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クリスマス企画 第3弾

プレゼント

甲高い音が、部屋に鳴り響く。僅かに、振動もある。

うるさい…とめなくては…。


冷える部屋の中、布団から極力はみでない様に手を伸ばし、目覚まし時計をとめる。

寒い、眠い、寒い、寝たい…。

けど起きなくては。……遅刻してしまう…。

別に怒られたくないとか、皆勤を目指しているとかはないが、ただ何となく、遅刻してはいけないから、しないようにするだけ。


動きたくない体を何とかして動かして、身支度をする。

あぁ、また今日も同じ日が繰り返される。

平凡で、なんの代り映えしない日々が。

平凡なのは悪くない。

平凡というのは、言いかえれば普通。

普通が一番だ。

物語の主人公のように、何か使命があれば楽しいだろうが、それは同時に辛い事でもある。

だから普通の生活を、ただ普通にこなしていく。

それが一番だ。




そしていつものように朝食を食べ、家を出る。

いつもの道を、いつものように通い、いつもの人達とすれ違う。

……。

いつもの、人?……。


おかしい。

何がって?

俺の目の前にいる人が。

背丈は俺より低くいがチビではない。髪は白く、服は白色のモコモコが付いた赤を基調としたジャケットを着て、ズボンは赤色。

おそらく、サンタの格好をしているだと思う。

サンタの格好をするのは、自由だ。

がしかし、ここは渋谷のど真ん中ではなく、住宅街。

しかも、朝の通勤通学者が通る道。コスプレなら、よそでしてくれ。


更に、その人はこちらを見続ける。

右に動いても、左に動いても、俺を見続ける。


「あの、何かようですか?」


訝しげな顔で、その人に問いかけてみた。


「おいおい君にようがあるから、こうしているのではないか」

「は、はぁ」


朝から変な人に捉まってしまった。


「変な人とは失礼な。どこから、どう見てもサンタだろ」


!?

え、今、俺口に出してたか?


「ん? いや、口には出てないけど?」

「ま、待て、どういうことだ」


自称サンタは、笑顔のまま答える。


「僕はサンタ。だから、君の思考が読める。どこか、おかしいところがあるかい?」

「いや、だから……はぁ。何から突っ込めば良いのやら」


ひとまず、ひと呼吸おくことにしよう。

……。



さて、まずは。


「なぜ、お前は、俺の思考を読める?」

「サンタだから」

「……。サンタである証拠は?」

「見ての通り」


……。だめだ。何一つ理解できない。

この嘘くさい人がサンタだと?

まぁ仮に、この人がサンタとしても、思考を読める理由にはならない。

どうやら、まだ夢でもみているようだ。


「これは夢ではないさ。サンタが、思考を読めても不思議ではないだろ? では逆に聞こう。どうして、サンタは子供達の欲しいモノが分かるのだい?」

「……それはサンタは親で、親だから子供の欲しいものが分って当然だから。というか、聞かなくても俺の心を読めば良い気が」

「ブッブー。答えは、サンタが子供達の思考を読んでるから。後、○○だから○○という固定観念を持ったり、自分の考えや想いを口に出さないようにするのはよくないね」

「確かに、その理屈は通っているけど。まず、相手の思考を読むという超人的な発想が理解できん」


というかコイツ、サラッと色々と否定しやがったな。


「サンタだから、超人的なことをできて当たり前だろ? ソリで空飛んでるし」


自称サンタは、少し顔を傾け聞いてくる。


「じゃあ、今、そこで空を飛んでみろよ。そしたら、サンタは超人的な事ができると信じてやるよ」

「空を飛ぶと、大事になるから、この場で浮くだけでも良いかい?」

「ああぁ別にそれで構わん」


人間が宙に浮く事は無理だ。何かしらの機械を使うなら話は別だが、この場にはそれらしきモノはない。


「言ったね」


そう言うと、フワッといとも簡単に浮いてみせた。

さっきまで、見下ろしていた視線が、一瞬にして見上げる視線になった。


「これで信じてくれるかい?」


え? どういう事?

