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第七十五話 負気溜り

「ぬぅっ、斬れない」


 液状、とは少し違うような気もするが、斬り込んだ刃は僅かな手応えを残しつつも、負気溜りを擦り抜ける。

 思わず呻いた宗泰を尻目に、朱鷺はスパスパと斬り分けて行った。


「斬れないって、どういう事?」


 彼女には、斬れないと言う事の方が理解出来ないらしい。


「刃は入るが、擦り抜けてしまう。……そもそも君はどうやって斬っているんだ?」


 同じように斬り込んでいるが、朱鷺が斬った部分は確実に分断され、宗泰が斬った部分は変化を見せない。


「斬るという意思が足りないのよ。さっきも言ったでしょう?」


 聞いた。

 だが、あれは堅くて斬れない物を斬る方法で、雲を斬るような方法では無かったはずだ。

 いやしかし、朱鷺は確かに負気溜りを斬り刻んでいる。


「斬っ!」


 神気を込め、声を上げながら斬り付ける。

 今度こそ切れ目が入ったが、埋められて元に戻る。


「それは神気で相殺しているだけ。断ち斬るという強い意志を持って、相手に斬られたって思い込ませるの。基本でしょ?」


 ふむ、成る程。

 解らん。


 そんな基本は初めて聞いた。

 というか、思い込ませる?

 斬るという行為はそういう物だっただろうか?


 朱鷺は類い希なる才能と膨大な霊力を持っているが、天才故、人に教えるという事を苦手としている。

 いや、本人は苦手と思っていないかも知れないが、彼女の技術を継承出来た者は一人もいない。


「負気で相殺していたら()たないでしょ。斬るの。斬って」


 そう、これだけの負気を祓い清める事は不可能だ。

 町への侵入を防ぐには、ここで斬り刻み続けて、流れを止めるしか無い。


 宗泰は大刀を正眼に構え、ただ、斬るという意識を固めた。


「斬っ!」


 断ち斬れろ!


 手応えは、最初と変わらない。

 だが、斬り込んだその境目から、負気溜りが断ち斬れ、離れていく。


「そうそう。そんな感じで」


 朱鷺は横目で見ながら、変わらずスパスパと斬り飛ばしている。


「何となく解った」


 確かに言葉で説明するのは難しいが、相手に斬られたと納得させれば、斬れるような気がする。


 負気に意識が有るとは思えないがな。


「斬っ! 斬っ! 斬っ!」


 気合いを込め、負気に斬り付ける。


 やっと自分も役に立てるように成りはしたが、ここまで、既に大分押し込まれている。

 坂の下から広場の中程まで、角切りになった負気がそこかしこに散らばり、黒い靄を放っていた。

 埋め尽くされるのは、時間の問題だ。

 それに、角切り一つ一つが普通の負気溜りと同じくらいの負気を有しているように思える。

 つまり、放っておけば、いずれ小鬼が湧く。


 時間稼ぎとして負気を斬り分けているが、これで稼げる時間は、そう長くない。


 早く、増援が来ないと拙い。




 現状報告を纏め、山吹は赤壁亭に向けて文を飛ばした。


 丙丁種の隠密に来て貰うという話だったが、既に来ていただいたとしても、対応出来る状況では無いと思う。

 ある程度の霊力を有していれば、また、降神できる隠密であれば、あの斬り飛ばされた一欠片ぐらいは相殺出来るかも知れない。

 だが、その欠片が既に十や二十ではすまない数になっていた。

 最早、それらから湧き出す負気ですら、祓いも清めも難しい。


 このままではいずれ、巨大な負気溜り成ってしまうのは間違い無い。




 負気溜りを斬り飛ばしている本人、朱鷺も似たような事を考えていた。

 違いがあるとすれば、彼女はもう既に、この場所は負気溜りになってしまったと認識している点。

 負気溜りが”負気の集まり、またはそれの在る場所”と考えるなら、確かにここは負気溜りで間違い無い。


 これ以上の南下を防ぐ為、ここで止めてしまったが、いっそ素通りさせてしまった方が良かっただろうか?

