招集
呆然としたまま手を引っ張られ、収容所の外へ引っ張り出された藤田は澤口と向かい合わせになり注意を受ける。
「何を見たか知らんが、何も言うな。余計な事したらお前も収容所にぶち込む」
注意され、俯く藤田はわずかに手を震わせて小さい声で返事をする。
「はい……」
その後、澤口は仕事に戻り、藤田は寮に戻った。その日の晩はあかりの過去が頭の中をグルグル回ってしまい眠れなかった。
「(あの人、あかりさんはあの彼氏に無理やり能力を悪用されてたんだ……。あかりさんは良い人なのに……。しかも、あの科学者……噂では聞いてたけど本当にあんな事を……)」
――――数日後――――
澤口と藤田は車である場所に向かっていた。砂浜で起きた殺人事件の車で逃げた2人の内の1人の家だ。アパートに着き、部屋のドアの前に立つ。そして、澤口は念には念をと藤田に調べさせる。
「念のためにドアを調べろ」
藤田はゆっくりとドアに触れた。すると、ここの部屋の住人以外の人が2人の部屋の中にいる事が分かった。
「中には【木口 慶太】の他に【小林 友美】、そして、あと1人誰か分からない女性が居ます」
「そうか、じゃあ、車で逃げた2人がここに居るのか。都合が良いな。中に入ったら3人と自己紹介して、握手をしろ。用が済んだらすぐ出るぞ」
「はい」
【木口 慶太】と【小林 友美】は砂浜での殺人事件現場に居た2人だ。
澤口は躊躇なくチャイムを鳴らし、声を掛けて様子を伺う。
「警察の者ですが、開けて頂けませんか?」
少し間を置いて、中から「はい! 今出ます!」と声が聞こえた。
すると、おそらく【木口 慶太】と思われる大学生くらいの男が出て来た。身長は高く、体格も良いが少し強面だ。澤口は事件に関して話があると言い、部屋の入る事に成功。
中には【小林 友美】と思われる、髪が肩程まで伸びておりボーイッシュな女性。そして、もう1人若い女性が居る。さらさらのロングヘアーでかなり顔が整っている。
お互い軽く自己紹介する事になり、その女性は容疑者の交際相手【皆川 玲奈】だということが分かった。その際、3人と握手し、過去を見る事に成功する。
そして、落ち着いた所で澤口が話を切り出す。
「では、話を早く終わらせる為に直球で聞きます。あなた達が “【黒田 瞬】 容疑者”と友人であるという事は知っています。海岸で男性2名の遺体が見つかった事件について何か知っていますか?」
澤口がそう質問すると【木口 慶太】は急に怒り出し、「瞬を容疑者呼ばわりするな、何も知らない」と言い出した。その様子に藤田は少しビクついたが、澤口は眉一つ動かさない。無表情のまま澤口は口を開く。
「落ち着いて下さい、容疑者であって犯人と確定した訳ではありません。しかし、何も知らないのであれば仕方が無いです。話は以上です」
澤口はそう言うと一方的に話を終わらせて、藤田と共に部屋を出た。外に出た澤口と藤田は早歩きで車に戻る。澤口はシートベルトを着用し、エンジンを掛けて一息つく。そして、藤田に質問する。
「藤田、何が見えた? ヤツはどこにいる?」
「ここから、車で1時間程の場所にあるネットカフェです」
澤口はそれを聞くとケータイを取り出し本部に連絡する。5分程話すと電話を切り、ネットカフェに向かう。
――――収容所――――
本部に澤口から連絡が来てから10分後、武装をした看守が5人、あかりの牢屋に向かっていた。牢屋の前に着いた看守はあかりに声を掛ける。
「招集が掛かった、出ろ」
うつ伏せに寝ていたあかりは静かに立ち上がりかすれた声で「……はい」と返事し、看守に身を任せる。心の中であかりは燃えていた。
「(これを成功させれば自由になれる! 絶対捕まえてやる!!)」