会の討伐対象で~す」
どういう意味か?と見通と灯色は藤堂を見る
「すまねえな・・・・・・どうやら俺のせいでお前らは組織から追われる・・・・・・」
目線を横に避けつつ悔しそうに謝罪を述べる藤堂
そんな藤堂に二人は鼻で笑う
「弱気じゃないっすか?藤堂さん?」
「今更でしょ?藤堂さんは悪くないですよ」
目を見開く藤堂は次第に笑う
「なら組織を乗っ取っちまうか?見通!灯色!」
そんな冗談に勢いよく
「引き受けた!」
そんな余裕に少し勘に触ったのか蓮耶は
「てめーら!やっちまえ!」
狩人部隊は無口ながら連携的に突進してくる
「美哉!右から来る」
冗談を言っていた時とは違い真剣な面持ちで指示を出す
「左のこいつはおとりか!」
足と腕を強化し瞬時に右から構えた一人にお腹への打撃を浴びせ気絶させる
訓練通りに行かず作戦を変えたのか
残りの四人は二人を後衛に回し残りが突っ込んでくる
「次!右がおとりで後ろの二人が右の後ろを狙ってる!」
「じゃあ、左だな!」
発言するというデメリットを完全埋めていく灯色は
左に飛び今度は顔面を殴り吹っ飛ばす
目を見開き少し固まる残り三人
そんな刹那の驚きの隙に前衛の一人、後衛の右、後衛の左とジグザグに打撃を
浴びせながら倒した
「くそっ!狩人部隊をこうもあっさりだと!」
悪態をつきながら後ずさりをする蓮耶
じりじり寄る見通と灯色にとうとうへたり込む
「俺になにかあったらどっどうなるか!わかってんだろうな!」
「ああ、痛いほどにな!」
藤堂は遠慮無く足に弾丸を放つと
蓮耶は気を失う
それは弾丸の表面に麻酔を塗った麻酔弾と呼ばれる幽世会が作った裏武器だった
「こいつは起きたら尋問する、ソファの中から拘束具を出して縛ってくれ」
「はいはーい」
見通はソファの座る部分を持ち上げソファの中から拘束具を取り出し
手慣れた様子で拘束する
「これからだが・・・・・・不幸中の幸いを利用する」
「橋間蓮耶の噂ですか?」
「ああ、こいつは元から気味の悪いやつだからな」
拘束された蓮耶を見下ろしながらつぶやき、こう続ける
「現世会の会長候補らしいからな・・・・・・」