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第五十三話 天真

「結局、あの村の連中がどこから来たのか、見当は付かなかったのかい?」


 一人の技術官が、先頭を歩く男に問い掛けた。

 男はチラリと振り返る。

 その視線は疑問を投げかけてきた相手ではなく、その遙か向こう、ぼろ家の窓から漏れる小さな明かりと、人影に向けられていた。


「そうですね。東国ではないのは確実です、中央でも無い。西国かと思っていますが、今のところ確証はありません」


 男は歩く速度を少し落とし、問い掛けてきた技術官の横に並ぶようにして答えた。


「あなた方でも判らないとは、そんなに難しい事なのか」

「……恐れ入ります」


 それは答えでは無く、謝罪でも無い返答。

 暫く考えるように目を閉じ、改めて口を開く。


「村長は、ある程度身分の高い人間かと思っていましたが、彼らが姿を見せた頃に滅びた公家、国司辺りに、該当者はいませんでした」


 それは数年前に聞いた報告と同じだった。

 つまり、その後、調査の進展は無かったというのか。


「調査範囲を東国の郷司まで下げましたが、該当無し。死亡したとされた者達も一応調べましたが、同じくです」

「東国だけですか?」

「郷司まで確認できているのは、ですね。ただ、中央の人間はかなり厳密に追っ手が掛けられているので、生き残っている者はほぼ把握されています。北と南ではそれほど大きな入れ替わりは起こっていませんから、残る西国が一番怪しいかと」

「成る程」


 そう呟いて、技術官も振り帰ってみるが、彼の目には窓はおろか、村長の家すら満足に見えない。


「草の者と思われる人間が、数名います。お抱えの隠密が居るとなると、西国に拠点を持っていた東将軍軍閥(ぐんばつ)の郷司か、それなりの武士団でしょうが、特定できていません」

「そこまで判っていて?」

「まあ、そういう事です」


 技術官は軽く頭を捻る。


「どういう事だ?」


 判らない事は、素直に聞いてみるのが吉だ。


「そうであろうと思われて、調べた中には居ないってことです」


 西国でありながら東将軍側に付き、壊滅的打撃を受けて東国へ逃げ込んだが、誰からも助けて貰えなかった者達。

 それが一番可能性が高いと思われていた。

 しかし、そういう集団が、生きて東国まで逃げ込める事自体稀である。


「つまり、我々が間違いなく皆殺しにされたと判断している集団か、或いは現在も存続している集団から、人知れず離反した者たちか」

「はぁ」

「喋り方からも判断出来ませんでしたし、ひょっとすると複数の流浪民が集まったのかも知れませんね」

「そんな事もあるのか」


 男はフッと笑って答える。


「判りませんよ。それは有り得ない、そう思えるからこそ、有り得るのかも知れません」

「ふーん、成る程ねぇ」


 二度目の成る程を唱え、よく解らないと言う事を、納得した。


「何にせよ、我々に害が無ければそれで良いよ」

「まぁ、そうですね」


 小さく笑って応え、会話は終わったとばかりに、男は少し足を速め元の位置へと戻っていった。




 大水蛙が出没する馬掛道は、概ね極楽川に沿って、山津から極楽谷へと続いている。

 一般的には湯川道の裏道、という事になっていた。

 ただ、直線的な距離では湯川道より近いが、利用する者は少ない。


 極楽川には奇岩巨岩が多く、その所為で道も曲がりくねり、見通しが悪い。

 西が壁のような崖で、東は川まで落差三間というような場所が幾つもある。

 ”うまかけ”は”馬で駆ける”ではなく”馬に掛けられる”、つまり、出会い頭に馬に轢かれる道、という意味だ。

 数年前まで、鬼や亡者、そして霊獣が多く出て、元々少なかった村もかなり姿を消した。

 今ここを通るのは、余程の物好きか、川に関わる仕事をしている人たちか、急ぎで馬を走らせる者くらいだ。


 この道に、川から這い出た大水蛙が、極まれにウロウロしている事がある。

 今回、小鞠が目指すのはそれの捕獲であり、暫くは山津に留まって、大水蛙を見つける所から始めなければいけない。


 山津の町はその名が現す通り、湯川と極楽川の合流地点に出来た、水運の町であり、同時に、湯川道と馬掛道、そして、東へ抜ける峠越えの道の起点にもなる、陸路の要衝でもあった。


