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第二話 おにぎりやいたぞー

いらっしゃいませー


「二人は元気にしているだろうか……」

黒いフェドーラハットを深々と被り、サングラスで目元は全く見えす、黒のロングコートを着こなした怪しげな男。


その男が、料理屋ボンズの前を通った。

看板には「おどり はじめました」と書いてある。

「ほう、今日は踊り食いか。新鮮な魚でも入ったか……」

男が店の扉を開くと――



「いぇい!! いぇい!!」

ツイストを踊るチビッ子たち。

「なんでもかんでもみんーなー」

「べいべー!」

「おーどりをおどっているでちゅー」

「それそれ!」

「おなべのなかからぽわっとー」

「なにかな、なにかな」

「ハラペコラテっちどおーじょー」

「いぇーい!」




今日は店を素通りした。


 


『まてまてーー!!』


りゅうとラテっちは、その男のコートを引っ張り足止めする。


「とっつぁん。久しぶり」

「元気にしていたか、二人とも」

「うん!! げんきでちたー!!」

「もう立派な主と女将だな」

「かんばんむすめでちゅよ」

「はは、そうだな」


来店してきた男の名は「壱」

かつて「魔術師」と謳われた伝説級のプレイヤーであり、子どもたちと共にこの世界を旅してきた超一流の補助スキルを保有する年配者。

頑固な面が強かったが子どもたちにはかなり甘く、成年後見人を自負している。


「さてと、酒でももらおうか……ん?」


「金がないなら出ていけ!」

外から声が聞こえる。NPCノンプレイヤーキャラクターの声のようだ。


「なんの騒ぎだ」

――と、同時に壱が入り口に気配を感じる。



すると、ボロボロの男性プレイヤーが来店してきた。

「お金が全くなくて……もう何日も、何も食べていなくて……後で必ず支払いますから!なんでもいいから食べ物を恵んで下さい!」


「物乞いに気前よく奢る行為はどうにも気に入らなくてな。自分のことは他人に頼らず自分で何とかするんだな」

「だから、こうしてお願いを……」

「残り少ない体力だろうが、一縷(いちる)の望みに賭けない時点で甘えだ!!」

「そんな……」

壱は容赦無く叱りつけ、落ち込むプレイヤー。

そのままりゅうの方を泣きそうな瞳で見つめはじめた。

「おい、主。店を構えている以上、余計な真似はするなよ」


「……わかってるよ、とっつぁん」


ラテっちがおにぎりをにぎる。

その姿を見た壱は一層不機嫌さを露わにした。

「おい、女将。ワシを失望させるなよ」

「ちがいまちゅ!」


小さいおにぎりをいくつか作り、並べる。




今度は金物のボールを取り出した。

それを炭火の上に乗せる。


「何をしているのだ?」


「えへへ。バターをいれまちて~」

炭火で熱せられた金物ボールの中に入ったバターが溶け始めた。

「つぎはおみそをいれまちて~」

ボールの中に味噌を投入。

「おつぎはおさけをいれまちょう~」

そう云って、純米原酒を少量注ぎ込む。

「あとはゆっくりまぜまぜよ~」

木ベラでゆっくりとかき混ぜていくラテっち。


「できた~! こんどはおにぎりにぬりぬりしまちゅ」

どうやら味噌バターソースを作っていたようだ。

それを、先程作っていたおにぎりにまんべんなくぬると、炭火に網を用意し、その上でおにぎりを焼き始めた。

香ばしい匂いが店中に広がっていく。


プレイヤーはよだれを垂らしている。


「かんせいでちゅ! とっつぁん。あじみして!」

「む、どれ」

とっつぁんは焼き立ての焼きおにぎりを口にする。

「ほう、女将にしてはなかなかの味だ。美味いぞ」

「ありがと~」

「これも金貨一枚か?」

「んにゃ。これはあじみようだからいらないでちゅ」

「……いらない?」


りゅう

「とっつぁん。これはラテっちが今度新しいメニューとして出すために作った試食品だ。とてもお金をとれる料理じゃないよ」

「そうはいってもだな」

「ところで、試食品だからできれば多くの人に味見してほしいんだ。そこのお兄さん――手伝ってはくれないか?」


「……え?」

「だからさ、この焼きおにぎりを食べて正直な感想を聞かせてほしいんだ。ダメか?」


プレイヤーは大きく頷くとカウンターに飛びつき、焼き立てのおにぎりを両手で握りしめた


「おいおい、そんなに慌てて食べたら口の中火傷しちゃうぞ」


「うまい……うまいよ!! おにぎりがこんなに美味いなんて……ごめんなさい。本当に……ウグッ!」

「ほら、慌てて食べるから喉につまるんだよ。ラテっち、お水だしてあげて」

「あいよー」



「そうきたか……全く、敵わないな。お主らには」



またのごらいてんを、おまちしてまちゅ!

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