元勇者、人間を辞める
「うおおおぉぉぉぉーーーーっ!!」
考えるのが面倒になったから走った。
とにかく走った。
風になった。
自分が今どのくらい速く動けるか知りたかったからだ。
途中何体か魔物とぶつかった気がするが、あまりにも速すぎるため何とぶつかったかのすら分からなかった。
そして検証の結果、このアジアハン大陸の端から端までおよそ3分ほどで走れることが判明した。
しかも、驚くべきはそれだけではなかった。
「全然疲れねーな」
大陸を横断しているのだから恐ろしい距離を走っているはずなのに全然疲れない。
これはもしや、素早さだけでなく体力すらついてしまったといのだろうか?
「これは他にも何かあるかもしれん」
素早さと体力と、他には何があるだろうか?
えーっと、まずは力か。
「てい」
試しにそこらへんに生えている木を蹴ってみた。すると、
メメキィ……といういかにも折れそうな音が……しなかった。しなかったんだけど、
「うそーん……」
折れるどころか木は根元からごっそりもっていかれ、さらには蹴った勢いで海の彼方まで飛んで行ってしまった。しかもものすごい力で蹴ったはずなのに、
「全然痛くない」
足の方はというとピンピンしていた。いやいやいや、おかしいだろ。
面倒くさくなって考えるのやめてたけど考えるわ! どうしてこうなった!?
「もしや……」
一つ思い当たるものがある。それは昨日リンカちゃんにもらったあのタネだ。
そういえば世の中には食ったら身体能力をあげる効果があるというとても貴重なタネがあるが……ってあれ? こんなこと知らないはずなのにどうして……って、もしや賢さすら上がっているのか!?
「これは早急に確かめねばならん」
オレはダッシュで大陸の端からアジアハンの城下町へと向かう。
速過ぎて狙ったところに止まるのも困難なので、ルイーズの酒場を視界に捉えるとグッと足を踏み込んでブレーキをかける。そうすると地面が激しい音を立てて抉れた。威力あり過ぎだろとかツッコみたいけど、もはやそれも些末な問題だ。
「リンカちゃん!」
酒場の扉を勢いよく開ける。すると扉はこなごなに砕け散ってしまった!
「ア、アレンさん!? 困りますよ扉を壊しちゃ……」
「あぁごめん! 後で修理するから。それより昨日のタネについて聞きたんだけど……」
「昨日……あ、お守りのタネのことですか?」
「うん、あれってどこで手に入れたの?」
「あれですか? ごめんなさい、わたしも詳しい仕入先は知らないんですよね。たまにお父さんからまとめて送ってくるんですが」
「マスターから?」
「はい、それで『冒険者の助けになるから、一人につき五粒与えるように』って」
リンカちゃんのお父さんであるこの店のマスターは冒険家で、世界中を旅している。
オレも昔は世話になって、その人が送ってくるものだから安心は出来るんだけど……
「オレ、全部食っちゃったよ?」
「えっと、アレンさんなら勇者様だし大丈夫かなって。それに、どうしてもアレンさんを元気付けたかったんです! その……あまりに落ち込んでいたから」
……そっか、心配かけちゃったんだな。
くっそ、こんなの勇者失格じゃねぇか! 無職だけど。
「それで、タネがどうかしましたか?」
「あぁいや、何でもないんだ、うん」
ここで余計な心配をかけるわけにはいかない。
それに、この力はあって困るもんでもないしな。……まあ若干人間離れしてるが。
「いけねっ、スライム狩ってくるの忘れてたわ。ついでに壊した扉も作ってくる!」
「アレンさん、無理はしないで下さいね!」
「へーきへーき」
なんたってとてつもない力を手に入れたのだ。今ならマジで何でも出来る気がする。
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なまえ:アレン
しょくぎょう:無職(元勇者)
HP:999
MP:999
ちから:255
すばやさ:255
たいりょく:255
かしこさ:255
うんのよさ:255
こっから何やらそうか悩む……。