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精神崩壊

 招集が掛かり、準備が済んだあかりは黒い護送用トラックに乗せられた。あかりを乗せたトラックは複数のパトカーに挟まれながら出発する。そして、2時間ほど走ると停車した。

 トラックが停車してからしばらくして、トラックの後ろのドアが開き、あかりは久しぶりに外の世界を見て、驚く。

 そこには、大量の警官とパトカー、そして、大勢の特殊部隊が居た。その様子に圧倒されているあかりの元に1人の特殊部隊員がトラックに乗り込み、あかりに声を掛ける。



「お前がマルタだな。手を出せ!」


「あ、はい!」



 あかりが指示に従い、手を出すと、その特殊部隊員は特殊なブレスレットをあかりの手首に嵌めた。不思議そうに見ていると部隊員がブレスレットの説明をする。



「このブレスレットにはGPSと自爆機能が付いている! もし、逃げ出そうとすればこれが爆発し、お前は死ぬ! 分かったか?」


「はい! 私はどうすればいいですか?」



 手首に嵌められたブレスレットを軽く擦りながら質問をすると特殊部隊員は忙しそうにせかせかと答える。



「とりあえず、降りろ! 指示があれば即動いてもらう!」



 あかりがトラックを降りると、そこは海に近い住宅街だった。その住宅街の中にある民宿の周りを特殊部隊と警官が包囲しており、澤口と藤田も居て、澤口は拡声器を持ち、何かを言っている。

 その光景を見ていると、民宿の2階の窓が開き、人が飛び降りた。それと同時に銃声が数回響く。あかりは初めて聞く銃声に体をビクつかせ驚いていた。



「(……怖い、こんな銃撃戦だなんて聞いてない……)」



 しかし、その銃声と共に特殊部隊と警官達の動きが激しくなりまたも銃声が数回鳴り響く。その銃声と同時に人が走って行く。



「(あの走って行く人が犯人かな? なんか、半透明だったけど私と同じ能力者なのかな?)」



 あかりはそう考えながら状況を観察していた。そして、特殊部隊員の元に1人の警官が走り寄る。



「マルタの出動命令が出ました!」



 特殊部隊員はその報告を聞くと、あかりの方を向いて説明を始める。



「分かった、おいマルタ! さっきの人影は見えたな! アレが犯人だ! 液体になれる、もしくは液体を操れる能力者だ! 透明化してこのスタンガンで気絶させろ! 分かったか!?」


「はい! 分かりました!」


「よし! さぁ行け!!」



 あかりは突然の事で若干パニックになっていたが、スタンガンを渡され使い方の説明と成功したら外に出られるということを改めて確認し、捕まえる決心をした。

 そして、透明化して犯人が走り去った方向に走って向かう。そこには漁港があり、隠れられる場所が多いため、しらみつぶしに調べる事にする。

 すると、さっき見かけた男を含め4人で走っている姿を見つける。あかりは気付かれないように後ろから忍び寄り、呼吸を整え、覚悟を決める。



「(よし! 捕まえよう! 絶対捕まえないと! ……よし、行こう!!)」



 心の中で覚悟を決めたあかりは、1番後ろを走っていた男をスタンガンで気絶させる。



「ゔゔっ!!?」


「慶太!?」



 スタンガンの衝撃に驚き、透明化が解けてしまったあかりは残りの3人に正体を見られてしまう。しかし、あかりは諦めずに襲いかかる。



正体を現したあかりの姿を見て警戒する3人。その内の1人の男性が大声で2人の女性に声を掛ける。



「テメェ誰だ! 玲奈! 友美! こっちに来い!」



 2人の女性は男性の後ろに隠れる。それと同時に、その男性は身体を液体化し構えた。液体化した男性を見て容疑者と断定したあかりは少し動揺するが、やるしかないと自分にムチを打つ。

 失敗すればまた実験台にされる日々が待っているからだ。そして、あかりの口から言葉が漏れる。



「大人しく捕まれ! お前を捕まえないと……私は!!」



 そう言うと透明化せずにそのまま立ち向かい、スタンガンで攻撃する振りをして透明化する。そして、容疑者の後ろに周り、後ろに隠れていた1人の女性をスタンガンで攻撃して気絶させた。すると、もう1人の女性が叫ぶ。