 現在、山津の隠密の拠点は、主に荷車での陸運を司る、野越(のごし)屋に置かれている。




「実は湯川の弁柄殿から文が届いていてな」


 山津付きの隠密、平八が妙にニヤニヤした顔で言った。


「はあ」


 任務については既に聞いている、と言う風では無い。

 スケベの平八の呼び名に違わない、嫌な笑いだ。


「では詳細は既にご存じですね。明日から馬掛道へ大水蛙の探索に出ます。また暫くご厄介になりますが、よしなに」


 小鞠は敢えて気が付かないフリをして、一礼する。

 頭の中では、さて、簡単に済んだので舟屋へ顔を出しに行こう、などと考えていた。


「では、失礼致します」

「まあ待て」


 とっとと退出しようとする小鞠を、片手をあげて制する。


「そう急ぐな、高峯の奴もそろそろ来る」

「はい?」


 予想外な言葉に、思わず聞き返す。


「高峯の養子と、良い事に成ったのだろう? ちょいと詳しく聞かせてくれ。それと、飯はまだだろう? 用意させてある、ゆっくりしていけ」


 小鞠は小さく呻いて、平八を睨む。

 そろそろ初老に差し掛かろうというのに、このおっさんの悪戯っ子の様な感じは、昔、遊んで貰っていた時のまま、何時までも変わらない。


「まだ何も良い事には成ってません。近い内に唄太が高峯さんと話をしてくれるそうですので、その後です」

「ほう、その後、良い事をするのか。いやぁ、小鞠も大人になったもんだなぁ」 


 がっはっはっと大口を開けて笑う。

 宵の口から既に酔っ払っているのだろうか。

 悪い人物では無いのだが、こういう時はあまり相手をしたくない。

 しかし、舟屋の高峯が来るというなら、退席する訳には行かないだろう。


「おーい。膳を頼む」

「はっ」


 平八の声に、襖の向こうで誰かが応える。

 食事の用意がしてあるというのは本当らしい。

 小鞠は多少(わざ)とらしく大きな溜息を吐き、姿勢を正した。


「文は、緊急の事、重要な案件に使われる物では無かったですか? 私個人の情報になど……」

「何を言う、一大事では無いか。お前なら引く手数多(あまた)だろうに、まさか高峯の所の唄太とは」


 大声で言葉を遮る平八に、小鞠もイラッとする。


「唄太の、何が不満ですか。私が唄太の元へ嫁いだら、何の一大事だとう言うのです?」


 父よりも更に年上の男性に対し、睨み付けるように言い返す。


「美湯の国の土御門(すじ)は、お前の所しか無い。嫁に行かれれば途絶えるし、婿を取るにしても、年の若い、力の強い男を選ぶと思っていた」


 随分と勝手な言い分である。


「血筋の事は気にもしていません。必要なら中央から来ていただけば宜しいのでは?」

「こんな田舎にゃあ来てくれんよ」


 土御門の苗字を名乗るのは、古くから神祇官を務める卜部の宿禰の(すえ)

