表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

大声

 出口の前で深く深呼吸した藤田は扉を開けた。外は深夜だが、敷地内は外灯が多く、常に警備員が巡回している。透明化しているとはいえ、音を立てれば不審に思われてしまう可能性がある為、慎重に進まなければならない。

 その状況にあかりはいい案が無いか藤田に聞く。



「(何かいい案はありますか?)」


「出口は門しかありません。しかも、門は常に閉まっていて許可が無いと開きません」



 門からバレないように出るのは難しい事が分かったあかりは考え込む。そして、もう一つ提案する。



「(うーん……あの藤田さんの上司は利用出来ないんですか?)」



 その質問に藤田は苦い顔をして答える。



「澤口さんには出来るだけ会わない方が良いと思います。あの人は勘が鋭いので……とりあえず、門の近くに行ってみますか」



 藤田の提案にあかりは乗る。



「(はい! 慎重に行きましょう!)」



 その後、藤田は音を立てないようにそっと歩く。透明化の癖が付いていない為、警備員の姿を見る度に物陰に隠れたりしてしまっていたが、なんとか進む事は出来ていた。

 慎重に進む事10分、藤田は収容所の近くの寮に着いた。そこで藤田は何かを思い出す。



「あ、ちょっと私の部屋に寄っていいですか? 護身用のスタンガンが部屋にあるので」


「(あ、そうですね! あった方が心強いです!)」



 藤田はあかりの了解を得て、そのまま寮に行き、自分の部屋に入った。そして、順調に物事は進み、自分のカバンに入っているスタンガンを見つけた。

 一息つく藤田は自分の部屋ということもあり、少し油断し、気が抜けていた。そして、気を抜いたまま玄関のドアノブに手を掛けてしまう。



「よし、じゃあ門に向かいます」



 その時、あかりは大声を出す。



「(待って!!!)」


「え?」



 藤田の頭の中に響くあかりの大声に反応しつつドアを開けてしまう。なんと、目の前には眉間にシワを寄せ、かなり怒っている表情をしている澤口が立っていた。



「おい、お前は何をやっているんだ? 何故GPSの信号が途絶えた? しかも、収容所内で!  答えろ」


「え!? あ……え……見えてる……」



 藤田はスタンガンを手に入れた事と自分の部屋に戻り、少し油断した際、透明化が解けていたのだ。

あかりが藤田を止めようとしたのは透明化の能力が解けている事に気が付いていたからだった。

 藤田は困惑する。その様子を睨む澤口は口を開く。



「見えてる? なんのつもりだ? お前何を企んでる? 答えろ!!」



 藤田はどうにか誤魔化そうとするが吃ってしまう。



「あ、いや、えっと……」



 藤田が答えられずにいると、澤口は藤田の胸倉を掴み、部屋に突き飛ばす。倒れ込む藤田に馬乗りになり、澤口は再び質問した。



「答えられない理由はなんだ!! あ!?」



 と、その時、澤口のケータイに着信が入り、藤田を監視しつつ立ち上がった澤口は電話に出た。



「どうした? 透明化のマルタが居ない? 熱反応は? それもない……分かった。俺に心当たりが ゔゔっ!!!」



 藤田はその隙を見逃さなかった。澤口が電話に少々気を取られていた隙を突き、スタンガンで攻撃したのだ。床に倒れた澤口を尻目に藤田は透明化し、部屋から走って出ていく。

 なんとか気絶せずに意識を保った澤口はまだ繋がっていた電話に向かい、大声で指示する。



「くそっ……おい! まだ電話は繋がってるな? OK、サイコメトラーの【藤田 美織】を捕まえろ! 奴は裏切った! 恐らく、透明化のマルタも一緒に居るはずだ!」



 澤口は電話を切り、フラフラになりながら部屋から出て、藤田達を追う。そして、施設内に警報が鳴り響き、全ての職員、警備員が藤田達を捕らえる為に動き出す。

 澤口から何とか逃げ切った藤田は門の近くにある車庫に向かっていた。警備が増えてしまった為一度建物の陰に隠れ、あかりにこれからの作戦の案を話す。



「もう、バレてしまったので豪快に護送用トラックを盗んで門を突破しようと思うんだけど、どう思いますか?」



 あかりはその案に肯定するが、さっきの事に釘を刺す。



