収容所内部
――――翌日――――
藤田と澤口は病院の安置所で砂浜で殺害された2人の遺体の前に居た。澤口が無表情で指示する。
「調べろ」
「……はい……うぅ」
藤田は遺体に触れる事にかなり嫌悪感を示していたが勇気を振り絞り、恐る恐る触れる。すると、砂浜での出来事が見えた。
「あ? もう1人居んのかよ、めんどくさ。」
「アイツもさっさと片付けてコイツとヤろうぜ(笑)」
「うわ! なんだアイツ! 能力者かよ! ヤベェ!!」
「うぐっ……ごべんばばい! ゴボボ」
過去を見て、我に返った藤田は澤口に報告する。
「……見えました」
「何が見えた?」
「この2人は女性に乱暴しようとして、おそらく友人である能力者に反撃され、殺されたんだと思います」
澤口はいつものように間髪入れず返答する。
「なんの能力だ?」
「自身を液体化する事が出来るか、液体を操る事が出来るかだと思います」
それを聞くと癖である腕を組み、アゴに手を添えるポーズをとる。しばらく考え込むと藤田に声を掛ける。
「そうか、分かった。それだけ分かれば十分だ。加害者の身元が割れたら一気に畳み掛ける。よし、じゃあ収容所に行くぞ」
「え!? 収容所……ですか?」
いきなりの収容所の発言に驚く藤田。しかし、それは意外なものだった。
「あぁ、新しい“マルタ”が入ったらしい。今回の事件でテストする。1度顔合わせする」
「……分かりました」
一安心した藤田は澤口の後ろを歩いて収容所に向かう。
――――収容所――――
澤口と藤田は収容所に着いた。初めて収容所に入った藤田は異様な雰囲気に圧倒され恐怖を感じていた。
牢屋の角にずっとうずくまっている者
壁に頭を何回もぶつけ続ける者
目隠しをされ鉄格子の前でずっと無言でフラフラと揺れながら立っている者
特殊なマスクで口を塞がれている者
ここに収容されると確実に精神が破壊される。
そして、あかりの牢屋の前に着いた。あかりはうつ伏せになり、グッタリしていた。その様子を見て澤口は表情一つ変えずに声を掛ける。
「おい、起きろ。お前が新しい“マルタ”だな」
声を掛けられたあかりはぐったりとしたまま“マルタ”という言葉に疑問を感じ、弱々しい声で質問する。
「…………マルタって……なんですか」
「お前らの事だよ。ここに収容されてる能力者の事だ。起きてんなら体起こせ!」
澤口が怒鳴るとあかりはビクッとしゆっくりと体を起こした。ポニーテールに
していた髪はボサボサで顔もやつれていた。それに嫌悪感をあからさまに示す澤口は小言を吐きながらも話を進める。
「汚ねえな。おいよく聞け。お前にはここから出るチャンスをやる、分かるか?」
出るチャンスという言葉に反応し、あかりの目に若干の光が灯る。
「え? 出られるんですか?」
「ただし、条件がある。お前にはある事件の犯人を捕まえてもらう。それが、成功したらGPS付きだが外に出られる。失敗すればここに逆戻りだ。やるか?」
あかりは食い気味に鉄格子を掴みながら答える。
「やります! やらせてください!」
「分かった。その時になれば招集が掛かる。それまで待ってろ」
「……分かりました」
あかりは今すぐではない事に落胆している様子だが、澤口はお構い無しに話を切る。藤田は依然として収容所の雰囲気とあかりの様子に恐怖を感じていた。
すると、澤口が藤田に話し掛ける。
「話は済んだ、帰るぞ」
澤口は体を返し、来た道を戻ろうとする。その後ろを藤田がついて行こうとした時、あかりが手を伸ばし、藤田の手袋と袖の間の手に触れた。
その時、藤田はあかりの過去や収容所で石井にされた事を見てしまった。
そこは手術室の様な場所で目の前は真っ暗だった。そこで石井の声が聞こえる。
「久しぶりだねぇ、関口あかりさん。若くて可愛くて能力者。素晴らしい! 最高だね!」
石井は気持ちが悪くなるようなテンションで一方的にあかりに話し掛ける。
「君は確か透明化出来るんだよねぇ? 不思議な皮膚をしてるんだろうなぁ。楽しみだなぁ」
さらに続けて喋る。
「どこの皮膚が1番良いかなぁ、やっぱりお尻かなぁ、でも、この綺麗な背中も良いなぁ。…………今回は背中にしよう!」
そして、あかりは石井に麻酔無しで背中の皮膚を薄く3分の1程で切り取った。
「んーーーー!!!! んぁーーーー!!!!」
あかりはあまりの痛さに叫び、能力の制御が効かなくなり、透明化したり、元の身体に戻ったりを繰り返した。それを見た石井はさらテンションが上がる。
「うわぁ! 凄い!! 感動だなぁ!! これを人口的に生み出して軍事利用出来れば俺は最高の科学者になれる!!!」
石井は狂った様にその様子を観察し、カメラで撮り、興奮していた。その後、あかりは最低限の雑な治療を受け、牢屋に戻され、痛みの余りうつ伏せでグッタリした。
そこまでの過去を見た所で澤口が藤田に触っている事に気付く。
「ん!? お前!! 何をやっている!!」
澤口はあかりが藤田に触れていのを見てあかりの手を警棒で叩き、呆然と立ち尽くしている藤田の手を取り、収容所を去った。