これは何かトリックがあるハズだ。


自称サンタの周りを、見回ったり、手を振り回してみる。

が、糸で吊るしてる訳でもなく、立体映像を投影している訳でもない。

正真正銘、コイツは浮いている。

試しに、コイツを殴ってみるか。


「いった! なぜ殴る!?」

「お前が、本物かどうかの確認だ」


殴った時の感覚は、完全に本物。

人形を使っているみたいではない。


「あ、他にもこんな事もできるぜ」


そう言うと、自称サンタは何事もなかったように地に足を降ろした。

そして、近くにあった壁に、粘土に突っ込むようにドブッと手を突っ込むと、壁の一部をもぎ取った。

それを下投げで、上に放り投げると、口から炎を吐き出し、跡形もなく燃やしつくした。


「どう? 信じてくれる?」


自称サンタは、ニコッと笑顔をする。

あんな人間離れしたことを、容易くされた後に笑顔で応じられても、恐怖しかない。

ただ、超人的なことができることが証明された。


「分かった。少なくとも君が超人的な事が出来ることは、信じてあげよう」

「ありゃ、サンタであることは、信じてくれないのかい? まぁ良いや。早速だけど、本題に入るね。僕は、君に用があるのだよ」

「そう言えば、俺に用があるって言ってたな。その用とは?」

「僕の仕事は、子供達にプレゼントを渡すこと。けど、今回は君にプレゼントを渡すことなのさ」

「なるほど。それで、俺に用があると」

「そうそう。それで、今回のプレゼントなんだけど」


コイツには、まだ嘘くそさがあるが、超人的な事ができるヤツからのプレゼントとなると、少し期待してしまう。

力の譲渡や、開発、もしくはそれ以上の。


「好きな結衣ちゃんと付き合える可能性をプレゼントしよう」


…は?

コイツは何を言っている?


「結衣ちゃんの事が好きなんだろ?」

「べ、別に」

「本当に~」


結衣とは、幼馴染みで、いつも一緒に登下校する仲だが。

いや、そんな事今はどうでも良い。


「だから、俺は別に」

「あぁ~君面倒なタイプか。じゃあ、『友達』の結衣ちゃんと付き合える可能性をプレゼントで良い?」

「最初からそうしろよ」


俺は何に対してムキになっているのか。


「話をまとめると、君と…『友達である』結衣ちゃんが付き合えるように、僕がサポートしてあげるという事。期間は今日からクリスマスイブまで。勿論、結果は君次第だよ」

「なるほど」

「じゃあ、ここで話していると、遅刻するから、話しながら行こうか」

「分かった…いや、ちょっと待て。その格好で行くつもりか?」

「え? 何か問題でも?」

「問題しかない」

「分かった分かった。透明化するよ」


自称サンタは、左手で指パッチをする。

……?

何か変わった様子はないが。


「おい、何も変わってないじゃないか」

「君にだけ見えるようにしてるからさ。後、僕の声もついでに、君にしか聞こえないよううにしたし、君が僕に話しかけている間は、他の人から見ると普通にしているように見えるし、声も大丈夫にしておいた」

「何でもありかよ」

「サンタだから」


……。




「まず、結衣ちゃんからの好感度だけど、現状0だよ」

「0!?」


いやいや、コイツは何を言ってる?


「当然でしょ。ただの幼馴染みという関係なんだし」

「一緒に登下校してるんだぞ」

「家が近くだからね~」

「一緒にテスト勉強してる」

「その方が、効率良いからね~」

「一緒に遊びに行ったり、泊まったこともある」

「友達同士、普通の事だね~」


徐々に、自分がヒートアップしているのが分かる。

けど、止まらない。


「スキンシップも普通にしてる」

「えっそれはキモイな。というか、ちょっと落ち着きなよ。熱くなるのも分かるが、冷静になってみな。君達の関係は単なる友達。それに幼馴染みという、プラスアルファーが付くことによって、ある程度の許容量ができ、許されてるだけ」


確かに。


「単なる友達関係で、君がさっき言ったことをしてみな。過程はどうあれ、心の距離が離れる事があっても、絶対に縮まらないよ」

「なぜだよ」

「好意が丸見えだからだよ。これを下心とも言うね。そんなヤツが、自分のスペース、パーソナルスペースに入ってきてみなよ。拒絶したくなるだろ?」

「た、確かに」

「勿論例外はあるよ。相手も好意がある場合。それと、そういう事しても下心が見えない人、もしくはない人だね。まぁこういう人は逆に、どれだけ好意を寄せても気付かれないだろうね」