「(良いと思います! ただ、今度は油断しないようにしましょう!)」



 少し注意された藤田はしょんぼりした様子で謝る。



「うん……さっきは油断してました。ごめんなさい」



 思ったより落ち込んだ藤田にフォローを入れるあかり。



「(まぁでも、初めて使う能力だから仕方ないです! 今は脱出の事だけ考えましょう!)」


「……そうですね! 私頑張ります!」



 藤田は気を取り直し、今後は気を抜かない様に慎重に進んだ。その間もかなりの数の警備員が巡回しており、中には灰色のツナギを着た元犯罪者の能力者も居た。さらに、警備員たちは透明化の能力者の対策をしていた。



「どうしよう……熱線暗視装置着けてる……」



 あかりは聞き慣れない言葉に反応する。



あかり「(なんですかそれ?)」



 すると、藤田はヒソヒソと説明し始めた。



「サーモグラフィスコープの事です。透明化していても身体から赤外線を放射しているのには変わりが無いから姿を見られてしまうんです」


「(ん〜、よく分からないですけど、見られてしまうんですね)」


「ここからは透明化してても隠れながら行かないと危ないですね」



 藤田達はその後も危なげなく進み、車庫の隣にある車の鍵を管理している建物に近付いた。鍵を管理している部屋は警備員が常駐している為、戦いは避けられない状況だった。しかも、通常は1人だが、今は非常事態の為、部屋には2人の警備員が居る。

 その様子をバレないように覗く藤田。



「どうしよう」


「(戦うしか無いですよね……)」


「そうですね……でも、スタンガンしかないですし……」



 藤田の弱音にあかりは半年前の出来事を思い出す。あかりは透明化を駆使してスタンガンだけで2人気絶させていた。この事で藤田を勇気付ける。



「(大丈夫です! 私は半年前の漁港の事件の時、スタンガンと能力で2人気絶させたので、藤田さんでも出来ます!)」



 その言葉に藤田も半年前の事を思い出す。あの時助けてあげられなかった事も思い出し、少し気まずく感じる。だが、藤田はあかりのその言葉に勇気付けられ、覚悟を決める。



「やるしかないですよね……やります!」



 藤田は決心し、部屋の扉の前に立ち、緊張した心を落ち着かす為に深く深呼吸し、ドアノブに手を掛ける。



 そして、勢い良くドアを開けて、ドア近くに居た警備員の首をスタンガンで攻撃し、確実に戦闘不能にし、それに気付いたもう1人の警備員は素早く反応し藤田を攻撃しようとしたが、既に警備員の後ろに回っていた藤田がスタンガンで攻撃した。

 上手く2人の警備員を倒した藤田は自分に少し驚きながらも護送用トラックの鍵を探し、見つけ出す。



「あ、これだ! これで逃げられるよ!」


「(藤田さん凄いです!! 二人倒して鍵までゲットするなんて!)」



 その時、藤田は地面に座り込む。



「……ゔゔっ」



 あかりと藤田の身体がフュージョンしてから約30分。

 藤田の身体が能力に耐えられなくなってきていた。藤田の身体は二重にブレて見えるようになり、今にも能力が解けそうになっていた。その様子を見てあかりが鼓舞する。



「(藤田さん! 車に乗るまで頑張りましょう!!)」


「うん……大丈夫です! 多分行けます!」



 藤田は透明化とフュージョンの能力が解けない様に気を張りながら、部屋から出て、近くのトラック等が収容されている広い車庫に向かう。無事に車庫に着き、扉を開けて、目当ての護身用トラックに走る。

 しかし、そこにサーモグラフィを装着した警備員と灰色のツナギの男が後ろから迫っていた。その男は警備員から指示を受け、口を覆っていた特殊なマスクを取ると藤田の方向を向いて叫んだ。



「ヴオォォォォォォォォ!!!!」



 ツナギの男が叫ぶと周囲の窓が割れ、車庫の閉じているシャッターが揺れ、近くにある軽い物は吹き飛んだ。

 藤田は急に聞こえた大声に耳を塞ぐが声は容赦なく藤田の耳に入り込み、苦しめる。



「ううゔ……これはダメかも……」


「(何これ……! 能力者?)」



 そして、あまりの衝撃に透明化の能力が解けてしまった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