訪問
――――約半年後――――
あかりはまだ収容所に居た。あれから半年間、毎日の様に実験台にされ体中が傷だらけになっており、体もほぼ骨と皮しかないような状態になっていた。また、髪の毛もボサボサでストレスにより抜け落ち、所々が禿げている。
精神はすでに崩壊しており、牢屋に居る間はずっとベッドの下に隠れて、目を見開き、一点を見つめている。もう人間としては生きていなかった。
――――能力者対策本部:寮――――
藤田は自分の部屋で唖然としていた。
その理由は、仕事が終わり、精神的にも肉体的にもクタクタの状態で寮に戻ると、部屋にフードを被りロングコートの様な服を来た人が居たからだ。
藤田は部屋を間違えたかと思い、部屋を出て部屋番号を見ても間違いはない。幽霊かと思い、目を擦りもう1度扉を開き、部屋を覗いても人がいるのは変わらなかった。藤田の様子を見ていたフード男は口を開く。
「さっきから何してるんですか?」
藤田はその声に肩をビクンと揺らし「えっ!?」と反応し、固まる。そして、勇気を振り絞って言葉を返す。
「あの……誰ですか?」
言葉を返されたフードの男は急に焦り出し、両手を体の前で左右に振りながら答える。
「あ、別に怪しい者じゃないですよ! 別に乱暴とか一切危害は加えないから安心して下さい!」
しかし、そんな言葉を信用出来るはずもなく、疑う。
「えっ? でも、不法侵入ですよね? しかも、女性の部屋に……泥棒ですか!?」
藤田がそう言うと再び手を左右に振りながら慌てて答える。
「いやいや! だから、別に変な事する気は無いですから、俺は藤田さんに話があるんです!」
「なんで、名前を!?」
藤田は明らかにおかしいと思い、玄関横にある台所にあった包丁を取り、構えて警告する。
「動かないで!! 動いたら殺す!!」
すると、男は両手を広げて余裕のある態度をとる。
「いや、俺を殺すならブラックホールにでも放り込まないと無理ですよ。試しに包丁で刺してみますか?」
藤田は少し戸惑いながらも思い切り突進しフードの男に包丁を突き刺そうとした。
しかし、包丁は折れてしまった。藤田は服の内側に何か仕込んでると思い、手袋を咄嗟に外し、服に触れるが何も見る事が出来なかった。
「なんで!? なんで過去が見えないの!?」
藤田が焦っていると、男は「ハァ……」とため息をついて説明を始める。
「今、服の下になんか仕込んでるとか思いましたよね。特に何も仕込んでないですよ。 あと、今の藤田さんだと何をやっても俺の過去を見ることは出来ません。そして、傷一つ付ける事も出来ません。だから、話を聞いてください」
藤田は警戒しつつ距離を取り、冷静になる。
「な……何者なんですか? 話ってなんですか?」
男は藤田が聞く耳を持ったと気付くと藤田にこう問いかけた。
「俺の事はあとでいい。藤田さんって今の自分の立場に満足してますか? 毎日収容所に戻されるんじゃないかとか、あの澤口ってやつに怯えながら生活してませんか?」
藤田は警戒しながらもこう答えた。
「……満足はしてません。確かに毎日怖いです。澤口さんに限らず警官も収容所の看守も全て。でも、どうしようも無いんです! 体にGPSが埋め込めれてますし、もし、逃げたのがバレたりしたら収容所に戻されて、実験台に……」
藤田は質問に答えると、半年前に収容所で出会った透明化の能力者のマルタの事を思い出した。彼女はまだ生きているのだろうか、自分の事を恨んでないか。藤田は助けてあげたいと思いながらも何もしてあげられなかったからだ。
藤田が俯いていると男が喋り出した。
「GPSなら痛み無く取り出せますよ。あと、今藤田さんが思い出した収容所の人、まだ生きてますし、その人と組んでここを脱出してもらおうと思ってるんです」
男の突拍子もない言葉に驚く。
「は? 脱出してもらうってどうやってですか?」
「まあ、明日の深夜、収容所のあの女の人の所に来てください。そしたら分かります。ここで、怯えながら一生暮らしていくか、俺について来るか自分で決めて下さい。あと、収容所に入るのに許可とか要らないですし、看守も気にせず収容所入ってきて大丈夫なんで! では!」
「えっ! ちょっ!!」