 いや、山津へ向かわず町に流れ込む可能性も有るし、街道沿いに進んだとして、一気に負気を撒き散らし始めた場合、広範囲がその影響下に沈む事になる。

 現在の対応が最良とは思えないが、他は無い。


 町からは三番目の集団が山津へ向かって動き始めていたが、このままでは、第四団が出る頃には、広場は負気で埋もれてしまう。

 ならば、避難自体も困難か。


 ふと振り返ると、避難する町民の中に、息子たちと大浦屋の母娘が見えた。


 良かったと、感じてしまう自分は、やはりもう皇儀の隠密では無いのかも知れない。


 その一瞬。

 しかし、油断していた訳ではない。


 強烈な一撃を受け、朱鷺は吹き飛ばされた。


「っ!?」


 気配が無かった、というのは少し違う。

 目の前の、濃厚な負気溜りの中から攻撃を受けたのだ。

 それを、辛うじて紙で受けたが、支えきれずに吹き飛ばされた。


「朱鷺っ!?」


 攻撃を受けた朱鷺よりも、傍に居た宗泰の方が驚愕していた。


「前を見てっ!」


 空中でクルリと回転しながら、朱鷺が叫ぶ。


 ハッとして向き直る宗泰の視線の先で、負気溜りから、ズルリと人型が姿を現した。


「土龍槍っ!」


 咄嗟に刀を地面に突き立て、技を放つ。

 効かないとは解っていた。


 地面から飛び出た土の杭は、人型の負気の腹に突き刺さり、直後に崩れさった。


 一応、刺さる?

 先ほどの大鬼よりマシなのか、いや、効いていない事に変わりは無いか。


 ヲ……オオオオオオォッ!


 人型が、叫びを上げる。


 角も無く、単純に人の形をした負気溜りかと思ったが、それは確かに実体を持っているらしい。


「斬っ!」


 姿勢を低くして、それの左足を薙ぎ払う。

 ドッという手応えは、僅かに遅れてあった。


 人型をした液状の負気溜りの中に、何かが居る。


 確信を持って、宗泰はそのまま刀を振りきった。

 ボロリと、土で出来た刃が崩れる。


「な!? これはっ」


 刃に込められた神気が、負気に負けた。

 つまり、斬り付けた相手は、液状の負気溜りよりも、先ほど戦った鬼よりも強い負気を持っている。


 アアアアァッ!


 叫びながら手を叩き付けてくる、それを跳び退いて回避しながら、改めて相手の姿を観察した。


 ズングリとした、八尺程度の黒い人型の負気溜り。

 目鼻は無く、口だけが大きく開いているが、その中は暗くてよく見えない。

 宗泰が斬り付けた所は、既に塞がっていて損傷を与えたようには感じられなかった。


 今度こそ、特級鬼と言っても良いのでは無いか?