コイツが言っている事はだいたい分かるが、いまいちピンとこない。


「具体例を出してくれ」

「そうだねぇ。君のクラスのヤツで説明しようか。顔は良いのにもてないA君と周りに異性の友達いるけどもてないないB君。A君は、何かあれば女性に声を掛けている。そしていつの間にかスキンシップを繰り返し、急にアタックして撃沈。けどA君的には、ちょっとした事をプラスに考えてしまっただけ。しかし、それは勿論勘違いであり、その勘違いが、更に勘違いを生んで、更に勘違いをする。それは螺旋階段を下りるようにどんどん落ちて行く。そして気がつけば好きになっている。けど、それを認めれない心の弱さと焦りが相まって、ここから好きになった、アピールしていると定義付ける。その定義を元に、恋の戦略を練りアタックしたが撃沈。相手的には、驚きと動揺。あ、勿論マイナスの意味でね。だって全てはA君の中の物語。アタックされた方には関係ない物語。だから、告白されても、答えはノーという訳さ。今君が辿っているルートはこれだね。勿論、君とA君は違うから少し違うけど、分かりやすいだろ?」


そうなのか。

後、A君、ゴメン。

名前は伏せられているが、俺の席の隣の藤田であることが、モロバレだ。

お前の知らないところで、お前の心の声、全部知ってしまった、ゴメン。


「もう一方、つまり例外の場合であり、君がそうだと思い込んでいるB君ルート。優しいB君に、周りの人が男女関係なく集まるみたいだね。集まった友達には、平等に接するから、異性も平等である。だから周りから見れば、仲の良い友達がスキンシップをしても変に見えないし、本人達も変とは思っていない。勿論、好きな子の前でも普通にしているね。けど内心はかなり動揺している。それを隠す為に、あの手この手と策を弄する。その結果、鉄壁のカモフラージュの完成。けどそんな状態で恋の駆け引きをするから、当然失敗。だから全力でアピールをする。けど伝わらない。鉄壁のカモフラージュがあるからね。そして想いが伝わってないのに、突っ走って撃沈。相手は、ただただ驚きだね。どれだけ、本気で好きであっても、どれだけ想いが強くても伝わらない。友達以上になれない。まぁこの場合、優しさだけっていうのがダメかな。優しさだけでは、好きになって貰えないね。ちなみに、B君は斎藤君な」


そういうものなのか。

というか、斎藤の事だったのか、全然気付かんかった。

そういえばコイツも確か、俺の隣の席だったような。

つまり、両側に見本となるヤツがいたのか。


「ここまで、聞いといて悪いが、どうすれば良いのか分らん」

「そりゃそうだろ。まだアドバイスしてないし」


…確かに。


「じゃあ学校に着いたし、放課後にまた話の続きを」


自称サンタは、そう言うとスゥーと消えた。

いきなり、サンタとやらが現れ、恋のキューピットみたいな事をするとほざき、講義を始め、消える。

この先、おもいやられるな…。






キーンコーンカーンコーン。

放課後になった。

部活に行くヤツ。帰るヤツ。教室に残るヤツ。

各々、放課後の目的に合わせ場所を移動する。


さて、帰るか。


「お疲れ~。じゃあ、早速始めるとしますか」

「わぁ!?」


コイツの存在を完全に忘れてた。

存在を自由自在に操れるのだったな。

というか、急にこんな大声出したのに、周りは無関心かよ。


「ほら、僕に話しかけている間は」

「普通に見える上に、声も問題にならないのだったっけ」

「そうそう」


何でもありサンタに助けられるとは。

まぁ元々は、このサンタのせいだけど。


「それで、俺はどうすれば良い?」

「一緒に帰るように誘う」

「……それだけ?」

「それだけ」


は?