 大内裏の北東、俗に土御門と呼ばれる(つちのえ)門の外に屋敷を構えた一族で、初期の皇儀隠密に深く関わっている。

 小鞠のように、今となってはあまり意味は無いと考える者もいるが、その名、その血筋に(こだわ)る人間も、未だに多い。


「実際、あれはどうなんだ。隠密として」


 平八は身を乗り出すようにして問い掛ける。

 この地の隠密として、気に成る所ではあるのだろう、それは解る。

 解るが、唄太をあれ呼ばわりされるのは気に食わない。


「どうと言われても、何とも。そもそも、隠密の事はまだ何も話してません。それも、高峯さんのご判断を仰いでからです」

「おぉ……、そうなのか」

「そうなのです」


 澄まし顔で応えて、ツンと横を向く。

 たまたま、その方向から複数の足音が聞こえてきた。

 襖は閉ざされたまま、部屋の中へ声が掛けられる。


「宜しいでしょうか」

「おう。入れ」


 スッと、僅かに開いて女性が一礼する。


「お膳をお持ちしました。それと、高峯様がご到着です」

「おお、来たか。待ちわびたぞ」


 高峯の入室を待たずに、膳が並べられる。

 数は三人分。

 他の隠密たちが来るような事は無いらしい。


「まずは高峯の意見を聞いてみるとするか」


 高峯との話は、唄太がすることになっている。

 今日の所は内々に、報告だけをしたかったのだが。

 余計な事を言い出しそうな平八を見ながら、今度は気付かれないように、小さく溜息を吐いた。




 飴釜屋は温泉の株を持っており、家の裏に湯を引いている。

 ただ、源泉から離れているので、多少温度は下がっており、また、本来は湯ノ花を採る為に引いているので、湯は先ず土間の端にある湯釜に注がれる。

 そこで加熱され、(とい)を通って壁の向こう、湯殿(ゆどの)の中へと流れていく。


 普段は家の主人か、客分である大浦屋の旦那が一番風呂に入るのだが、二人が留守の場合、清彦、清次が先に入り、柘榴と花梨、そして清人が次に入る。

 両婦人は交代で最後を務め、湯船を洗うのがお決まりだった。


 男女七歳にして席を同じうせずと言われるが、今年七歳になったばかりの清人は、まだ柘榴たちと共に入って、体を洗って貰っている。

 だが、それを恥ずかしいと、そろそろ思い始めてきたようだった。

 兄たちのように一人で入ると言い出したが、洗って貰いなさいと、文字通り、放り込まれた。


「恥ずかしがる年頃ですかね」

「さあ、どうでしょう。寧ろ大人ぶりたいんじゃないでしょうかねぇ、あの子も」


 先日、父が旅立つ際に泣いたのを、後から清次にからかわれていた。

 その時に、「まだ女の子と一緒にお風呂に入っている」と言われたのを、気にしているのだろう。


「うちの娘たちは、今のところ恥ずかしがったりは無いけど」

「清人が相手だからでしょ。まぁ、花梨ちゃんは気にしないかも知れませんが、例えば清彦と柘榴ちゃんなら、互いに恥ずかしがると思いますよ」

「ああ、そうかもねぇ」


 土間の上がり框に腰を掛け、時子は大浦屋の婦人とお茶を飲んでいた。

 湯の注ぎ口から、湯殿に居る子供たちの声が聞こえてくる。

 カラリと、竈の薪が転がるのを見て、更に追い炊きするべきか、僅かに考える。


「あなた達、お湯加減どう? 薪を足しましょうか?」

「大丈夫です、ありがとうございます」


 僅かな隙間から覗き込むようにして、柘榴が応える。


「……しっかりして来ましたよね、柘榴ちゃんは」

「柘榴はねぇ。花梨の方はやんちゃで困りますよ。男の子だったら良いんでしょうけどね」

「花梨ちゃんがやんちゃなのは、うちの清次たちの所為じゃないかしら」