 残念ながら、勝てる気がしない。


 だが、そんな宗泰の弱気を他所に、体勢を立て直した朱鷺が一気に斬り掛かる。


「せいっ!」


 掴み掛かるように右手を伸ばしてきた、その攻撃を掻い潜ると同時に斬り付ける。

 宗泰の予想に反し、ポンッと黒い腕が跳ね飛んだ。


「馬鹿なっ!?」


 いくら何でも無茶苦茶すぎる。


「はっ!」


 掛け声を一つに、三つの斬撃を叩き込んで、朱鷺は距離を取った。


「何故斬れる」


 本日三度目の、同じ疑問。

 神気で作った土の刃ですら、傷つけられないどころか、逆に崩れ去ったのに。


「またそれ?」


 呆れたように言う朱鷺の、その手に握られた大太刀には刃毀れ一つ無い。

 相手は両腕を失い、片膝を着いていた。  


「霊力差がありすぎて、斬り付けたら逆に刃が崩れた」


 宗泰の自分の現状を話す。

 かつて、逆はあった。

 跳び掛かってきた小鬼の爪が、自分の神気で砕けた事が、何度かある。

 つまり、その時の小鬼と自分との差が、今の自分と奴との差なのではないか。

 宗泰はそう考えたいた。


「普段から神気に頼ってるからそんな事に……」


 朱鷺は言葉の途中でスッと体を沈め、鬼の攻撃を回避すると同時に反撃する。

 幸い、敵の動きはそれ程速くない。


 再生速度だけは異常に速いが、それでも朱鷺に任せておけば良いように思えた。

 何より、役に立たないからといって、のんびり見学していられるほどの余裕は無い。

 液状の負気溜りは更に流れ込み、形を崩して左右に広がり始めた。

 同時に、角切りにした負気溜りを飲み込んでいく。


 宗泰は咄嗟に祓い札を放とうとするが、ここで拡散させても意味は無い。

 改めて、攻撃用の札束を取り出した。


 自分の神気を消費する技よりも、術で削っていった方が効率的だ。

 そう長くは保たないとしても。


 宗泰は有りっ丈の術札を使用し、負気溜りに放っていった。




 新たな鬼らしきものの出現に、山吹は一瞬息を呑んだが、即座に反撃に転じた朱鷺を見て胸をなで下ろす。

 だが、安心してばかりも居られない。

 すぐに状況を紙に(したた)め、文に変えて飛ばす。


 その間に宗泰は術札による攻撃に転じていた。

 山吹も、それならば手助け出来るのでは無いかと考える。

 力の強い鬼には手も足も出ないだろうが、負気溜りに術を放つくらいなら問題ない。

 祓い札は大量に消費したが、攻撃用は大分余っている。


 山吹は一度振り返って周りを確認し、札束を取り出して駆け出した。

 そのまま立て続けに術を放つ。


「雷火! 風刃!」


 迫り来る黒い固まりに、雷と風の刃が突き刺さる。

 しかし、それは直後に掻き消えた。


「え……?」


 極僅かに負気を削りはしたが、見た目には変化が無い。


「山吹っ! 無理をするな!」


 宗泰が叫ぶ。

 彼が放つ術も、殆ど効果を発揮していないように見えた。


 背筋に冷たい汗が流れる。

 この程度なら手伝えると、そう思った事ですら、とても手には負えない。

 余りの事に、山吹は立ちすくんでしまった。


「山吹ぃーっ!」


 直後に宗泰の声がすぐ近くで響き、ドンッと突き飛ばされ、地に転がる。

 何が起きたのか解らない。顔を上げると目の前に宗泰がいて、考える間もなく抱え上げられた。




 四方に負気があり、敵の気配が読みにくい。

 そんな中でも、朱鷺はそれに気付いた。

 液状の負気溜りから、目の前に居る鬼と同じくらいの何かが吐き出される。


 跳び下がり、距離を取りつつ視界の隅でそちらを窺う。

 そこで、山吹を庇った宗泰が、吹き飛ばされているのが見えた。


 拙い。

 自分は咄嗟に防いでいたが、宗泰はまともに脇腹に打撃を受けている。

 それでも体勢を立て直し、山吹を抱き起こしたが、そのまま大きく跳び下がっていった。


 畢竟(ひつきよう)、自分一人で、これら二匹を相手取る事になる。

 それよりもなによりも、これらはまだ他にも湧いて出てくる可能性があるらしい。


 ゴクリと唾を飲み込んだ。

 この感覚は初めてだ。

 純粋に、単純に、勝てないと思えた。


 自分一人、死なないように逃げる事は出来るが、恐らくそれしか出来ない。


「くっ……」


 柄にも無く小さく呻き、跳び掛かるようにして新たに出た鬼の足首を斬り飛ばす。


 オゥオオッ!


