元勇者、王冠泥棒退治を依頼される
ロメリアの城下町についた。実に数か月ぶりだ。アジアハンと比べ小国ではあるが、活気のある街並みを見ると王様の統治が上手くいっているように感じられる。
雑踏を縫うように颯爽と城に向かうメリエちゃんとオレ。田舎とはいえ一国の王女が来訪したのだから街の入り口に馬車が用意されていたのだが、兵士の時間を奪うわけにはいかないとメリエちゃんが丁重に辞退した。本当に、良くできた娘さんである。
やがて城門まで来ると詰所でメリエちゃんが再度身分を明かし、王宮まで案内されることとなった。そして以前ここを訪れたことのある元勇者オレに対して、誰も反応を示さなかったのは何でだろうね……。
「おぉ、メリエ王女。そなたは見る度に美しくなるのぉ……うん?」
玉座においてメリエちゃんに挨拶した後、オレに視線を向けるロメリア王。さすがにこの人は覚えてくれてるよな。いやー良かった良かった。
「そのお付きの者は初めて見るのぅ」
「って、覚えてないのかよ!?」
やべっ、思わず口に出しちまった! いくら向こうに非があれど、王にこんな口きいたら一発不敬罪だぞ。そんな風に思っていたのだが……。
「ほっほっほ、冗談じゃよ。久しいのぅ、勇者アレン」
「……ご無沙汰しております。ロメリア王」
そうだった。ロメリア王は人が良さそうでいて冗談好きだったのすっかり忘れていた。
覚えられてことは素直に嬉しいが、その冗談は心臓に悪いからやめて欲しい……。それに今は勇者でも何でもないので、若干うしろめたさを感じなくもない。
「ロメリア王。父より書簡を預かっております。これを」
「うむ」
メリエちゃんから差し出された書簡を受け取り、その中身に目を通していくロメリア王。やがて読み終わったのか顔を上げ、再びオレに視線を向けこう言い放った。
「お主、勇者をクビになったのか」
「ぐはっ!」
……効いたぜ、今のはよぉ。タネパワーですこぶる強化されてから痛みなんて感じることはなかったが、精神的なダメージは軽減できなかったようだ。
「ロメリア王よ、違うのです。父は勘違いしていますが、アレンさんは勇者として充分な強さと勇気を兼ね備えた人物です! 私は帰国次第、父に撤回するよう求めようと思います!」
メリエちゃんがすかさずフォローに回ってくれるが、あのハゲ(アジアハン王)は絶対撤回しないと思うんだよなぁ。それに親子関係もギクシャクしてるっていうし、これ以上関係を悪化させないためにも何とか考え直してくれないものか……。
「確かにあやつは少々気が短いところがある。それに、人間老いてくるとどうしても視野が狭くなりがちじゃ。実際のところ、どうなのじゃ?」
問いかけてくるロメリア王に、さて何と答えよう? まあタネパワーで強化されているし、
「まぁ以前よりは、かなり強くなったと思いますよ」
と、そんな当たり障りのない答えにとどめた。
「ふむ、なるほどのぅ……」
オレの答えを聞くと、顎髭に手を当てて何やら考えるように黙り込んだ。ややあって、
「あいわかった。では、そなたに少し頼みたいことがある。実は少し前に王宮に盗賊が忍び込み、わしの王冠を盗んで行きおったのだ」
言われてみればロメリア王の頭の上には、本来あるべきはずの王冠が載っていなかった。
「そこで、そなたにそれを取り戻してもらいたい。賊どもはここから北西にある古塔をねぐらにしているようじゃ。討伐隊を何度か派遣しておるが、賊の頭領は剛の者らしく城の兵士では歯が立たんのじゃ」
いくら小国とはいえ、戦闘訓練を積んだ兵士たちで歯が立たないとは、ただの盗賊じゃなさそうだな。いくらタネパワーで強くなったとはいえ、何の見返りもなく承諾するわけには……。
「もし無事に取り戻せたのなら、そなたを我が国の勇者として認めよう。勇者の名を取り戻せば、そなたは再び羨望の眼差しを向けられることになる。悪い話ではないと思うが?」
「ぜひ! ぜひともやらせて下さい!」
ここで成功を収めたら、またかつての輝かしい日々が戻ってくるんだ! それに何よりリンカちゃんとメリエちゃんに恥をかかせることもなくなる。
「ロメリア王、しかし……」
「まあ落ち着きなされ、メリエ王女。何もアジアハンから引き抜こうと考えているわけではない。ただ、あの頑固なアジアハン王を説得するのであれば、何かしら箔があった方がよかろう」
戸惑うメリエちゃんに優しくそう言い聞かせ、柔らかく笑うロメリア王。なんて人間ができた王様なんだ。どっかのハゲに爪の垢を煎じて飲ましてやりたい。
もちろんオレの答えは決まっていた。
「必ず王冠を取り戻してきます! それで、賊どもはどんな身なりをしているのでしょうか?」
「それなんじゃがのぅ。顔に覆面をつけており、手には大斧を持っておったそうじゃ。下はかろうじて薄布で隠しておったが、一言で表すなら……筋肉モリモリ、マッチョマンの変態じゃ」