ふざけるなよ。それでは、今まで通りではないか。


「冗談、冗談。やる事は、下校する際に、一緒に帰るように誘うだけだけど、それに意味があるのだよ」

「意味?」

「今までは、何となく一緒に帰っていたのを、君からか誘うという明確な状態にすることによって、結衣ちゃんの心境に変化を生ませるのさ」

「なるほど、確かに俺から誘ったことなかったような気がする」

「更に、会話をする際は、聞き上手に回ること。自分のことばかり話されても、楽しくないからね。それを今後2週間続けること」

「ちょと待て。その間、他に何もしないのかよ」

「そうだよ。好感度0だからと言いって、焦っても良い結果は生まない。恋は根気が必要なのだよ」

「そうか。ひとまずは、お前の言う通りに動こう」


俺は早速、結衣の元に行き、一緒に帰らないかという誘いをしてみた。

男性陣はおぉーと盛り上がり、女性陣もキャーと盛り上がり、両者から冷やかしの声が飛んできたが、俺は結衣を強引に引っ張り連れ出した。

その後、少し気まずい空気が流れたが、何とか話題を提供しつつ、聞き役に回った。






2週間が経った。

町は、明日のクリスマスに向けて、街路樹は華やかになり、活気づいていた。

俺はその後も、自称サンタの言っていたことを守った。

最初は、周りから冷やかしの声が飛んできたが、次第になくなり、俺が誘うのが普通になっていった。

会話に関しては、下校中だけでなく、登校時などの2人っきりの会話は、徹底して聞き役に回った。




そして遂に明日がクリスマス。

アイツとも今日でお別れか。


「明日はクリスマスですね」

「そうだな。どう考えても、明日告ってもうまく行く気がしないのだが」

「する、しないは君の自由だよ。僕はあくまでサポートさ」

「ふっ確か、そういう『プレゼント』だったな」

「えぇ」


自称サンタは、ニコッと笑う。

全く、迷惑なサンタだったな。まぁ成功したら、何かしてあげるか。

勇気がでなかった言葉を、伝えられなかった言葉を、コイツのおかげで伝えることが出来るのだから。


「じゃあ、行ってくる」

「良い結果を待ってますよ」

「おう!」


玄関の扉を勢いよく開けた。

眩しいほどの太陽の光が差し込む。

新しい一歩を踏み出すことを、まるで世界が祝福しているようだ。

俺は今日、想いを彼女に伝える。

怖がらず、畏れず、きちんと伝えるんだ。






ニヤッ……。






「なるほど。この世界の秩序とやらは、複雑だな」

「えぇそのようで」


群青色のスーツを着た男は、革でできた大男もが座れそうな回転椅子を180度させながら言った。

それに対し、先程、告白する為に出かける男子を見送った男が答える。


「なぜ、この様な実験を?」

「……」

「おっと。あまり、こういう事に詮索しないのが、長い生きするコツでしたね」

「…物事の因果関係はだいたい分かった。けど完璧ではない。そこで私は、人間の感情に答え、もしくはヒントがあるのではと思った。まぁ結果は見ての通りだけどな」

「なるほど」

「それより、なぜ君が今回の実験の手伝いを? 君のような聡明な男が、私に消される可能性を背負ってまで」

「あなたと同じような理由ですよ。ですので、成功の暁には、僕の依頼も引き受けてほしいのですよ」

「そうなのか…。分かった、引き受けよう。君が生きていれば」


スーツの男は、懐から拳銃を目にもとまらぬ速さで抜き、銃声を2発轟かせた。


「グハッ……な、なぜ?」

「君にはまだ言ってなかったね。複数の人間の願いを叶えてくれる程、あまくないのだよ、世界は。例え同じ願いであっても」

「そ、そんな……ふざ、けるな」

「アイツなら、そんなあまい事でも何とかしようとするだろうな」

「僕は、か、のじょ、を…たす……け、るん……だ」


男は、崩れるようにその場に倒れた。


「…助けたくても、力がなければ意味がないんだよ。どんだけ想いが強くても、誰かを助ける為には力が必要なんだよ」


スーツの男は机の引き出しから、一つの写真立てを取り出した。


「時間が掛ろうとも、私は助け出す……きっと」


スーツの男の頬には、一筋の涙が流れていた。



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