 鬼は叫び、体勢を崩すが、それだけだ。

 手を着き、体を起こす頃には足首が生えてくる。

 その後ろで、液状の負気溜りが更に広場へと流れ込んできた。


 支えきれない。


「全員っ! 撤退っ!」


 朱鷺はできる限り大きな声で叫んだ。


 避難する町人はまだ門から出ている途中だ。

 それでも、だからこそ、撤退を訴えた。


 その言葉に驚きつつも、隊長は咄嗟に応える。


「撤退だっ! 撤退するぞっ!」


 だが、兵士たちは動揺した。

 そもそも、どちらへ、どのように撤退するのか打ち合わせすらしていない。

 それに、町民はどうするのか。


「右翼、そのまま町民を守りつつ山津方面へ移動。町が見える位置で待機。左翼、避難中止だっ! 町民を止めて門内へ入れ!」


 隊長は、あの鬼に襲われれば、町人も兵士も関係なく、即死だと理解している。

 距離を取るしか無いと判断し、指示を出した。


 突然の事に最も混乱したのは、当然ながら町人たちだった。

 既に門を出た者は、そのまま逃げるように促されるが、まだ中にいた三十人ほどが行くか戻るかで揉み合いになる。

 逃げるように言われた者ですら、このまま逃げて良いのか、町に戻ろうかと右往左往している。


 それぞれに兵士が張り付き、町と街道へ半ば無理矢理押しだした。


 既に山津方面へ移動を始めていた主政は、その騒ぎに振り返り、背伸びをするように様子を窺った。


「なんだ、何が起こった!?」


 誰へとも無い問い掛けに、誰も答えない。

 その位置から状況を理解出来た人間は一人もいない。


「主政様。振り返らず、前へお進みください」


 唄太は厳しい表情を浮かべながら、主政の腕を掴む。

 本来ならば無礼な行いではあるが、それを気にする余裕は無い。


「だが、あれは何が起こっているのだ!」

「判りません! ですが、立ち止まるのが一番の悪手です」


 怒鳴るように言われ、つい声を大きくして返してしまう。

 何が起こっているかなど唄太にも判らない。だが状況が悪化したのは確かだろう。


「後ろを見て参ります」

「馬鹿っ! 行くな! 貴様は儂の護衛だろう!?」


 避難する町人の護衛であるという建前すら、主政は早速忘れてしまっているらしい。


「逃げるぞっ! 貴様等、何をボサボサしている! さっさと進め!」


 自分も立ち止まっていた事を棚に上げて怒鳴りつける、こんな男の命令を守らなくては成らないのだろうか?