「なら、清人君が大人しい事に説明が付かないわ」

「あー……」

「逆なら良かったのにねぇ」

「確かに」


 そう言って、二人で笑い合った。

 明日には大浦屋の主人が帰ってくる予定になっている。

 女二人、のんびり出来るのも今日限りだ。


 時子はお茶のお代わり用意するついでに、小皿の上に飴を載せて出した。


「飴釜さんの飴は、いつも優しい味ですね」

「ありがとうございます。うちの主人の愛情が籠もっておりますから」


 自分も一欠片、口に入れようかとした時に、湯殿から声が掛かる。


「そろそろ上がりますー」

「はーい」


 それに応えて、立ち上がった。

 今日は時子が先に入る事になっている。


「ではすみません、お先に」

「はい、どうぞ」


 竈の番を任せ、明かりを持って自室へ向かう。

 狭い部屋だが、夫が居ないと広く感じるから不思議な物だ。

 時子は卓の上に置かれた鏡に自分の姿を写し、クルリと髪を纏めて簪で止める。


 ふと、鏡にほんの少しの曇りがあるような気がして、指で撫でた。


「長らく、手入れもしてませんでしたね」


 まるで鏡に話しかけるように呟くと、洗い置きの布を取り出し、その上に鏡を(うつぶ)せに寝かせて、背面をしげしげと眺める。


「主人が帰ってきたら、一度綺麗にしましょうね」


 優しく微笑みかけ、時子は湯殿に向かった。




 拝殿の前には篝火が二つ焚かれ、衛士の様な男が二人、所在なさげに立っていた。

 今朝方見た男たちとは、丸で雰囲気が違う。

 恐らく、衛士ですら無い。


 重蔵は鳥居の影から一旦さがり、下で待つ仲間にそれを伝えると、階段の途中から藪に飛び込むようにして左に回った。

 目的の、雲雀の家はそちらの方にある。


 神祇官たちの住まいは以前から確認していた。

 それ自体は特におかしな事も無い、強いて言えば、お社が北向きに建てられている事の方が、おかしいぐらいだった。

 ただ、今は一つの疑問がある。

 神祇官の数が、思っていたよりも、かなり多いのではないか。


 麓の村人に対して姿を見せない者が居るのは、解っていた。

 社務所や儀式殿に詰めているのだろう、秘密の社であるなら、それもおかしくはない。

 ただ、住まいに対して人数が多すぎるのは、どういう事だろうか。


 井戸の数、竈の数、厠の数、そして肥溜めの数。


 今思えば、村の規模に対して井戸はやや多い。

 竈は、各家庭の他、社務所や儀式殿にまである。

 そして、厠の数はともかく、肥溜めの数が、明らかに多い。


 つまり、普段からここには、自分たちが認識していたよりも多くの人間が住まいし、或いは活動していたのだ。


「他にも、家はあるのか?」


 重蔵は自問するように呟く。


 当然、お社がある位置より上には上がった事が無い。

 山の上の方に何かあるのだろうか?

 いや、それなら井戸もその他の物も、そこに作るはずだ。

 今更ながらに、この村の、お社の奇妙さが引っかかる。


 だが、もう、そんな事を気にしている時では無い。

 重蔵は前もって調べていた雲雀の家の、近くへ登れる斜面を探す。

 明かりは無いが、さして苦になるほどの坂でも無い。

 後ろの者たちに合図を送り、まずは一人で登ってみせる。


 すぐに建物の影に隠れ、耳を澄まし、辺りを窺う。

 この辺りに、見張りがいるような気配は無い。

 勿論、自分が気付けていない可能性も有るが、もしそうであるなら、最早どうしようも無い。

 ある種の諦めにも似た開き直りで、重蔵は目的の家に走り寄った。


 耳を押し当てるが、音は聞こえず、気配は無い。

 寝ているのか、留守なのか?

