現姫君、運の悪さが露呈する
さてさて、中に入ってオレたちを迎えたのは黄金色に輝く立派な銅像だった。この時点で既に金のニオイに満ち溢れているが、驚くべきことはそれだけではなかった。
「ど、どいてくださいー!」
上から声がしたかと思うと、頭上から若いおねーちゃんが……あ、パンツ白だ。動体視力も上がってるみたいで役得役得。
「よっと」
しっかり足を曲げて落ちてきた女の子を受け止めるも、膝に予想していたような衝撃はこなかった。
「大丈夫ですか、お嬢さん?」
そう言ってキメ顔で……いや、元が良くないとキメても意味ないのだが、とりあえずよそ行きの台詞で対応する。
「あ、有難うございます……」
おっかなびっくりといった感じでオレの手から離れていく女の子。あぁ……柔らかかったなぁ。
「おほん!」
「はっ!」
背後からの咳払いで我に返る。みればメリエちゃんの冷たい視線が……うぅ、ごめんなさい。男としては仕方ないんです。女の子がいたら格好つけてしまう生き物なんです。
「あのー……」
おっと、落ちてきた女の子を放置するわけにはいかない。これは仕方なく、話しかけられたから仕方なく対応するだけだから!
「な、何でしょうか……」
先ほどとは打って変わって声がどもってしまう。どうやらキメ顔モードは三分ももたないようだ。
「楽しい場所と聞いてきたので挑戦してみたのですが、わたしには難しすぎたみたいです。助けて頂いたお礼と言っては何ですが、これをどうぞ」
そう言うと女の子は束になったお札のようなものを差し出してきた。
「これは?」
「ご存じないのですか? これはすごろく券といって、ここで遊ぶのに必要なものです」
「へぇー。こんなに貰っても良いんですか?」
「はい、わたしではクリアできそうにありませんから。では」
そう言って女の子は去っていった。てっきり現金を消費して遊ぶものだと思っていたが、すごろく券も入手できたし結果オーライということで。
「やったねメリエちゃん。これでいっぱい遊べるよ!」
「そ、そうですね。すいません、何か嫉妬みたいになっちゃって」
「いやいや、オレもちょっとデレデレし過ぎてたしね」
おや、というか嫉妬ってメリエちゃん少しはオレのこと気にかけてくれてるのかな? まぁそんなことないか。一国のお姫様だしね。あぶないあぶない、勘違いしてしまうところだった。
そして二階に移動すると、広大なフロアに見事な人間用のすごろく盤が敷かれていた。
「おぉ、すげぇ!」
その光景はまさに壮観の一言で、遠くに見えるゴールの先には宝箱が二つ置かれている。
「アレンさん、早く、早くやりましょう!」
メリエちゃんは目をキラキラさせながら、今にも駆けだしそうだ。いつもは割とサッパリした性格だけど、こうしてみると年相応って感じがしてとても可愛い。
「よし、挑戦しておいでメリエちゃん! はい、すごろく券」
さっきもらったすごろく券の束をそのままメリエちゃんに渡す。
「えっ、でもアレンさんは……」
「オレはすごろく券が余ったらでいいよ。好きなだけ遊んでおいで」
「……有難うございます!」
そしてメリエちゃんの挑戦がスタートする!
………………
…………
……
結果はというと、うん……メリエちゃんは運があまり良くないということが分かった。
初回は宝箱を積極的に取りに行った結果落とし穴に引っかかり、さっき下の階で女の子が落ちてきた場所に落下したらしい。2回目は電撃トラップに引っかかって痺れてしまい失格。3回目はガストラップに引っかかり眠ってしまい失格。4回目はゴールマスにぴったりと止まれず。サイコロが足りなくなり失格。
まあそんな感じで、みるみる内にすごろく券が少なくなってきた。そして残り僅かというところで、サイコロ数をかなり残したままゴール付近までたどり着いた。
「残り4マス……お願い、4よ。4が出て、お願い!」
初めて見るメリエちゃんの真剣な表情に、彼女にはあんまりギャンブル的なものはやらせない方がいいかもなぁとか思ったり。でも王族だもん、ストレスたまるよね。たまには発散しないと。
「ていっ!」
かくして出た目は……
「……2……」
あぁ、無常。2マス先はなんと落とし穴。
「うぅ……」
心なしかメリエちゃんが泣いているように見える。泣かないで、お兄さん心が痛くなっちゃうよ。仕方ない、オレにできることをするとしよう。
下のフロアに降りると、落とし穴の真下に位置取る。そしてガコンという音とともに上から落ちてきたメリエちゃんをお姫様キャッチ。さっきよりもさらにキメ顔をつくり、精一杯のイケメン風ボイスでこう囁く。
「大丈夫ですか、お姫様?」
「うぅ……ア゛レ゛ン゛さ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ーーん゛」
「おぉ、よしよし。よく頑張ったね。大丈夫、仇はオレが討ってみせるから」
メリエちゃんをあやしながら2回に戻り、最後の1枚であるすごろく券を受付に渡す。
「アレンさん……」
「大丈夫、オレ(とタネ)を信じて」
「はい……」
かくして元勇者の挑戦が始まる!
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