牢屋
あかりは目覚めた。目の前には真っ白な天井があり、少し固めだがベッドの上に寝ているような感覚がある。窓があり、カーテンが風で揺らいでいた。あかりは薄目で窓を見つめる。
「病……院?」
少し強い風が吹きカーテンが大きく揺れ、外が見える。そこには有刺鉄線が張り巡らされた鉄格子があった。
「病院って……こんなんだ……っけ?」
あかりは意識が朦朧としており頭が働かなくなっていた。体を動かそうとすると首と顔が痛み、あまり動けない。枕元にナースコールがあるのに気付いたあかりはナースコールのボタンを押す。しばらくすると、看護師のような人が来てベッドを起こした。
「そのまま少し待ってて下さいね。担当の医者を連れて来ますね」
あかりはそう言われてぼーっとしながら窓の外を見ていた。どんどん意識がハッキリとしてきて聖哉に馬乗りになって殴られた所までを思い出し、あかりの表情が歪む。
そこに、口ひげを生やし黒縁メガネをかけ七三分けの白衣を来た男性が入ってきた。
「お目覚めになられましたか。私はこの病院の医院長の【石井 五郎】と申します。気分はどうですか? 【関口 あかり】さん」
石井に気付いたあかりは首が痛む為、身体ごと石井の方へ向ける。そして、今の気分と疑問を問い掛ける。
「首と顔が痛いです。あの……ここはどこの病院ですか? 聖哉はどうなったんですか?」
その問い掛けに軽く頷き、脳にダメージが無いことを確認すると質問に答える。
「ここは簡単に言えば能力者専用の病院です。もう1人の男性の方なら警察が逮捕したと思います。詳しい事は分かりません。あと、あなたは傷が治り次第、別の場所に移動してもらいます」
「能力者専用!? 別の場所ってどこですか?」
「すぐ近くですよ。まぁ今は体を休めて下さい。あなたには“重要な役割”がありますから」
石井はそう言って不敵な笑みを浮べると病室から去っていった。能力者という事がバレている事に冷や汗をかくあかりは不安になるが、身体が動かない以上どうしようもないと思い、石井の言う通り体を休める事にした。
――――1週間後――――
あかりの怪我がある程度治り、退院することになった。しかし、未だにこれからどこに移されるのか聞いていなかった。不安を感じていたあかりは看護師に質問する。
「あの、私は退院したらどこに移されるんですか?」
「……私からは言えません。ごめんなさい」
看護師は終始下を向いており、何故か申し訳なさそうにしていた。あかりは嫌な予感がして、能力を使って逃げる事を考えるが、窓の外にある異様な鉄格子が気になり、もう少し様子を見る事にした。
退院の準備が終わると先程の看護師が灰色のツナギを持ってきて、着るように言った。
「あの、この服に着替えて下さい。着替えたら荷物を持って移動します」
「え? この服ですか? なぜですか?」
看護師は何も答えず、「着替えたら声を掛けてください」とだけ言って、病室から出て行く。あかりは不審に思いながらも灰色のツナギに着替え、ドア越しに看護師に声を掛けた。
「あの、着替えました」
「分かりました」
看護師の返答と同時に特殊部隊のような格好をした人達が病室になだれ込み、あかりはスタンガンで気絶させられ、どこかに運ばれた。
――――数時間後――――
あかりが目を覚ますと硬い地面に横たわっていた。灰色の天井が見え、周りを見回すとそこは、牢屋のような作りになっていた。
部屋にあるのは、トイレとベッドだけだった。