 重蔵は月明かりの向きを確かめて短刀を抜くと、戸の隙間に差し込み、(こじ)るようにして僅かに動かす。

 そうして出来た、髪の毛一本分の隙間から中を窺う。

 明かりは無く、中は真っ暗だ。

 それよりも、戸を動かした時の手応えが気になった。

 (つつか)え棒や落しの類いが掛かっておらず、つまり、開いている。


 振り返ると、後の者が斜面を上がってきていた。

 手振りで合図して、そこで待機させる。

 だが、その中から一人だけ、腰を(かが)めながら小走りに近付いてきた。

 こういう状況で指示に従ってくれないのは、非常に困る。しかし、それを言える相手ではない。


「居ますか?」


 問われて、重蔵は返答に困る。

 声を落としてはいるが、ここでは会話をすべきでは無い、僅かな物音ですら、立ててはいけないのだ。

 そうは思っても、もう遅いのだろう。

 観念して、耳元に話しかける。


「戸は開いていますが、寝ているのか、明かりはありません」


 留守の可能性も有るが、それを言う必要も無いだろう。


「僕が行くよ」


 ニヤッと笑った青年は、コソコソと戸に近付くと、ガラリと引き開けた。

 重蔵は一瞬、額に手を当て俯いたが、即座に気を取り直し、音も無く駆け寄って、戸の影から中の気配を探り始めた。


「こんばんは、いらっしゃいますか、雲雀さん」


 小声ではあるが、静寂の中、思いのほか大きく声が響く。

 それに反応するように、奥でゴソリと何かが動いた。

 暗がりの中よく見ると、土間の先に板戸が閉まっている。


「雲雀さん?」


 呼び掛けながら、その戸板に手を伸ばす。


「だれ?」


 応えたのは、雲雀では無かった。

 だが、知った声だ。


「木寅君? 僕だよ。下の村の、守貴だ」

「守貴さん?」

「ああ」


 返事をしながら、戸を開く。

 ここにも支え棒の類いは無い。驚くほど、不用心だ。


灯火(とうか)


 木寅の声に応え、枕元の手持ち行灯が急に光を放った。


「なっ!?」


 守貴も、外にいた重蔵も驚愕する。

 木寅は、火打ち石も、何も使わずに、声を掛けただけで明かりを灯した。

 少なくとも、彼らにはそう思えた。


「今、何をした?」

「え? 明かりを、点けました」


 それは解るが、どうやって点けたかが解らない。

 いや、しかし、今はそれに拘っている場合では無い。


「お姉さんは、雲雀さんはどうしたの?」


 部屋に雲雀の姿は無い、両親の姿もだ。


「今日は夜晩で、お社の方に泊まっています」


 夜番、というのがあるのか。


 守貴も雲雀の仕事の詳細は知らない。

 お社でお使いの様な事をしている、ぐらいに思っていた。


「お父さんとお母さんは?」


 口の軽い少年しかいないのは、ある意味好都合かも知れない。


「大きな実験があるので、湯山へ行くと言ってました」


 予想もしていなかった言葉に、疑問が湧き起こる。


「実験? お祭りじゃなくて?」


 だが、その質問に木寅は首を傾げる。


「よく、わかりません」


 どうする?

 どうしたら良い?

 守貴は自問する。


「君は……木寅君は、お社にある銀で出来た物を知っているかい?」

「銀? 銀の蔵?」


 ゾクリと背筋に何かが走った。

 それは、普段なら悪寒だろうが、今は、守貴の頭にゆっくりと熱を与え始める。


「銀の……蔵、があるんだね」


 声が震えそうになるのを、必死に堪える。


「うん」


 疑問を含んだ表情で、木寅が答える。

 それに気付いて、守貴は慌てた。

 ここで不審に思われては、台無しになりかねない。

 守貴は悟られないように、静かに深呼吸する。

 唾を飲み込み、言葉を探る。


「雲雀さんに会いたかったんだけど、どこに居るのかな。社務所の方かな?」

「ううん、お社の奥だよ」


 まるで、知らないの? とでも言う様に、木寅は答える。

 自分が、色々な事を知らないという事実を、知られるのは(まず)い気がした。

 いや、しかし、ここは敢えて知らないのだと打ち明けるべきだろうか。


「……ごめん、実はよく知らないんだ。教えてくれる?」


 木寅は視線を斜め上に逸らして、考える仕草を見せた。


「夜は、お社に入っちゃいけないって言われているから」


 案内は出来ないと言う事か。

 だが、その様に言うのなら。


「そうか。……でも、お姉さんはお社の中に居るんだね」

「うん。お社の奥の、洞窟の中」


 ピクリと、僅かに体が震えた。

 驚きの表情を隠せただろうか、最早、守貴には判らなくなってきた。


「そっか、解った、ありがとう」


 礼を言いながら、閃くように思い付いた。


「さっきの、銀の蔵って、それも洞窟の中かな?」

「うん」


 当然の事のように、木寅は頷いた。

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