迎え
ヘリに乗った燃える人間を見たあかりは驚愕し、息を詰まらせながら藤田に燃える人間の事を伝えた。
「藤田さん!! ヘリに……燃える人が……乗ってます」
「燃える人!? そんなの聞いたことない……」
藤田は予想外の展開にさらに動揺をしてしまう。その間も燃える人間は藤田達を見ており、様子を伺っているようだった。
そして、その燃える人間は左手でヘリを掴み、右手に炎を集中させ始める。あかりは目の前で起きている事がまだ理解出来ていないがそのままの状況を藤田に伝える。
「なんかヤバそうですよ! 攻撃してきそうです!!」
「どうしよう!! とりあえず掴まっててください!! 最大限まで飛ばします!」
藤田は大雨が降っていた為、スピードをセーブしていたが逃げる事だけを考え、アクセルをベタ踏みし、スピードを上げる。しかし、ヘリが藤田達を追うことは容易だった。燃える人間は右手に大きな火球を作り、投げる様な体勢をとり、火球の炎の勢いが増す。
「藤田さん!!! 来る!!!」
藤田は必死の思いで歯を食いしばり、アクセルを踏むが最高速度に達していたスピードは上がらない。あかりも必死に燃える人間の様子を藤田に伝えるが、あまりの恐怖と混乱で正気を失いかけていた。
そして、燃える人間が振りかぶり、大きな燃え盛る火球を藤田達のトラックに放つ。2人はパニック状態で叫ぶしか出来なかった。
「飛んでくる!!! イヤーー!!!」
「嫌だ!! 死にた」
藤田が叫び終わる前に火球がトラックのボンネットに着弾し、トラックの後方部が浮き上がり、一回転し、宙を舞う。宙に浮き上がったトラックは落下して地面に衝突し、そのまま火花を散らしながら数十m滑り、横転した状態で止まった。
トラックのボンネットが燃え上がり、破片があちこちに散らばる。トラックの窓は割れ、藤田達は血だらけになっていた。その場をパトカーや警官達が取り囲み、大雨が燃え盛るトラックに雨粒を打ち付けていた。
藤田の指先がピクリと動き、目を覚ます。
「……ん、……生きてる……関口さん?」
「うゔぅ……」
藤田の問い掛けにあかりは唸り声しかあげられなくなっていた。
「関口さん……生きてる……よね?」
藤田は朦朧としながら、自分のシートベルトを外す。運転席側が地面に接しており、あかりはシートベルトで宙吊りになっていた。藤田は立ち上がり、だらんと垂れているあかりの腕をとり、脈を確かめる。
脈は弱々しいものの生きている事は確かだった。藤田は力を振り絞り、あかりのシートベルトを外し、ハンドルとヘッドレストに足を掛け、あかりが落ちないように支える。そのまま、割れた助手席の窓からあかりを押し出して自らも脱出する。
「うゔ……頭が痛い……血が出てる……あかりさんも血が……」
トラックから脱出した所であかりが目を覚ます。
「ふじ……たさん……?」
「良かった。気が付いたね。トラックから脱出したから大丈夫。でも、もうダメかも……」
目の前には、大量のパトカーと警官達がその2人を囲う様に拳銃を構えて立っていた。その光景を藤田とあかりは座り込んで見ていた。警官達にライトで照らされ、もう諦めていたのだ。
そこに、ある男性が警官達の間を縫って歩いてきた。その男性は澤口だった。眉間にシワを寄せ、怒りをあらわにしていた。
「なんでお前が裏切った!! お前となら上手くやれてたのに!!」
意識が朦朧としている藤田とあかりは何も言わず座り込んでいた。男性は2人に銃を向け、こう言い放った。
「これだから、能力者は……撃て!!」
澤口の合図に合わせて周りに居た警官達と男性は同時に発砲し、銃声が響く。藤田とあかりは合図を聞いたと同時に目を瞑り、死を悟った。
しかし、2人は死ななかった。
2人が目を開けるとそこには、銃弾、雨粒、人、雲、全てが静止した世界が広がっていた。2人はその世界をまじまじと見ている。2人だけが動ける世界に驚いていた。
