題『張り込み』
電柱に隠れているという体のボケ。片手にあんぱん、もう片方の手に牛乳を持ち、あんぱんをがっつきながら、電柱の影から遠くを見張る演技。
その間に、ボケのナレーションが入る。
ボケのナレーション「俺は刑事だ。先日、ようやく突き止めたホシの家に、今日も今日とて張り込んでいる。俺ほどのベテランともなれば、張り込みなんぞは一日中でも苦にはならない。とはいえ、昔から言うように『腹が減っては戦は出来ぬ』。そんなとき、頼りになる相棒がこの、『あんぱん』と『牛乳』だ。こいつらさえあれば、俺は一週間でも一か月でも張り込みを続けられる……」
そこへ、ツッコミが息を切らせてボケのところまで走り寄ってゆく。
ツッコミ「遅くなりました先輩! どうです? ホシに何か動きはありましたか?」
ボケ「(口の中をあんぱんでいっぱいにし、以後ずっとわざと聞き取れないようにして)いや、まだ何も動きは無い」
ツッコミ「……は?」
ボケ「だから、まだ何の動きも無い」
ツッコミ「あの……すみません、先輩。ちょっと何言ってるのか聞き取れないんですが……」
ツッコミの問いに対して振り返り、怒鳴りつける感じで。
ボケ「だからまだ何にも動きは無いっつてんだろがっ!!」
と、怒鳴った瞬間、ツッコミは軽く身を伏せて口に指を当て、シーッ! と静かにするよう促す。
それへ合わせ、ボケも口に指を当ててシーッ! と同じ動きをする。
しばらくしたら、またボケは遠くを見張る姿勢に戻り、改めてあんぱんをがっつき始める。
その様子を伺いつつ、少し遅めのタイミングでツッコミもボケの後ろから遠くを見遣る。
ツッコミ「……それにしても、もう張り込み始めて三日になりますけど、ホシのやつ、ほんとにシッポを出しますかね?」
ボケ「ああ、こうして張り込みを続けていれば、いつか必ずヤツはシッポを出す。今からしっかり気を引き締めておけよ?」
答えつつ、目線はそのままでボケがツッコミの肩をバンバンと叩く。
ツッコミ「いや、ですから先輩、さっきから何言ってんだかサッパリ聞き取れないんですけど……てか、何! 何で俺の肩、叩いてくるんすかっ!?」
ボケ「しっかり気を引き締めておけよ!」
ツッコミ「だから何言ってんだか分かんないんですって! あと肩、肩イタイですからっっ!!」
ボケ「いいか! ここが正念場だ!!」
ツッコミ「だからもうさっきから何言ってんだか分かんねえっつってんだよ! いい加減、その口ん中のもん、出すのか飲み込むのか、はっきりしろよハゲッッ!!」
そうツッコミが言った瞬間、ボケが軽く身を伏せて口に指を当て、シーッ! と静かにするよう促す。
と、今度はツッコミが同じく、口に指を当ててシーッ! と同じ動きをする。
それから少し間を空けて二人は真っ直ぐ立ち上がり、ボケが今までとは違い、はっきりとした口調でツッコミに言う。
ボケ「お前なあ、誰がハゲてるだって?」
ツッコミ「おい、普通にしゃべれてんじゃん! なあっ!? 普通にしゃべれてんじゃんさあっ!!」
ボケ「ほら、見てみろ。どっこもハゲてないだろ。ほら、見てみろほら」
言いながら、ボケはツッコミに向かって頭を突き出し、両手で髪を掻き分けてみせる。
ツッコミ「なあ、なんでちゃんとしゃべんなかったの!? 今までなんでちゃんとしゃべんなかったのっ!? さっきからずーっとバッカみてえにあんぱんばっか食ってやがってっ! なんでちゃんとしゃべれんのにしゃべんなかったんだよお前、なあっっ!!」
言われてから、ボケは体勢を戻して真っ直ぐ立ち、あんぱんを頬張ると、なんとか聞き取れるような感じのしゃべり方で返す。
ボケ「……若さゆえ、かな?」
ツッコミ「って、何言ってんだか分かんねえよ! 今度は聞き取れねえって意味じゃなくて言ってる意味がわかんねえって意味で何言ってんだか分かんねえよっ! なあ、お前バカかよホントッ、ホントバカかよお前なあ、ホントッッ!!」
そうツッコミが叫ぶと同時、ボケは軽く身を伏せて口に指を当て、シーッ! と静かにするよう促す。
と、ツッコミもまた同じく、口に指を当ててシーッ! と同じ動きをしてコント終了。