「友美さん! 友美さん! ……気絶してる!!」



 あかりはすかさず、倒れた女性を抱きかかえている女性に攻撃を仕掛けるが、それに容疑者が素早く反応し、あかりを液体化した腕で殴り飛ばす。

 容疑者は腕に液体を集中させ巨大化していた為、あかりは吹き飛ばされコンテナに強くぶつかり、うずくまる。


 そして、容疑者達は気絶した2人を抱きかかえて走り去った。あかりは追い掛けようするも、石井に皮膚を切り取られた背中を強打していた為、痛みで起き上がる事が出来なかった。



「(痛い……痛い……早く捕まえないと……痛くて立てない……)」



 あかりはうずくまり痛みと戦いながらうめき声をあげ、立ち上がろうと努力するが背中からの出血が止まらない。

 またあそこに戻るのか、また実験台にされるのか、という考えが頭の中をグルグル回る。あかりは涙を流し、唇を噛み締めていた。血が出る程に。

 そこに、澤口と藤田、特殊部隊や警官達が来た。倒れているあかりに澤口が立ったまま話し掛ける。



「おい、お前アイツを逃がしたのか?」


「すみません! 今すぐ追い掛けます!」



 澤口は容疑者を逃がした事に気付くと一瞬で鬼の様な顔をして、こう言い放った。



「黙れ!! せっかくチャンスを与えたのにこのザマか!! お前は収容所に帰ってもらう」


 澤口の言葉に大きく反応し、取り乱す。



「いやぁ!! またあそこに戻るなんて……お願いです! もう一度チャンスを下さい!!」



 あかりが取り乱している様子を見た澤口はしゃがみ込んで冷静に言葉を返す。



「お前は元々犯罪者だ! 1度チャンスを貰えただけで感謝すべきだろ? 2度目は無い」



 澤口がそう言うと近くに居た警官がスタンガンで気絶させ連れて行った。澤口の後ろに居た藤田は終始目を伏せており、少し手が震えていた。心の中でこう思っていた。



「(この子は彼氏に無理やり利用されてただけなのに……助けてあげたい。今回もあの科学者にあんな事された後だから、黒田 瞬を捕まえるなんて本当に超人じゃないと無理……でも……どうすれば……)」



 藤田は収容所であかりの過去を見て自分のしている事が怖くなり、澤口や警官達にもかなり恐怖を抱いていた為、申し訳なくなり、以前よりも逃げたくもなり、助けてあげたいという気持ちも強くなっていた。

 それとは裏腹にあかりは警官に抱えられ、トラックに戻された。




――――収容所――――



 あかりが目を覚ますとまた収容所の牢屋の中に居た。あかりはまた実験台にされる日々が来ると思い、涙を流し、精神的にも限界が近付いていた。



「嫌だ!!! 外に出たい!!! あーーーー!!!!」



 あかりは叫び続けたが何も変わらない。看守はあかりの様子を見ても無視していた。

 すでに、精神が破壊されているマルタは他にも多数居るからだ。あかりはその内の1人でしかなかった。




――――数日後――――


 藤田は容疑者の居場所を探る為、澤口と共に漁港にいた。あかりが収容所に戻された後、澤口と藤田と特殊部隊は容疑者を追い詰めたが、あと1歩の所で着ていた衣服を残し、海に消えてしまったのだ。

 そして、澤口と藤田は現場に着くとあらゆる場所に触れた。容疑者が仲間3人と逃げた事、その場所で起きた事を見る事が出来た。



「どうだ? 何か見えたか?」


「……いえ、容疑者はここに来てますが、そのまま引き返してます」


「つまり、ここまで来て俺達と戦う覚悟を決めたって事か」


「その可能性が高いかと思います」


「そうか、戻るぞ」



 藤田は仲間の3人がここに来ていた事は言わなかった。容疑者の過去を見た藤田は心の中にある思いが湧いてきたからだ。

 容疑者は友達を守る為に事件を起こした。そして、その3人の仲間は最後までお互いの事を信じ合い、諦めなかった。藤田はそれが非常羨ましかった。

 だから、容疑者にはまた仲間の3人とは会って幸せになって欲しかった。自分が同じ能力者として、誰にも信じられず、ひどい思いをしている分、幸せになって欲しかったのだ。







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