マルタ
――――能力者対策本部特別寮――――
そこは、能力者対策本部に協力する元犯罪者の能力者や秘密裏に集められた能力者が住む寮。元犯罪者の能力者はGPSを埋め込まれており、自由な行動時間はほとんどない。それに比べて、集められた能力者は寮に住む事以外はほぼ自由だ。
だが、基本的に能力者は専属の上司の命令には逆らう事は許されない為、不満に思う能力者が大半を占めている。
その寮の一室に1人の女性が帰ってくる。それはサイコメトラーで澤口の部下、藤田だ。
「はぁ〜、疲れた。明日も新しい事件の調査だし……澤口さんは怖いし、もう嫌だな」
藤田は愚痴をこぼしながらも風呂や夕飯を済まし、布団に入る。
藤田のサイコメトリーの能力は小さい頃から目覚めており、みんな同じだと思い込んでいた藤田は人の過去や物の過去を見てほぼ全ての事を言い当てていた為、周囲から嫌われ、親にも捨てられた。
その後は孤児院で過ごし、18歳になると警察に身柄を引き渡された。孤児院に入ってすぐに警察が能力に目を付けられていたのだ。それからは強制的に教育され、雑用をやらされるなどの雑務を押し付けられていた。周りからの目が痛い事も変わることはなかった。
翌日、藤田は澤口と共にある砂浜に居た。そこで、改めてそこで起きた事件について澤口が説明する。
「この砂浜で、男性2人が不審死した。明らかにおかしいらしく、能力者の可能性が示唆されている。だから藤田、ここら辺の砂浜一帯全て調べろ」
澤口の言う砂浜とはかなり広く、無理があった。
「え? 全て……かなり広いですけど……」
「あ? 従えないなら収容所に行ってもらうぞ? いいのか?」
藤田は澤口には絶対服従の為、嘘をついたり、逆らったりすると収容所に送られる事になっている。藤田は俯いて悔しい表情を浮かべるも、命令に従うしかなかった。
「…………調べます」
そして、何とか時間を掛け、日が傾いてきた頃に砂浜一帯を調べ終わり澤口に報告する。
「被害者2人以外に3人居るのが見えました。その3人の内2人は車で去り、1人は徒歩で去っています。しかし、これだけでは情報が少な過ぎて何とも言えません」
藤田の報告を受けると間髪入れずに返答する。
「そうか、なら痕跡を全て辿れ。そうすれば、犯人に辿り着くだろ」
「そんなのキリがありません! 」
「やれ」
澤口は藤田を睨む。それに萎縮した藤田は無理やり痕跡を辿らされた。
徒歩で去っていった痕跡を辿り、日も落ち、深夜に近付いてきた時、あるアパートの一室に辿り着く。
「ここに続いています。ここの部屋のドアノブにかなりの回数触れています。おそらく、この部屋の住人が何かを知ってると思います」
「分かった。お前は帰れ。ここは捜査一課に任せて、明日は被害者の遺体に触れて過去を見てもらう」
「分かりました」
藤田が寮に戻ったのは深夜12時を回った頃だった。そして、また愚痴をこぼす。
「もう疲れた。もうやだ……なんで能力者ってだけでこんな目に合わないといけないの? 逃げたい……」
――――翌日の収容所――――
石井は手術着を着て、手術室のような部屋に居た。
「おい、“マルタ”を連れてこい」
石井は一緒に居る2人の助手に声を掛ける。
「はい」
そこに、連れてこられたのは全裸でうつ伏せの状態で台に手足を固定され、口も塞がれ、身動きが取れなくなっているあかりだった。