すると、上空から藤田とあかりの目の前に勢いよく人が降りてきた。2人はビクッとし、その姿を凝視する。そこには、フードを被りモッズコートの様な服を着た人が立っていた。その男は藤田とあかりに近付いてこう言った。
「俺と一緒に来い、迎えに来た」
フードの男はそう言うと2人に手を差し出した。2人は顔を見合わせ、一息置いてその手を握ると、藤田とあかりとフードの男は消え、世界は動いた。
放たれた銃弾は地面や護送用トラックに当たり周囲に雨音と金属音だけが鳴り響いた。
男性「今のは……何なんだ……あの男は……?」
――――ある場所の地下深くの部屋――――
フードの男はある場所の地下深くの部屋に瞬間移動していた。そこは、テレビやソファー、お菓子の置いてあるテーブル、食器棚などが置いてある広いリビングの様な部屋だ。
2人が呆然と座り込んでいると男は2人に声を掛ける。
「よし、ここで治療を受けろ」
そう言うと、扉から2人の若い男女がリビングに入ってきた。入ってくると同時にそのうちの一人の若い外国人の男性が男に話し掛ける。
「あ! ボス、その人達が新しい人ですか?」
「そうだ、治療してあげてくれ。酷い怪我をしてる」
男がそう言うと、もう一人の若い外国人の女性が返事をする。
「分かりました!」
「じゃあ、ちょっと片付けてくるから、その間よろしく!」
フードの男は若い男女に指示し、再び目の前から一瞬で消えた。
すると、若い女が「大丈夫ですよ。安心して下さい」と優しく微笑みながら藤田とあかりに近付き、優しく身体に触れる。若い女が触れた部分から急速に傷が癒えていき、身体に入り込んでいたガラスの破片が体外へ排出されていく。この様子を藤田とあかりは驚きながらもじっと見ていた。傷が完全に癒えると藤田とあかりはかなりの空腹に襲われ、二人同時に腹が鳴った。
それと同時に若い男が藤田とあかりに近寄り2人の手に触れた。すると、藤田とあかりは精神的な落ち着きを取り戻し、安定した。
挙動不審になっている2人にタオルを渡しながら女性が優しく声を掛ける。
「あの男の人も能力者。少し気が楽になったでしょ? さっき怪我を癒すのにあなた達の栄養を使ったの。だから、物凄くお腹が減ってると思う。今、あの男の人がご飯作ってるからお菓子でも食べて待っててね」
女性がそう言い終わると、隣の部屋にある台所から男性が気さくな声が聞こえた。
「もう少し待ってね! すぐ作るから! テーブルの上のお菓子はフランスの有名なお菓子だから美味しいよ! 今は色々分からない事だらけだと思うけど、ボスが帰ってきたらちゃんと説明するよ。今は休憩してて」
藤田とあかりは2人の若い男女の雰囲気に呑み込まれ、言われるがままに雨に濡れた体を拭いて、席につきテーブルの上にあるクッキーを厚く丸く焼き上げた様なお菓子を食べた。それは、外はカリッとしているが中はねっちりとしていて、口に含むとアーモンドとハチミツの味が広がり、とても美味しく、あかりは美味しさの余り、泣いてしまっていた。
「うう……美味しい……」
藤田も1口食べ、笑顔になる。そして、お菓子の事が気になり男性に質問する。
「これ、とても美味しいです。何ていうお菓子ですか?」
「それはマカロンダミアンっていうお菓子だよ! 泣く程美味しいだろ!」
男性が再び気さくに答えると、藤田が返事する前にあかりが素早く返事する。
「はい! 美味しいです!!」
あかりは相変わらず泣きながら食べており、女性が柔らかく優しい表情であかりの頭をポンポンと撫でていた。その女性はヨーロッパの人かと思える様な見た目をしており、あかりと藤田には女神の様に見えていた。また、男性も同様にヨーロッパのどこかの国の料理人に居そうな顔立ちをしていた。
それを気付いた藤田は女性に問い掛ける。
「あの、2人とも日本語がかなり上手いんですが外国の方ですよね?」
「うん、そこの詳しい事もボスが帰ってきたら詳しく話すね。」
「あ、はい」