元勇者、因縁の地に降り立つ
就活をするのでしばらく間が空きますと書いておいてなんですが、まだ就職が決まっておりません……。今は時期が悪いよー時期が。
ドラクエのダーマ神殿みたいに、さくっと転職できませんかね!?
洞窟の最深部から旅の泉に飛び込んだオレ達。
そして遂にロメリアがある北の大陸に降り立った。
「ついにこの日が来たか……待っていたぜ、この瞬間をよぉ……」
待ってろよあのくされリビングアーマーめ。いつぞやの恨みきっちり晴らしてやる……。
「あの、アレンさん……?」
「何かな、メリエちゃん?」
「どうしてアタシの後ろに隠れているのかしら?」
「すいません、調子乗りました……」
ボコボコにされた傷は、思ったより深かったよ……。今もたまに夢に見る、あの無機質な鎧に痛めつけられる恐怖。
「うぅ……ひっぐ……メリエちゃぁん……」
「あぁ、はいはい。怖かったですねー。おーよしよし」
勝手にぐずりだしたオレを、優しくなだめてくれるメリエちゃん。あぁ、何かとてつもなく癒やされる。これが『バブみを感じてオギャる』ということか。
最初にこの言葉を聞いた時は字面の気持ち悪さに思わず震え上がったけど、実際に体験してみるとおギャリたくなる気持ちも分かる。でも、やっぱり字面はどうにかして欲しい。
「アレンさんも色々あると思うけど、とりあえずロメリアの街まで向かう感じでいいかしら?」
「うん、オレはそれで大丈夫。元々、ロメリアまでメリエちゃんを護衛することがオレの仕事だしね」
という訳でさっそくロメリアの街へと向かうことに。幸いここからはさほど遠くないので、厄介なモンスターに絡まれることもないだろう。
そう思っていた時期が、オレにもありました……。
ロメリアに向かっていざ走り出そうとした時、オレの無駄に良くなった聴覚がある音を捉えた。
ギチギチ、ギチギチという金属が擦れる独特の音。記憶に深く刻まれた不協和音。まるでオレを待っていたかのように、タイミングよくそいつ――リビングアーマーが現れたのだ。
「リビングアーマー!? よりにもよってなんて時に……」
直ぐさま腰に下げていた剣を構え、戦闘態勢をとるメリエちゃん。しかし、オレの方はと言うと――。
「あわわわわ……」
情けなくも足がすくんで、全く動くことができなかった。くそっ、言うこときけよ! メリエちゃんが強いと言っても、リビングアーマーはさすがに相手が悪い。それに……。
「キュイキュイキュイ」
今回は大型の虫モンスターまで連れて来ている。そんなにオレをボコりたかったのかコイツら……ってそんなことより!
「メリエちゃん、とりあえずオレをおいて逃げて! 大丈夫、体も丈夫になったからそう簡単には死なないと思うし」
とりあえずここは逃げてもらおう。しばらくオレは痛めつけられると思うけど、種パワーでかなり頑丈になってるはずだ。しばらくボコれば敵さんも飽きるだろう。そう思ったのだが
「ダメです! あの虫型モンスターは確か毒を持っていたはず。いくらアレンさんが強くても、毒をもらったな……」
そういえばオレの耐性面ってどうなっているんだろうか? でもさすがにタネ食っただけじゃ耐性なんてあがらないか……となると、結構ピンチかもしれない。
「くっ!」
そんなことを考えている間にもメリエちゃんが劣勢になってしまう。持ち前の身のこなしの軽さでなんとか凌いではいるが、2体相手にそう長くもつとは思えない。
「くっそ……動け……動けよぉ!」
ここで動かなくて何が勇者か! こんなどうしようもないオレでも、たとえ『元』でも、リンカちゃんとメリエちゃんだけが勇者って認めてくれたんだ!
何よりもこの二人の為に動けないでどうする。いくら『元』でもなぁ……意地ってもんがあるんだよぉ!
「うらああああぁぁぁぁーーーーー!」
ヤケクソと言わんばかりに足の代わりに突き出した手から、熱閃が迸った。それは瞬く間にメリエちゃんに襲い掛かろうとしていた魔物を貫き、一瞬で無に還した。
「あ……魔法……」
そこでオレはようやく自分が魔法を使えたことを思い出した。いや、使えたというにはあまりにもお粗末な威力だったので記憶から抹消していたのだが、タネ効果のおかげでその威力が絶大に増していたのだ。これで足が動かなくても敵を倒せるぞ、やったね!
と、そんなことよりも。
「メリエちゃん、ケガはない!?」
「……あっ!」
魔物たちが消失した痕跡を茫然と眺めていたメリエちゃんだったが、オレの言葉に弾かれたように反応する。そして――
「やっぱりアナタこそまことの勇者よ、アレンさん! ロメリアから戻ったらアタシと一緒に父に会いに行きましょう! 心配はいりません、アタシが絶対に説得してみせます!」
興奮気味に詰め寄ってきた。まあ、あの魔法の威力をみれば興奮する気持ちも分かるんだけど……。
「ありがとう、メリエちゃん。でも、いいや」
「何でですか!? こんなにも凄まじい力を持っているのに、認められないなんてあまりに……」
「オレが強くなったのってタネのおかげだしさ。努力もしてないのに勇者なんて認められたら、他の冒険者にやっぱ悪いよ。それに……」
「それに?」
「世界は親父のおかげで今はそれなりに平和だ。もしかしたら今の世の中には勇者なんて必要ないのかもしれない。あと、リンカちゃんとメリエちゃんはオレのことを認めてくれるから、それで十分だよ」
そうなのだ。母親にすら呆れられているオレを認めてくれる可愛い女の子が二人もいる。こんなにも幸せなことがあるだろうか?
「はぁ……アレンさんがそういうならわかりました。でも、もし世界にまた危機が訪れる……そんな時が来たら、その時は誰よりも頼りにさせて下さいね?」
「それはもちろん。お姫様を守るのが『元』勇者であるオレの使命だからね」
冗談めかして答えると、メリエちゃんは今までとは少し違うとても柔らかい笑みを浮かべた。
これで良いのだ。どうせ個人に守れる人の数なんて限られている。例え魔王が復活しようと大魔王が現れようとも、オレはオレを認めてくれた人のために戦う。それだけだろう。