 唄太の脳裏に疑問が湧くが、兵士たる者、それを自分で判断してはならない。

 最後尾に付いている筈の部下たち、広場に残った仲間たち、そして山吹たちの事が気に掛かる。

 その思いを振り払うように、唄太は再び前に進み始めた。




「宗泰さん!」

「名前を呼ぶな……」


 そういう宗泰自身、先ほど山吹の名前を叫んでいた。

 あれは、少なくとも隊長の耳には届いたはずだ。

 だが、そんな事を気にしている余裕は無かったのだろう。


()つっ」


 体を起こしつつ、宗泰が呻く。

 脇腹を、(もろ)に殴られた。


「神気で強化されてなければ、一撃で潰されていたな」


 甲種隠密ですら、一撃でこの有り様だ。

 やはり乙以下では戦闘に参加出来ない。


「腕の良い薬師が欲しいな」


 言いながら、朱鷺の様子を窺う。

 彼女は素早く前後左右に跳びながら、果敢に二匹の鬼に斬り掛かっていた。


「甲の字っ!」


 不意に背後から声が掛かる。

 その呼び方をするという事は、町の隠密だ。


「紙屋の」


 駆け寄ってきたのは、朱鷺の義妹にあたる紙屋の和歌子。

 その手には布包みを抱えていた。


「傷を見せてください」

「おいおい、薬師の真似事か」


 丁度、薬師が欲しいとは言ったが。


「斬り傷では無く、打撲だ。神気で何とかする。お前たちは距離を取りながら……」


 負気は濃さを増していた。

 もう、少しくらいの祓いや清めは意味を成さないだろう。


「増援が来るまで、防御に徹してくれ」


 防御と言っても、何もできる事は無さそうだ。

 それよりも、この状況、山津からの援軍が来ても好転しそうに思えない。


 甲種隠密でも倒せない相手が、特級鬼。


「成る程な」


 改めてその意味を噛み締めながら、宗泰は鬼に向かって歩き出した。




「ふぅぅー」


 朱鷺は深く息を吐いた。

 疲れている訳では無い。

 神気にはまだ十分余裕があり、肉体的疲労は回復出来る。

 ただ、精神的にはちょっと苦しい。


 判断は宗泰と同じ。

 山津からの増援があっても、この量の負気は処理出来ない。

 更なる問題が、目の前の鬼だ。

 面と向かって「弱い」と言い切るが、朱鷺は宗泰の強さを十分理解している。

 その宗泰をして、役に立たないほど、敵が強いのだ。

 圧倒的な霊力差を何とかしなければ、バラして弱体化させる事すら出来ない。

 そもそも、鬼は恐らく、背後の負気溜りから負気を得ている。

 だからこその驚異的な回復力。

 必死になって手首を斬り飛ばした所で、先ほどまでの負気溜りを斬り刻んでいた時と、さして成果は変わらない。


 朱鷺は斬る事ができているが、このままでは事態の好転は有り得ない。


「更に、か」


 ズブリと、三匹目が負気溜りから姿を現した。


 チラリと背後窺えば、宗泰がこちらへ歩いてくる。

 更にその向こう、和歌子の姿が見えた。


 彼女には、もしもの時の事をお願いしてあったはずだ。

 清彦を逃がしてと、頼むのは間違っているだろうか? 


 そんな事を考える、自分対して失笑する。


 自分をとか、自分の家族をとか、身内ばかり優先する連中を、若い頃の朱鷺はあまりよく思っていなかった。


「歳を取ったわね」


 大切な人に出会ってしまった。

 大切な物を手に入れてしまった。


 かつて、大切な物を手に入れる(たび)、人は弱くなると言った人と、強くなれると言った人が居た。

 果たして、自分はどちらだったのだろうか?


 ヒョイヒョイと攻撃を掻い潜り、サクサクと斬りかかる。


「手を貸そうか?」

「死なないならどうぞ」


 流石に三匹目が加わると、振り返る余裕も無い。


「死なない、か。流石にちょっと自信が無いな」


 思えば、宗泰は偶に弱気な発言をする事があった。

 それが嫌で襤褸糞(ぼろくそ)(なじ)ったりもした。


「そう言えば、娘さんが居ましたね」

「ああ」


 応えながら、ひょいと敵の攻撃を避ける。

 宗泰も、早さでは劣らない。


「今の台詞を聞かれても、恥ずかしくないの?」

「いや、それは恥ずかしい、というか、そうだな……」


 ニヤリと、笑う。


「聞かせられんな!」


 宗泰の斬撃が、鬼の小手を斬り飛ばした。


「おお、出来るじゃない」

「ははっ。死ぬ気になればとも言うが、生きる気になれば出来るもんだな」

「上出来上出来」


 こんな時に、軽口が(こぼ)れ出る。


「そういや、その娘が、今度、結婚するんだよ」

「へぇ、早いわね」

「本当に、全くだ」

「相手は?」

「山津の高峯の養い子。知ってるか?」

「いえ、長らく付き合いが無かったから」

「なかなか良い男だよ」

「舅に気に入られる婿とは、珍しい」

「はっ、確かにそうだ」


 笑いながら、回避と斬撃を繰り返す。

 何ら事態は好転しない。

 それどころか、斬り飛ばされた残骸からも、濃厚な負気が立ち上り始める。


「……あの子たちにも、仕事が出来そうね」


 最早(もはや)広場全体を埋め尽くす大小の負気溜りから、ゆっくりと小鬼が湧き始めた。

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