藤田が止めようとした時にはフードの男は消えていた。その後、藤田はしばらくそのままその場に立ち尽くした。
――――翌日の夜――――
あかりも突然の事に唖然としていた。
あかりがいつもの様にベッドの下に隠れていると牢屋の前にフードの男が現れたからだ。
しかし、体に限界が来ておりリアクションは薄かった。意外に反応が薄かった事に少ししょんぼりした様子の男は衰弱した様子を見て呟く。
「あらら、結構衰弱してるな」
男はそう言うと鉄格子をすり抜けて牢屋の中に入る。これには流石にあかりも驚いてさらにベッド下の奥の方に逃げた。
男はその逃げるあかりに優しく声を掛ける。
「あぁ、別に怖がらなくて良いですよ。関口 あかりさん、俺はあなたの味方です」
フードの男はベッドの前に胡座をかき、あかりに触れた。すると、あかり急速に正気を取り戻し、精神的には収容される前まで回復した。
明らかに気分が良くなったあかりは警戒しつつ質問する。
「何したんですか? なんか、とても気分が良いです」
「あなたに話があって来ました。ただ、話す為には精神的に回復してもらわないといけないので精神を元に戻しました。体に関しては後で治します」
あかりは一度納得するが、ここは収容所であり、看守や監視カメラなどが大量にある事を思い出す。その事に関して再び質問をする。
「どうやってここに? 看守がたくさん居るはずなんですが……」
再び質問を受けた男は淡々と答える。
「看守なら普通に巡回してますよ。俺は瞬間移動出来るんでここにポンって来ました」
男はそう言うと、膝に置いていた手の平を返し、手の平にポテトチップスの袋を出現させ、袋を開けてボリボリ食べ始めた。
突然の事にあかりは驚く。
「ポ……テト? 今……えっ?」
そこに、看守が巡回してきた。あかりは、ヤバイと思いベッドの奥に再び隠れようとする。しかし、それ以外にはどうする事も出来ず、看守を見守る事しか出来なかった。しかし、看守は牢屋の中を見ても何もなかった様に通り過ぎて行った。
「なんで? もう意味が分かんない」
あかりはその場で色々な事が起きすぎて理解が追いついていなかった。その様子を見かねた男はポテチをボリボリと食べながらあかりをなだめる。
「まぁ、細かい事は気にせず話を聞いてください、あ、ポテチ食べます?」
その言葉に目を光らせるあかりは食い気味に答える。
「あ……じゃあ、1枚……」
あかりはフードの男からポテチを1枚貰い、食べた。半年間、粗末な料理しか食べられなかったあかりにとってはかなり美味しく感じた。うす塩味の塩加減、そして、芋の味、これだけでも涙が出る程美味しかったのだ。
すると、男は話を始める。
「泣くほど美味しく感じたんですね。まぁそれ程ここの環境が良くないって事か。あ、あと、関口さんが喫茶店の前で彼氏さんを透明化する所見ましたよ。なかなか良かったんですが、その能力はもっと‘’成長‘’しますよ。成長して良い事に使えます」
さらに、フードの男はこう続けた。
「それでなんですが、本題に入ります。時間が無いのでストレートに聞きます。ここで、実験台のモルモットとして死ぬまで実験されるか、俺に着いてきて世界をひっくり返すか、どっちがいいですか?」
男の言葉に疑問を感じたあかりは質問する。
「世界をひっくり返すって?」
すると、男はポテチを食べるのを止め、真面目に答える。
「これから、能力者の迫害は大きくなる。それをひっくり返し、共存し、人類を守る、どうですか?」
あかりは少し悩んだ。もちろんここから出られるなら一秒でも早く出たい。だが、目の前の男が何者なのか、信じていいのか分からない。
しかし、何もしないよりかは、この男に賭けた方が可能性があるとあかりは考えた。
「……ここから出られるならなんでもします!」
あかりの言葉を聞くとポテチを手の平から消し、勢いよく立ち上がってテンション高めに声を掛ける。
「よし! その意気で頑張りましょう! あなた達なら脱出出来ると信じてますよ!」
あかりはポテチが消えた事にも驚きつつ、聞き返す。
「え? 達って?」
あかりが聞き返したとき、牢屋の前に藤田が現れた。藤田もフードの男に賭けたのだ。